第2章 目的地に到着せよ 1
1週間後。
僕は、「ピンクパンティー」というふざけた名前の店の前にいた。
都内の繁華街といえば、華やかな夜の街のイメージが強いが、この店の周辺だけは、さびしげな感じがする。ネオンもロックも似合わない。街灯が温かく街を包む。本当の東京のにおいがするような、そんな街だ。
「ホストクラブなのに、店の名前が女性の下着って・・・」
思わず、そんな言葉が口から出てしまった。
クライアントのサラリーマンの話だと、妻のクミコさんは、この店に通っているらしい。
店は思いのほか、すぐに見つかった。ただ、クミコさんが今、店にいるのかどうかわからない。中に入れば簡単なことだが、ホストクラブに入ることに、僕はためらった。
男好きの男子、なんて思われたくない。僕は美しい女性が大好きな、まっとうな男性だ。
いくら副業とはいえ、自分の信念を曲げてまで、職務を遂行したくはない。
「兄ちゃん。なにしてんの?こんなところで」
低いしゃがれた声に驚いて振り返ると、僕より縦横ともに1.5倍ほど大きい丸坊主の男性が仁王立ちしていた。
「兄ちゃん。警察の人?じゃなかったら、警察呼ぶよ」
丸坊主の男性の顔が徐々に大きくなっていった。
「あ!あ!あ!僕っ・・・、僕は、その・・・」
僕には、この場所から逃れる適当な言い訳がみつからなかった。
「ホストに大変興味がありまして!」
自分で、自分の言葉にびっくりして、僕は動けなくなった。
「あ?」
僕と丸坊主は、微動だにせず、みつめあった。
僕は、本日一番の笑顔で、丸坊主に言った。
「ここで、働けないかな~って、悩んでました!」
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