坊主が封書で上手に

 私の仕事は、窓口や電話による対応だけではありません。

 メールやお手紙のお問い合わせにも対応しております。

 窓口や電話と違い、メールやお手紙では、厳しいご意見をいただくことが多いです。


 さて、先日、一通の封書が届きました。

 「フィリピン中央情報部」という、職場に存在しない部署宛でした。

 よく「フィリピン情報館」という不動産屋さんみたいな宛名で届くことが多いのですが、秘密組織のような名称で届いたのは初めてでした。


 封を切ると、演歌歌手にもお笑い芸人にも見えるパンチパーマで背広姿の男性の写真が落ちてきました。写真の裏には

 「僧侶 幽翔美衣流華氣」

と、殴り書きのような文字で書かれていました。

 「僧侶なのに、パンチパーマって」

 私はブツブツとつぶやきながら、びっしりと文字が敷き詰められた便箋に目を通しました。


 ―フィリピンといえば、バナナです。―


「うわぁ、この人、私と一緒だぁ!」

 私は大声で笑ってしまいました。

 私は、高校時代に「人を喰うバナナ」という映画を観たことで、フィリピンという国を知りました。ということで、私も、フィリピンといえばバナナです(笑) 


 ― 週に三回買って食べてます。甘くておいしいフィリピンバナナ!―


 週に三回といわず、毎日召し上がってくださいな、フィリピンバナナ!

 

 こんな書き出しで私の心をつかんだ僧侶は、急に、語り口調を変えました。


 ―フィリピンには興味がありませんが、大統領には親しみが持てます―

 ―政治力のある大統領だと聞いています。貧富の差を埋めるには政治の力が重要です―

 ―大統領には、しっかり政治を行なっていただきたい。期待しています―


 フィリピンに興味がないと言いながらも、フィリピンの政治について口出しする僧侶。大統領への激励メッセージなのか?

 便箋をめくると、フィリピンの文字は消え、日本の天皇制批判が展開されていました。この僧侶は、フィリピンの大統領が天皇を尊敬していることをご存知ないようです。

 便箋の最後の一枚に、僧侶の主張が書いてありました。


 ―私はこの度、歯を全部抜く覚悟で政治から足を洗いました。(中略)私は堅気ですので、政治には口出しいたしません。(中略)この度、私は家を潰しました。10億円もらえば、5億円は税金で持っていかれても、残りの5億円で家を再建出来ます。―

 

 僧侶が言いたかったのは、フィリピン大統領への期待でも、天皇制批判でもなく

「10億円振り込んでほしい」

だったのです。


 便箋には、ご丁寧に振込先の銀行口座が書いてありました。

 口座名は僧侶の名前ではなく、僧侶が運営している宗教法人でした。

 10億円振り込んでくれる人がいると信じているのか!

 あっぱれ!(ノ゜O゜)ノ


 それにしても、歯を全部抜く覚悟って…(^o^;

 歯が無くなったら、口出しできないでしょ。

 あ!総入れ歯にするってことか!(^0^)

 覚悟だけであって、歯を全部抜く気持ちはないと思います。働かずに10億円もらうなら、それぐらいの覚悟は必要だってことですね。

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