第2話 月サイド

月は人々からの感謝や気持ちを糧にして暗い夜空に明かりを与えた。


月は感情を表に出すことができず、ただ夜空に明かりを与えていた。

感情を出すのが苦手ではない、夜空を照らすには感情を抑えるしか無かったのだ。

満月はまるでのっぺらぼうのようだった。


月はある満月の夜、心の片隅にチクっと刺さる物を感じた。

それは嫌な痛みではなく、何か心が暖かくなるような優しい物だった。


そして、満月のたびに心に刺さった物はだんだんと大きくなり形になっていった。


ある満月の夜、その形は餅をついている兎になった。


月は不思議に思った。

何故、兎が餅をついているのだろうと。

月は兎に興味を持った。


満月のたびに現れる兎の影。

その影はだんだんと濃くなり、やがて感情が流れ込んできた。


そして、月は兎の気持ちに気付く。


月は嬉しかった。

口にすることが無い餅をあたしの為に一生懸命ついている兎。

一途に気持ちを伝え続ける兎。


月の心は兎の事で一杯になった。

でも、会う事は出来ない。

たとえ、会いに行ってもどの兎か分からないだろう。


月は兎に気持ちを伝えたかった。

そして、満月の夜。


月はいつもより明るく夜空を照らした。

それは月から兎へのメッセージ。


月は兎に感謝しています。

兎の気持ちはとても嬉しいです。

月も兎を愛してます。


だって兎が餅をついてくれなければ、月は感情の出せないのっぺらぼうなのですから。


今宵の月は一層明るく、兎が笑顔で餅をついている。

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