ファミリーってミステリー
「わざわざ、北海道から来たんですよ!なんとかしてくださいっ!」
若いのか老けているのかわからない顔立ち、痩せているのに大きめの服を着た日本人男性が、大きな声で私に訴えました。
一昔前のオタク青年に見える男性は、外国人と思われる目鼻立ちのはっきりした小学生くらいの女の子を連れてきていました。
「僕は、この子の父親ですよ!おたくのホームページに、両親のどちらかが付き添えば、手続きできるって書いてあるじゃないですかっ!」
男性は興奮気味に話すと、その内容が記載されている紙を、押し付けるかのように、私の前に出しました。
「確かに、実の両親のどちらか、と書いてありますね。失礼ですが、タクさん(仮名)はキエルちゃん(仮名)の実のお父様ですか?キエルちゃんのパスポートはフィリピンで、キエルちゃんの名字は、フィリピンの方のお名前のようですけど」
それまで勢いよくしゃべっていた男性が、急に、歯切れの悪い話し方に変わりました。
「まだ…この子の…母親と…結婚…してなくて…。でっ!でもぉっ!僕は、この子の父親でぇ、この子と一緒に暮らしているんですよぉっ!この子が、ちーっちゃい時から、ずうーっと面倒みているんですよ!ご飯作ってるし、一緒にお風呂も入っているし!この子の母親よりも、僕のほうが、この子のこと、わかってますっ!」
男性は、金切り声で叫びました。女の子が、両手で両耳を押さえました。
「今日、キエルちゃんのお母さんは?」
私は、あえて、低い声で男性に話しかけました。
「…フィリピン…です」
男性は、叫びつかれたのか、小さな声で答えました。
「日本に戻るご予定は?」
「…しばらくは…戻って来ないかも…」
男性は、女の子を見ました。女の子は、退屈そうにあくびをしました。
私は軽く頭を下げて言いました。
「申し訳ありませんが、キエルちゃんのお母さんと一緒に、こちらにお越しいただかないと…」
「あ゛ー!も゛ー!納得出来ない~っ!」
男性は突然、女の子の前で、両手を上下に動かしながら叫び始めました。女の子は、再び、耳を押さえました。
「彼女より、僕の方が、この子のこと、よ~~~く知ってるんですよ~ぉ。なんで、僕じゃダメなんですか~?ここに『両親のどちらかが』って書いてあるのにぃー。今日、仕事休んで、北海道から東京へ出て来たんですよ~」
体を何度もねじりながら絶叫する男性。男性から離れたところで耳を押さえたまま立ち尽くす女の子。
「そこまで、父親だとおっしゃるなら、タクさんがキエルちゃんの父親だと、証明できる公的な書類は、ありますか?」
男性に負けないくらいの大きな声で私が、質問すると、男性は急に静かになりました。そして、上目遣いに私を見て、答えました。
「…この子の母親のパスポート持って来たけど、それでも…ダメ?」
なんで、フィリピンにいる母親のパスポート持ってるのっ!(ノ゜O゜)ノ
私が、男性に、子供の母親のパスポートを所持している理由を尋ねると、男性は、細かく体を揺らしながら、小さな声でぶつぶつ言いました。
「キエルちゃんのお母さん、ホントは日本にいるのでは?」
「いやフィリピン・・・。から・・・おく、て・・・頼んだ。送ってくれた」
男性は下を向いたまま黙ってしまいました。女の子が、男性の体をつつきながら「ね、終わった?」と聞きました。
ここは、お開きにしなくては!
と、私は、男性の絶叫タイムを終わりにしようとしました。
「やはり、お母さんと一緒にお越しいただかないと…」
「あ゛ーっ!」
私の声をかき消すかのように、男性が怒鳴りました。
「ここは、常識が通じないってところだって聞いてたけど、ここまでひどいとは思わなかったなぁ~(`ε´)」
え゛ーっ!(ノ゜O゜)ノ
一緒に住んでるという事実だけで、親子かどうか、わかるわけないでしょう!?
自称父親の男性が、子どもの母親のパスポートを提示しただけで、親子と認めるほど、私たちは、いい加減な仕事はしていませんっ!
そもそも、あなたの考える「常識」って、なんですか?
「わかりました…。今日は帰りますよぉ(`ε´)日本に来るように、母親に伝えますぅ」
30分ほど駄々をこねた男性は、最後まで自分が女の子の実の父親(もしくは養父)だと証明する書類を私に見せることは、ありませんでした。
「ねえ。せっかく東京へ来たんだからさ、ディズニーランド、行きたいな~」
冷ややかな目で男性と私を見ていた女の子が、突然、明るい声で男性に話しかけました。男性の返事を待つことなく、女の子は勢いよく、外へ出てしまいました。
がっくり肩を落としたまま、乱れた髪を整えることなく、男性は出口へ向かって歩きだしました。出口へ着くと、くるりと振り返り、私に向かって叫びました。
「あ゛ー!も゛ー!ショックだぁ~!うわ゛ぁ」
私も叫びたい。
あんた、あの子のなんなのさ?* ̄0 ̄)ノ
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