その相談は、よそで

「相談センターです」

 電話に出た時の話です。

 受話器から、男性の声が聞こえました。

「知ってる」

「……え?」

「だから電話したんだよ」

 受話器を持ったまま、口をあんぐりと開けている私に気づくはずもなく、男性は話を続けました

「あのさ、うちの奥さんと一緒に、韓国行くんだけど。ビザってどうすればいいの?」

「それは、韓国大使館にご確認……」

「なんだよ。それぐらい、答えてくれたっていいじゃんっ! なんで、韓国大使館に電話しなきゃならないんだよ?」

「あ、あのですね。韓国に滞在するビザは、韓国大使館が出しますので……」

「奥さん、フィリピン人なんだよっ! だから、アンタんとこ電話してんのに、そんなのも答えられないの?」

「あ……。それでしたら、旅行代理店に相談されたら」

 私が話を終える前に、受話器から男性のつぶやきが漏れました。

「こっちの質問に答えてねーじゃん。使えねー」

 男性が電話を切ってくれたので、ホッとしました。


 1時間後。

 ユミさんが話しかけてきました。

「さっき、フィリピン人の女性から、日本人のダンナと一緒に韓国行きたいから、ビザの取り方を教えてほしいって電話がかかってきたんです。旅行代理店に聞いてくださいって答えたら、さっき、ダンナが電話したら、日本人スタッフに同じこと言われたって」

 そこまで話すと、ユミさんは苦笑いしました。

「怒られちゃいました」

 私もつられて、苦笑い。

「何のための相談センターだって、女性が怒るから、言ったんですよ。あなたがご主人から暴力を受けて韓国へ逃げたいというなら相談に乗るけど、ご主人とラブラブで韓国へ行くなら、相談には乗らないって」

 私は小さな目を精一杯広げて、ユミさんを見ました。

「わかる〜?結婚記念日に韓国旅行するの〜って、ご主人の自慢話が始まっちゃって。なかなか電話切ってくれませんでした」

 私より年下のユミさんが頼もしく見えた、風が少し強い日の午後3時でした。

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