第2章 目的地に到着せよ 2

「アンタ、本気なのぉ?」

 最近、テレビで見かける女装家タレントよりも体重がありそうな、明らかに女装したとわかる男が、僕の顔に息がかかるほど自分の顔を近づけた。

「は、はい・・・。職場のお局、いえ、女の先輩に、ホストに向いてるって言われたので、どんな仕事かなって・・・」

「ふうん」

 お世辞にも「ゲイ」と呼べない、油絵のような化粧を施した女装野郎は、なめまわすように僕を見た。丸坊主が、このオバケのような巨体を店長と呼んだ。

 ホストクラブの店長は、男性なのか女性なのか。僕は息苦しくなった。

 ここは、事務所と呼ばれる小さな部屋。

 この女装野郎が一人いるだけで狭く感じるほどの小さな部屋に、僕に声をかけた丸坊主の男性もいる。

「ホストに向いてるって、言われたの?」

「は、はい・・・」

「ホスト、興味あるの?」

「・・・はい」

 二人とも僕をじっと見つめていた。

 採用されるか不採用になるかのどちらかの結果がでないと、この部屋から出られそうになかった。

 ホストになれれば、クミコさんが店でどんな男と一緒にいるかわかる。

 そんな考えが一瞬、頭の中を駆け巡った。

 気がついたら女性が僕の隣にいるという、僕のイメージを壊すような仕事なんてしたくない。ホストは女性にモテるのが仕事かもしれないが、光るスーツを着たり、お酒を一気飲みしたりするのは、抵抗がある。

 だけど、副収入のためだ!

 昼間の仕事では十分な収入を得ているが、趣味の旅行を楽しむためには、もう少しお金がほしい。

 今回の依頼の報酬を考えると、ここで帰るわけにはいかなかった。

 なんとしても採用してもらおうと、僕は、精一杯の笑顔を二人に返した。

「ま、この仕事をする人間なんて、本当の理由は言わないからね。アタシはこれ以上、聞かないよ。アンタがこの仕事やってみたいって言うなら、やってみたらいいわよ。今日からね」

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