第8-2話 情けない姿―美玖莉
「落ち着かないし、
もう控室行っとこうかな。」
「そっか。」
私の試合は、アレックスの試合の次の次に行われることになっていた。このままこの場所でしばらく試合を見る事だってできたけど、もうすでに緊張で落ち着かなくなっていた私は、少し一人になりたくて早めに控室に向かう事にした。
「ミーシャちゃん、頑張ってね。」
「絶対勝てる!」
送り出してくれたシュウ君とアマンダが元気にそう言ってくれたから、少し力がわいてきた。私は励ましてくれるパーティーのメンバーたちともハイタッチをしながら、ついていくと言ってくれたメンバーに付き添ってもらって控室へと向かった。
控室までもう少しっていうところで、そちらの方から歩いてくるアレックスの姿が見えた。かっこいい勝ち方をした直後ってこともあってその姿が私には輝いて見えた。でも周りにいる人たちもキラキラした目でアレックスを見ていたから、気持ちは同じだったんだと思う。
私は誰よりも先におめでとうって伝えるために、まだ遠めにしか見えない彼を大声で呼んだ。
やっぱり気持ちが高揚しているらしいアレックスは、いつもより大きく手を振りながら近づいてきてくれた。それが嬉しくてついに走り出した私は、アレックスに近づくや否や「おめでとうっ!」と伝えた。
「すんごいかっこよかったよ!」
いつもなら照れて言えないんだろうけど、興奮したままのテンションが続いている私の口は自然とそう言っていた。
かっこいいなんて、言ってしまった。
言ってから後悔すると、アレックスが少し照れた様子で「ありがとう」って言ったから、それを見て私もついに恥ずかしくなり始めた。
「それとね、」
「ん?」
本当は恥ずかしさにもう逃げたいくらいの気持ちになっていたけど、でも伝えるべきことは伝えなくては。そう思ってアレックスを見ると、やっぱり凛々しくてかっこよくて、もう顔が見れなくなってしまった。
「守ってくれて、ありがとう。」
顔が見えないくらい照れてはいたけど、しっかりと伝えるべきことを言った。するといっぱいいっぱいになっている私に対して、アレックスはとてもあっさり「うん」と言った。
なんか焦ったり照れたりしてるのは、いつも私ばっかりだな…。
片思いをしてるんだからそんなことは当たり前なんだろうけど、現実を思い知るとやっぱり切なくなる。私とアレックスの距離って、近いようで本当は遠いんだろうな。
「ミーシャに教えてもらったやつ、
早速使ったんだ。」
私が一人でうじうじしていると、アレックスが話題を振ってくれた。
なんとなくそうなのかもとは思って「やっぱり」と言った。
私の適正魔法は少し難しいらしくて、アマンダやケンにも教えたけど、結局二人は習得ができなかった。
それなのにあの時ちょっと教えたくらいで出来るようになるなんて。
あんなにあっさりとやり遂げてしまうことに驚いて、私はそこでやっとアレックスの顔を見ることが出来た。
「教えてくれて、ありがとね。」
せっかく顔を見ることが出来たのに、そんなこと素直に言われたら照れてしまう。私はこれ以上恥ずかしくならないように必死で自分の気持ちを立て直して、「でもあまり使わないでね」と言った。
「私より使いこなしててほんと嫉妬しちゃう。」
これ以上使われたら、私より出来るようになってしまいそうで怖いってのは本音だった。私はそう言ってすねたつもりだったのに、みんなはそんな私を見て笑った。
「もう、なに?みんなして。」
こっちは真剣なのに。
そう思って怒ると、アレックスは全然思ってない様子で「ごめんごめん、気を付ける」と言った。
たわいもないことを話してるうちに、あの人と戦わなければいけないってことをつい忘れていた。それくらいリラックスできていたからいいってことなのかもしれないけど、やっぱり不安なことは間違いない。
冷静な自分を取り戻してそう思っていると、ちょうどその時アレックスに「アドバイス、覚えてる?」と聞かれた。
「もっちろん!
なんか勝てる気がする!」
忘れるはずがない。
アレックスは自由自在に色々な魔法を使いこなして色々な状況判断も早いプレイヤーだから、そのアドバイスって多分本当に的確だ。アドバイスがもらえただけでもすごい心強くなっていた私は、自分の気持ちを強気にするためにも元気よくそう言った。
「気がするんじゃないよ、勝てる。
落ち着いてね。」
するとアレックスは、とても穏やかな様子でそう言った。
彼の声を聞いているだけで、気持ちがなんだか穏やかになる。アレックスの声がそういう声なのか、私が好きだからそう聞こえるのかは分からなかったけど、さっきまで不安になりかけていた心が一気に満たされているのがわかって、私は本当に落ち着いた気持ちで「ありがとう」と言ってうなずいた。
「それにしてもまだ早くない?
