今だけ「独身」ここだけ「独身」
「独身」とフィリピン人担当にも婚約者の日本人男性にも話していたフィリピン人女性。過去に日本人男性と結婚していることが明らかになりました。
フィリピンでは、「未婚」を「独身」と定義しています。離婚や死別を含めて現在結婚していない状態を「独身」と呼ぶ日本とは、独身の捉え方が異なっています。
「婚約者の方が独身だというお話だったんですが。婚約者の在留カードには、日本人の配偶者等と記載されています。ご両親はどちらもフィリピンの方だと、担当が確認しております。ということで、婚約者の方は、日本人の方と結婚していることになります。一度結婚された方は、独身と呼ばれませんので…」
女性が身分証明書として提出した在留カードが、自身のウソを暴露してしまったのです。
男性は黙って、婚約者の在留カードを覗き込みました。
「あー。そうですね!」
男性は愛想よく大きくうなずくと、表情を変えずに女性に言いました。
「結婚してたんだ」
女性は目を大きく見開いて答えました。
「…でも、名古屋だけ」
「ニセさんのこと、お父さんって呼んでたけど、前のご主人だったんだね」
「でも、それは名古屋だけだから」
男性の話によると、女性は出会ったときから、ニセを名乗っていたそうです。女性が一度だけ「お父さん」の写真を男性に見せたそうです。女性よりもかなり年上に見えたため、男性は、「お父さん」を女性の父親だと思い込んでしまったとのことです。
「でも、名古屋ではバツイチだけど、東京じゃ独身だよ!」
女性の発言に、その場にいた男性も担当も、そして私もわが耳を疑いました。
「名古屋も、日本にあります。あなたの結婚の記録が、日本にあるんですよ。あなたは日本では、過去に結婚していた女性なんです」
担当が穏やかな声で女性に説明しましたが、表情は明らかに怒りに満ちていました。
「でも…」
女性は泣きそうな顔で私を見ました。
「でも…、私、独身です。フィリピンでは…」
担当がため息をつきました。
「婚約者の方は、日本でニセさんと結婚した時に、フィリピンには結婚の報告をしていないそうです。なので、フィリピンでは独身だと言ってます」
私は男性に、女性と担当とのやりとりを説明しました。
「あー、そういうことなんですねー」
男性はニコニコしながら答えました。
「これで、やっと、彼女の言ってることがわかりました」
今度は私が、目を大きく見開いて驚きました。
「彼女、日本語話せるけど、今まで、彼女の言ってることが、全くわかんなくてね」
そんな状態で、結婚するつもりだったのかっ!
私はしばし、言葉を失いました。
「私、勝手に結婚されて、離婚された。騙されただけ。だから、独身」
突然、女性が無実を主張し始めました。
「在留カードには、日本人配偶者って書いてありますよ」
女性は、自身の在留カードをジッと見つめました。
コレは勝手に作られた、とでも言うのかなと私は予想していましたが
「私…、どうしたら、いい?」
女性が涙目で担当に質問しました。
「日本で結婚したことをフィリピンの裁判所に報告して、その結婚が離婚したことを裁判所に認めてもらってください」
担当は表情を変えず、女性に説明しました。
「え?でも、おかしいよ。だって、結婚は日本だけだから、裁判やらなくても…」
「でも、日本では結婚してましたよね?」
「…」
女性は、下を向きました。
再び男性に、女性と担当とのやりとりを説明すると
「それしか、方法がないんですよねぇ」
男性はニコニコしながら返事しました。
男性が私にフィリピン人弁護士を紹介してほしいと言いました。
数分後、フィリピン弁護士会の連絡先のメモを手に私が窓口に戻ると、2人は窓口にはいませんでした。
2人は、申請者がいなくなった待合室の長椅子に座っていました。
よく見ると、2人の間には、大人が数人座れるくらいの間が空いていました。
あれ?
アタシ、2人にまずいこと、しちゃったかな…σ(^_^;)?
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