(ベルサス)
朝が訪れ、リティアは鳥の鳴く声で目が覚めた。
ベッドに起きてあたりを見たが、そこは自分の家ではなく、今まで住んでいたところではなかった。壁はところどころが汚れており、洋服の入った箪笥や鏡の置かれた机はなく、全体的に古めかしい部屋だった。だが今までとは違う一日の始まりを迎えた気分だった。
リティアは通りに面した窓を開け放った。日差しが強く当たり、通りには人が行きかっていた。街には朝の活気が訪れていた。
ベッドから降りてリティアは靴を履くと、部屋を出て階段を下りていった。昨日の老婆はいなかったが、もっと若い女がいた。
「おはようございます」女はリティアに挨拶した。
「おはよう」
「朝のコーヒーをお出ししております。いかがですか?」
「頼むわ」
昨日はわからなかったが一階のロビーにはテーブルが二つばかりあり、リティアはその前に置いてある椅子に座った。まもなくコーヒーが出された。口を付けると濃くどろどろしたコーヒーで、独特の味わいがあった。
「では行きます。どうもありがとう」
リティアは飲み終わったコップとともに部屋の鍵を返した。
「どうぞお気をつけて」
宿屋の外に出て、リティアは街を歩いてみることにした。リティアは雑踏に紛れて街を歩く喜びを感じた。今は新しい靴を履いている。この靴さえあれば疲れを知ることなく、どこまでも行ける気がした。それにしてもここは何という名の街なのだろうか?
昨夜の露店の通りは多くの人がいて、リティアはそのなかを行った。何か街の名前を示すものはないかと探した。リティアは道に立っている男が新聞を売っているのを目にした。何か知りたいことが書かれているかもしれない。だが新聞は買わず、その男に訊いた。
「ここは何という街?」
「ベルサス」男は答えた。「このまま道をまっすぐ行くと駅がある。広場は左に曲がったほうだ」
男は指を差して教えてくれた。
「ありがとう」
リティアは駅に行ってみることにした。男の言ったとおりに真っ直ぐに進んでいくと大きな通りに出て、次第に正面に建物が見えてきた。それが駅だった。駅前の広場は広々としていて、その向こうに平たく大きな建物があった。リティアは駅舎の中に入った。
路線には列車が止まっていた。この列車はどこへ行くのだろうか。駅の待合室には大きな地図が貼ってあり、地図を見ているとこの街の外にも世界があることが感じられた。
それからリティアは一人待合室のベンチに座って休んだ。その後少し眠ってしまい、目が覚めると昼過ぎになっていた。
リティアは駅から出て、また街の中に歩いた。
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