第2章 目的地に到着せよ 5

  アールジェイが小さな事務所を出ると、部屋の中に涼しい空気が入ってきた。

「ところでさ、アンタさ、名前、なあに?」

 店長が、重い体を引きずりながら、僕の近くに体を寄せてきた。飲み込まれるのではないかと思い、僕は本能的に下がった。

「こ、こい・・・」

「やっだー!お店での名前。アンタの名前なんて、免許見ればわかるわよぉ!」

 店長が、僕の肩を叩きながら、そう言った。店長は、軽く叩いたつもりかもしれないが、体格に応じた力なので、一瞬で体の熱が上がるほどの痛みだった。

「あ、じゃ、ツヨシで。魂のロックシンガー、ナガグツツヨシのツヨシで、お願いします」

 僕は、痛みがこらえきれず、肩を何度もさすった。

「オッケー。じゃ、ツヨシ。今日から2週間、様子を見させてもらうわねぇ」

 アールジェイが部屋に戻ってきた。店長の耳元でささやくと、僕の隣にピタリとついた。

「アンタの教育係が来るから、待ってて。優しくていい男よ。しっかり勉強して、いいホストになりなさいよ」

 アールジェイが僕の肩を軽く叩いた。店長から叩かれた痛みがまだ残っているせいか、叩かれたことに気がつかなかった。

「あ、あの!ひとつ、聞きたいんですけど。いいですか?」

 僕は、ありったけの勇気を振り絞って、店長に聞いた。

「いいわよ?アタシの本名と年齢以外なら、何でも答えるわよ」

 店長が目じりを下げた。

「どうして、お店の名前がピンクパンティー、なんですか?」

 店長が上目づかいに僕を見た。

「アンタって見た目と違って、意外と大胆なのねぇ。ちょっと、好きになったかも」

 店長の醜い顔が僕の鼻に近づいてきた。僕は思わず、後ろに下がった。

「アタシの勝負下着がさぁ、ピンクパンティーだからよー。ガハハハハハ!」


 聞かなきゃよかった。悪夢になりそうだ。

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