偽りは愛か結婚か?
「偽装結婚させられたんだ」
電話をかけてきた日本人男性の声は、少し怒っているようでした。
「オレはね、一緒になる前に、偽装結婚は嫌だよって言ったんだよ。でもさ、彼女がさ、どーしても、オレと一緒になりてーって言うから、籍入れたんだよ。オレは彼女に700万ぐらい貢いだのに、彼女からは、たった4万しか、もらえなかったんだよ。4万だぜ、4万」
偽装結婚とは、配偶者ビザ取得や日本での就労を目的として、日本人または日本に定住する外国人と結婚することです。配偶者ビザを取得すれば、日本での就労が認められるだけでなく、永住権が取りやすくなるという話を聞いたことがあります。
地道に労働して就労ビザを取るよりも、配偶者ビザを取るのが簡単だと思われているみたいです。日本人男性と結婚して配偶者ビザを取得したとたん、夫婦生活を拒否して働きに出たり、別居して新しい恋人と新しい生活を始める外国人女性がいるそうです。
「彼女がさ、家、出て行ったんだよ」
どうも、この男性の妻も、配偶者ビザを取ったと同時に、男性との生活にピリオドを打ったみたいです。
「いつですか?」
「んで、探しに行ったら、オレの友達の店で働いていたんだよ。だから、オレ、その店に行ったんだ」
私は黙って男性の話を聞くことにしました。
「金払って、店に入ったんだけど」
なんと、男性は、友人が経営するキャバクラで働く妻に会うために、客として店に入り、妻を指名し、妻の接待を受けて帰ってきたというのです!
「ああいうところじゃさ、プライベートな話、出来ないわけよ」
「奥様に、帰って来いとか、言っていないんですか?」
「彼女がさ、何飲む?って聞いたからさ、ビールかなって答えて。最近どう?って聞かれたから、仕事が忙しいって言ったんだよ」
男性は、別居する妻の働く店に何度か通ったそうです。
「オレは、彼女に尽くしたわけよ」
でしょうね。
店に乗り込んで派手な衣装の妻と大ゲンカとか、店の前で待ち伏せして仕事帰りの妻を捕まえる、なんていう話を想像していた私は、男性の「尽くした」という言葉に大きくうなずいてしまいました。
「でも、彼女は、さ」
そう話すと、男性は、ふうっと大きく息を吐きました。
男性の話によると、フィリピン人妻は、夫からDVを受けていると警察に相談し、弁護士を通して裁判所に離婚調停を申し立てたそうです。
「裁判所からの通知には、オレが生活費を入れない、日常的に彼女に暴力をふるうって、書いてあったんだ」
話しているうちに、男性は怒りの頂点に到達してしまったようです。
「もう、こうなったら、可愛さあまって憎さ百倍だからね。彼女の国で法的な制裁を与えたいわけよ!」
そういうこと、考えない方がいいですよ。
人を呪わば穴二つ、と言うではありませんか。
「離婚調停の際に、奥様からの申し立て内容を否定し、離婚に応じないとお話されれば…」
「なんだよっ!」
突然、男性が怒鳴りました。
「こっちは、法的制裁のアドバイスもらおうと思って電話したのに!」
私は、男性が続けて
「そんな言い方ないだろう!」
そう言うのだと予測し、身構えました。
「先週、あんたのところに電話したら、うちは総務だからは何も出来ない。相談センターに電話してくれって、言われたんだ。だから、今日、電話したのに。ふざけんなよ!さっさと、相談センターに電話線回せっ!」
ああ、話が理解出来ない…(+o+)
電話線回せって。日本語がおかしい。
「相談センターには電話は回せません」
私は静かに答えました。
なぜなら、あなたは今、相談センターに電話をしているからです。
「ワタシはね、アドバイスがほしいの。彼女を懲らしめるためなら、こういう方法がありますよっていう事を、教えてほしいの。フィリピンの検察庁に行って訴えなさい、とかさ、そういう事を教えてもらいたいわけ。だから、こんなに興奮してるの」
興奮?
はぁはぁって?
フィリピンで奥様に法的制裁を与えたいというのなら、フィリピンの検察庁にでも警察にでも裁判所にでも行って、堂々と奥様を偽装結婚で訴えればいい。
ただし、何をするにしても、手続きは英語だし、通訳や弁護士に頼めば費用がかかる。日本語しか話せない、これ以上金を使いたくないという男性にそんなことを説明したら、文句を言うのが、容易に想像できる。
私は、男性にどう答えてよいのか、困ってしまいました。
「こっちは1000万貢いだのに、偽装結婚だった」
あれ?
お店に通った分が、加算されてる!(((@o@))))
「それなのに…、アドバイスを求めて電話したのに、うちは関係ありませんって…。それじゃあ…、あんまりにも、言葉のキャッチボールじゃないかっ!」
キャッチボール、出来てませんけど(`□´)
言葉のキャッチボールになってないって、大きな声で言いたいのは、私のほうですっ!* ̄0 ̄)ノ
男性は
「あんたのところもいい加減だけど、フィリピン人もいい加減だなっ!」
と、ナゾの捨て台詞を吐いて、電話を切りました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます