おあとがhere we go!な話?

 フィリピン人親子が、窓口に現れました。

 母親は日本語があまり話せませんが、娘は英語やタガログ語が全く話せません。

 親子は日本語で会話していました。

「お子さんのお名前を、確認させてください」

 私は娘に日本語で質問しました。娘は、小さな男の子を抱えていました。

「申請用に記入された、息子さんのカタカタのお名前は『ユウゴ』となっていますが、アルファベットのお名前は『HUGO』になっています。アルファベットのスペルと発音が違うように思えるんですが…」

 ユウゴならスペルは『YUGO』だと思いました。

 『HUGO』だと「ヒュウゴ」と読むのかな、と思った私は、娘がカタカナを1文字書き忘れたのだと考えたのです。

「コレ、ユウゴ!ワカラナイ?アンタ、バカ?」

 母親が目をつり上げ、日本語で言いました。

 私は、母親の態度に一瞬、目を吊り上げてしまいました。が、私よりも先に、私の隣にいたフィリピン人の担当が

「お客様。このスペルですと、ユウゴとは読めませんよ。ユウゴならYUGOというスペルが一般的ですから」

と、母親にタガログ語で話しました。

 母親は、両手を大きく広げながら大げさにため息をつきました。

 私はすぐに営業スマイルに戻り、娘に息子の名前の読み方を確認しました。娘はうつむいたまま小さな声で

「ユウゴ」

と、答えました。娘は急に顔をあげて

「この名前、ユウゴじゃない発音があるんですか?」

と私に聞きました。

「え、ええ」

 私は、娘の質問に面食らいながらも

「・・・はい。HUの綴りって、ヒューと読むんですよ」

と答え、ミスコピーの裏にHUMANと書きました。

「この単語、ヒューマンって読みますよね?」

「あ、ああ。そうですね」

 娘は軽くうなずきました。

「ユーマンって聞こえるかもしれませんが、カタカナではヒューマンって書きますよね?」

「そう、ですね」

「と、いうことで、お子さんのカタカナのお名前が、ヒューゴと読めるので、ユウゴでいいのかなと・・・」

 娘は、私の話が終わる前に、小さな声で「なるほど」とつぶやきました。小さな男の子を静かに、ベビーカーに乗せると、隣にいた母親の上着の袖の部分を力いっぱい引っ張りました。

「ねえっ!話、違うじゃん!」


「お子さんのカタカナのお名前は、『ユウゴ』でよろしいんですね?」

 私が娘に問いかけても、娘は母親をにらんだまま、答えません。母親は、鬼の形相をした娘に言葉を失っている状態でした。

「ねえっ!フィリピンでは、HUと書いてユって読むんでしょう?だから、この名前(HUGO)にしたんだよ」

 娘は母親をにらみつけたまま、母親に言いました。母親は人差し指を私に向けて

「オマエ、ユウゴノスペル、カケ!」

怒鳴りました。

「このスペルで『ユウゴ』と読むって、言ったじゃん!(`ε´)」 

 娘は、申請用紙に書かれた『HUGO』を指で叩きながら、日本語で母親。

に詰め寄りました。

「コイツ、バカダカラ、ユウゴノスペル、ワカラナイ!」

 母親は指を私に向けたまま叫びますが、娘と目を合わせようとしません。

 母親は、フィリピン人職員から言葉遣いを注意されると、大げさにため息をつきました。そして、無言のまま、娘から数メートル離れました。

「じゃ、変えた意味ないじゃんっ!(`ε´)」

 娘は吐き捨てるようにつぶやきました。

 私と目が合うと、娘は軽く、頭を下げました。


「あの・・・。どうして、あのスペルにされたんですか?」

 娘の気持ちが落ち着いたところで、私は、ずっと胸につかえていたことを娘に尋ねてみました。

 娘は数秒ほど、口を一文字に結んでいましたが、ゆっくりと口元を緩めました。

 私は身構えて、子どもの母親である娘の説明を待ちました。


 同じスペルの有名人がいる。

 ○○国や○○星では、この表記でユウゴと読む

 …

 どんな言い訳でも、スマートに対処するぞ!

 かかって来いっ!(/--)/

 娘は口を開きました。

 「占いで、YをHに変えた方が画数がいいって言われたんだよねぇ」


 (゜_゜)


 どっひゃ~(ノ゜O゜)ノ


「占いですか…(´Д`)」

 私は敗北感に打ちのめされました。

 

「あのっ!この子、フィリピン人なんで、名前のスペル変えられないんですよ。でも、『ユウゴ』って発音してもらうことってできますか?」

 娘はベビーカーにいる子供を何度も見ながら、私に言いました。

「こちらは、お名前の読み方を確認しただけですので・・・」

 私は、そう答えながら、心の中でこの騒動を引き起こしてしまったことを娘に謝りました。


 アルファベットの名前でも、字画占いってあるんですかね?

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