ノコリモノ・マインド
灰色の雲が日の暮れかかったオレンジ色の空に浮かんでいる。遊具や砂場の周りでは子供たちがはしゃぎまわっており、母親たちは少し離れた場所に立ってお喋りをしながらも、目だけは見守るようにして彼らの方へ向けられている。
亜紗美は高台にある公園の柵に身体をあずけ、遠くに乱立する都会のビル群を眺めながら、昨夜の出来事を思い返していた。
強烈な光が炸裂した時、これが死か、と何とも言えない
岸本に抱き起こされた亜紗美は、なかなか目を開けることができなかった。目の
岸本の説明によれば、現場にいた男たちは
昨日、岸本たちは朝一でケメ子のマンションに向かい、部屋の床に転がっていたお嬢様を確保したのだという。すぐさまケメ子を宇和ヶ亀グループが経営する病院に搬送した後、総力を尽くして原因の究明にあたり、相原道子という人物にまで辿り着いたのだそうだ。
亜紗美がなぜもっと早く助けに来てくれなかったのか? と岸本をなじると、「大変申し訳ございませんでした。これがわたくしどもの最善を尽くさせて頂いた結果でございます」と返されてしまった。
今日の昼間、岸本から亜紗美に電話があって、遠野はかろうじて一命をとりとめたらしいということだった。別にそんな連絡はいらないと言って、亜紗美は電話を切った。
相原道子。娘の、というよりは、自分の復讐にとり憑かれた女。と亜紗美は思いを
道子は罪を
亜紗美は「あなたにはわからないだろう」と言った道子の気持ちを考えてみた。娘を亡くした母親の気持ちを。大事な人を亡くすという感覚を。
彼氏を亡くすのとは違うし、両親を亡くすというのもまたそれとは違う気がする。似たような悲しみを想像することはできても、亜紗美には人を殺してしまう心理までは理解できない。
亜紗美にだって人を殺してやりたいと思った経験は何度かある。たしかにそれは道子のように、怒りや
ただ、思うことと行動に移すこととの境界線は、紙一重なのではないだろうかと亜紗美は考える。ちょうどカードの裏と表のように、ちょっとした力が働けば簡単にひっくり返ってしまう、そんな危うさを秘めた構造のようにも思える。
子供たちがそれぞれの母親に手を引かれて、公園の敷地から出て行こうとしていた。公園内の街灯にも明かりが
公園から延びる駅へと続く階段を駆け下りながら、持つべきものは本当に友だろうか? と同窓会で再会した旧友たちの顔を思い浮かべながら、亜紗美は自分の心に自問してみる。空では残りのオレンジ色が、音も無く紺色に塗り替えられつつあった。
完
ドウキュウセイ 混沌加速装置 @Chaos-Accelerator
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