第2章 身分を明かさず変装せよ 6
「ホリさん。先ほどはありがとうございました」
シーバは明るい声でホリさんに話しかけた。
「いやいや。私は、シーバ君に頼まれてカクテルを作っただけですよ」
ホリさんは照れながら軽く手を振った。
「ジュンコさんが『どうして私の好きなカクテル知ってたの?』って喜んでましたよ」
「そう。そりゃあ良かった。私が作ったカクテルをジュンコさんが気に入ってたって、シーバ君が教えてくれたでしょ?ジュンコさんの誕生日に作ってあげたら、喜ぶだろうなって思ってたんだ」
「ホント、ホリさんには感謝してますよ」
「いやいや。シーバ君の心遣いが、ジュンコさんの心に届いたんですよ。女性って誕生日や記念日を覚えてもらえるの、喜ぶからね」
ホリさんとシーバが笑顔で話す姿を、僕はぼんやりと見ていた。女性って誕生日や記念日を覚えてもらうの、喜ぶのか。
「ドリンクがお酒じゃないってジュンコさんに言われた時の、シーバ君の返し、最高だったね!」
ホリさんがシーバの肩を軽く叩いた。
「あ、ありがとうございます!」
シーバが深く頭を下げた。ふーん、あのセリフって最高だったのか。
「君に酔いたい、でしたっけ?よく、ああいう言葉がスラスラ言えますよね。僕には恥ずかしくてとても・・・」
僕はネクタイを緩めながら言った。突然、物音がした。
「ツヨシ!お前、おれのこと、バカにしてんのかっ!」
シーバが僕のシャツの襟を掴みかかろうとした。僕は、サッと身を引いた。
「まあまあまあまあ、シーバ君!落ち着いて!」
ホリさんが、僕とシーバの間に入った。
「彼はね、ツヨシ君はね、根が正直な人なんだよ。君のこと、彼なりの言葉で褒めてるんだよ。そうだよね、ツヨシ君?」
僕は、ゆっくりと頷いた。ホリさんがいなかったら、僕は殴られていただろう。
「す、すみません。僕は、その、シーバさんを、バカにするつもりはなく、すごいなっていう気持ちで・・・」
シーバは大きく息を吐いた。
「今日はお前、もう、帰っていいぞ。明日、また、来いよ!」
シーバは、ホリさんに軽く頭を下げると、休憩室を出た。
「初日から怒られたんじゃ、働く気、しないよねー」
ホリさんはにこやかに笑いながら、僕の肩を軽くたたいた。
「気にするなよ。シーバ君はちょっと、短気なところがあるんだ。でも彼は、真面目だし、気配りのできる、いい男なんだよ」
僕は、自分でも返事しているのかわからない声で、ホリさんの言葉に答えた。
「どうする?もう帰る?時間があるなら、カウンターから店を眺めてみませんか?」
クミコさんのことを思い出した僕は、ホリさんの申し出に乗った。
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