スペルのスペらない話

 自分の名前をアルファベットで表記する。


 なんでもないことのように思われる方もいらっしゃるでしょうが、軽視出来ないことだと私は思うんです。

 アルファベット表記も、自分の名前なのだから。


 「ユリエ」さんのアルファベット表記が「JULIE」だと主張する日本人父。鼻息荒く「JULIE」表記の日本のパスポートを見せ、「YURIE」じゃないかと騒ぐ私たちを黙らせました。

 お子さんの漢字の名前は「ユリエ」と読めます。しかし、アルファベット表記だけ見てしまった私たちは、お子さんを窓口で「ジュリー」と呼んでしまったのです。このことで、父親が激怒。

「子供の名前を読み間違えるな」

「このスペルでは、ジュリーと呼んでしまいますよ」

「お前ら、バッカじゃないの?ロシアでは、JUをユと発音するんだよ。だから、娘のアルファベット表記は、JULIE。ジョーシキねーなっ!」

 父親は、勝ち誇った表情で、私たちの前から去りました。


 余談ですが、ユリエちゃんの母親は、フィリピン人です。


 申請書類に「ICHITAROU」と書いたしたイチタロウさん。ご本人を呼び出し、名前のアルファベット表記を確認しました。イチタロウさんは、鼻で笑いながら

「イ・チ・タ・ロ・ウ、ですから」

と言い、漢字で氏名が表記された運転免許証を提示しました。


 そこは、パスポートか、クレジットカードじゃない?(@_@)



 20代男性のヌマヅさんが、申請用紙に「NUMADU」と記入しました。

「ヌマヅさん。お名前のアルファベット表記なんですが…」

 私の質問が終わる前に、沼津さんは

「あ。それでいいッスよ」

と答えました。

「え?本当に、この表記でよろしいんですか?」

「い~んですよっ!それで」

 黒革のジャンパーとパンツで武装したヌマヅさん。「頭悪いなーあんた」と言わんばかりの表情で、ため息をつきました。


「あのね、ツに点々は、ヅですからっ!」


 知ってる、よ~っ!(ノ゜O゜)ノ

 

「あの~、こちらの表記は、パスポートと同じですか?」

「だから、パスポートも、ヅ、ですから!」

 ヌマヅさんは、呆れた顔して答えました。


 「づ」も「ず」も「ZU」と表記すること、ご存じですか?

 私は、ヌマヅさんのお名前のアルファベット表記は「NUMAZU」じゃないかと、確認したかったんですよねぇ…(@_@)


 ヌマヅさんと私のやり取りを聞いていた婚約者と名乗るフィリピン人女性が、窓口に現れました。婚約者は、ヌマヅさんの手書きの申請用紙を覗き込むと、突然、ケラケラと笑い出しました。

「ダメだよ~、これじゃ~。DUのUがUに見えないじゃん。DVって。だから、呼び出されたんだって。マジうける~。キャハハ~」


 どぅっひゃ~(ノ゜O゜)ノ


「わかりました。NUMADUで書類を作成します」


 その後、ヌマヅさんから「名前のスペルが間違っている」という苦情はありません。訂正もありません。

 ヌマヅさんと結婚したら、フィリピン人女性のパスポートは

「NUMADU」

になるかもしれないのに。


 お幸せにねっ!ぬまドゥ!o(^o^)o

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