再婚は楽婚?
赤いアロハシャツ、白いタオルを鉢巻のごとく頭に巻いた、ガタイの良い日本人男性。
男性より二回りくらいちっちゃなフィリピン人女性。
その2人が、赤いハンコが押してある婚姻届を持って窓口に現れました。
「再婚します!」
男性は、よく通る、低音の美声を部屋中に響かせました。
私は、男性が出した婚姻届が役所に未提出のものだと確認した上で、赤アロハで白ハチマキの男性に尋ねました。
「こちらの婚姻届は、役所に提出されましたか?」
「いや。ここに出せばいいって、ツレが言うから」
赤アロハ白ハチマキは、チラッと、隣にいるフィリピン人女性を見ました。
「あの。この婚姻届は、こちらでは、受理、できないんです、が……」
私は、男性の表情を恐る恐る伺いました。
「本日、相談センターに来られたのは、どういったご用件でしょうか?」
驚いた赤アロハ白ハチマキは、フィリピン人女性に微笑みました。
「オレたち、何しに来たの?」
どっひゃ~っ!(ノ゜O゜)ノ
アナタは、何もわからず、相談センターに来たんですかっ?!
女性は眉をつり上げて男性に答えました。
「ケコーン!」
フィリピン人スタッフのユミさんと一緒に、双方から話をよくよく聞いたところ、男性の隣にいたフィリピン人女性は、男性の元妻で、この女性と再婚するために、相談センターに来られたことがわかりました。
こちらへ来る前の日、2人でフィリピン大使館へ行ったところ、女性は、この男性と、その前のご主人との2回の結婚について、フィリピンの裁判所で離婚認知裁を行う必要があると、大使館の人に言われたそうです。
「大使館の人、いっつも、言うこと、コロッコロ変わる。嘘つきだよ。この前、行った時は、この紙、持ってくれば大丈夫って言ってた。昨日、行ったら、フィリピンで裁判してって。おかしいでしょう?アッタマ来たから、今日、ココ来た!」
フィリピン人女性は、まだ役所に出していない婚姻届をヒラヒラさせながら、日本語で言いました。
「この前って、いつですか?」
「5年ぐらい、前、かなぁ……」
私は、質問したことを少し後悔しました。
「お客様。昨年、離婚されてるんですね」
ユミさんの綺麗な声に、赤アロハ白ハチマキが、慌てて婚姻届を覗きこみました。
「あ、それっ!弁護士が勝手に書いたダカラ……」
女性は慌てて、婚姻届を手で隠しました。
男性は顔を真っ赤にして女性をにらみました。
「昨日といい、今日といい、同じ相手との再婚は簡単だからってお前が言うから、2日も、仕事、休んだんだぞ!」
男性の大きな声に驚いたのか、女性は下を向きました。
「大使館行ったら、フィリピンで裁判してこいって言われるし、ここじゃ、お前は、去年、他の男と離婚したって言われるし。あなたと別れてから、ずっと1人って、嘘じゃねーか。離婚してから、すぐに別の男と結婚してんじゃねーか!」
私たちの注意も聞かず、男性は茹であがったタコのような顔で、女性に怒鳴ってました。
「どーする、アタシのビザ?」
「しらねーよっ!」
「まだ、日本、いたいよ〜」
「ふざけんなっ!」
男性は、女性を残し、センターを出ました。
女性は、潤んだ目で、私とユミさんに言いました。
「ねぇ、お姉さん。アタシ、どうしたら、いい?」
「大使館が嘘つきでないことがわかりました。フィリピンで裁判するしかないですね」
私は、満面の笑みで答えました。
ユミさんが吹き出しました。
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