試合この次だよね?」
アレックスの言う通り、多分試合まではもう少し時間がある。でも落ち着かないから先に控室に行くことを伝えると、アレックスもすごく納得した様子で「そっか」と言ってくれた。
「うん…。」
一人になりたくて控室に行くのに、もうすぐ一人になるって思うとなんだか急に不安になり始めた。複雑な気持ちを抱えたまま返事をすると、アレックスが「控室ではさ、」と話し始めた。
「全く関係ないこと考えるといいよ。」
「関係、ないこと?」
集中するって、これからどう戦うのかとか、アドバイスを活かしてどういう攻撃をするのかとか、そういうことを考えた方がいいんじゃないか。私はそう思っていたけど、アレックスが全く違う事を言ったのに素直に驚いた。
するとアレックスは相変わらずすごく落ち着いた様子で、「うん」とうなずいた。
「他のこと考えてると割と落ち着くから。」
彼はいつも落ち着いた様子でいるけど、そういう秘密があったのか。アレックスのアドバイスは何でも聞こうと思ってる私は「そっか」って答えつつ、それでも私は試合のことを考えてしまいそうだなと思った。
それからアレックスには私が座っていた席に座るように促して、ついてきてくれたメンバーと一緒に席に向かってもらった。ついに一人になった私は、出来るだけ気持ちを強く保つという意味でも、しっかりと地面を蹴って前に進んで控室へと入った。
「関係、ないことか。」
関係ないことを考えようとすればするほど、試合のことを思い浮かべてしまいそうだった。かと言って何も考えずに瞑想が出来るほど器用なタイプではないってのは自分が一番分かっていたから、とりあえずまだ読んでいない本のことでも考えようと思った。
最近は球技大会の準備とか今回の
あ、そういえば、篠田君はあの本読んでくれただろうか。
迷惑だって、思ってないかな。
一回別のことを考え出したら、そこからどんどん派生して意外と試合以外のことを考えることが出来た。そこから、そう言えば天音ちゃんに友達になってほしいって言えてないし、杏奈ちゃんに恋愛相談だってできてないし…。
これが終わったら、思い切ってどちらも一気にしてみようかな。
そんなことを考えているうちに、あっという間に時間が来てしまった。
アレックスのいう事は、やっぱり的確だな。
私は思っていたよりも何倍も冷静な気持ちで、誘導されるがままに入口へと向かった。
「今回もぉ~
注目の一戦でぇすねぇ~!」
それでも、ザックの声を聞いたら一気にドキドキし始めた。さっきまでの集中全く意味がないじゃんって自分で自分に喝を入れつつ、大きく深呼吸をして心拍数を整えることにした。
「それではぁ~
ミーシャさんの入場でぇすっ!」
「「わぁああああーーーーーーー!」」
ザックの声に合わせて会場に出ると、大きな歓声が会場を包んだ。
こんな私を、応援してくれてありがとう。そんな気持ちを込めて私は全員に深く礼をして、アレックスがしてたみたいに堂々と歩きながらみんなに手を振った。
アレックスみたいに、堂々とかっこよく歩けているだろうか。
そんなはずはなかったけど、あの姿をイメージしながら歩かなければ、みんなの期待がたくさん込められた歓声に押しつぶされそうだと思った。
本当は歓声って、気持ちが高まるものなんだろうな。
これは責めてるんじゃなくて応援してくれている声だって分かってはいるけど、それでもこの状況になれない私は歓声を聞くたびに弱気になっていった。
あ、みんなだ。
そんな時、ちょうどパーティーのメンバーが集まっている席の前を通過した。一人一人の声はうまく聞こえないけど、みんな大声で応援してくれている事だけは、見るだけでも伝わった。
心強い、仲間がたくさんいてくれる。
これがおわったら、やっぱり天音ちゃんには友達になりたいって言おう。そして二人に、恋愛相談をしてみよう。
こんな状況で気が付けば別のことを考えていた自分が少したくましく思えて、私はまた気を取り直して胸を張って歩き始めた。
その時、手をたたいて応援してくれているアレックスの姿が目に入った。
遠目に見ても、やっぱりかっこいいな。
そこに存在してくれているだけでなんだか安心感があるって思いながら見つめていると、アレックスはこちらに向かってグーサインを出して、何かを口パクで言った。
"大丈夫"
アレックスがそう言っているのが、はっきりと見えた。
好きな人の"大丈夫"って、どうしてこんなに効果があるんだろう。さっきまで不安な気持ちと堂々としなきゃって気持ちが交互に襲ってきて不安定だった私の気持ちが、一気に安定するのが分かった。
頑張るね。アドバイス、無駄にしないからね。
そんな気持ちを込めてアレックスに一つ大きくうなずくと、アレックスは笑顔でうなずき返してくれた。
ああ、本当にかっこいい。
今にもスキップしたくなる気持ちをおさえて、私はしっかりとした足取りで位置についた。それでもしばらく私を応援してくれる声は鳴りやまなくて、歓声を受けるってちょっと気持ちいいなって思えるくらいには、少し余裕が持てるようになっている自分がいた。
「続きましてぇ~っ!
セヴァルディ選手でぇす!」
「「うぉおおおぉお―――――っ!」」
私が位置に着いたことを確認して、ザックが今度はあの人の紹介をした。するとその瞬間に今まで私を応援するムードだった会場の声が一気に低くなって、なんとなく嫌な空気に包まれ始めた。
そんな空気を楽しむみたいに、あの人が入場してきた。こんなどんよりした歓声でも楽しそうに入場できるってことを素直に尊敬しつつ、今のいい集中を切らすことがないよう、目をつぶってアレックスのアドバイスを復習することにした。
とにかく逃げること。
水気のある物には近づかないこと。
そして、MPをたくさん使ってしまう
もっと集中して余計なことを考えないためにも、私はその三つを呪文みたいに心の中で繰り返した。
「セヴァルディ選手も大人気でぇすね~っ!
注目の一戦になりそぉでぇす!」
しばらく目をつぶって集中力を高めていたけど、ザックがそう言ったのを聞いてゆっくりと目を開けた。すると目の前にはニヤニヤしながら立っているあの人がいて、私はそれを見て自分の体に力が入るのが分かった。
会場中が、どちらかも分からない応援とかブーイングの声で溢れていた。そんなの聞いたら緊張するんだろうなって思っていたけど、声が大きすぎて私の耳には雑音みたいにしか届かなかった。
"大丈夫"
頭の中で、さっきアレックスが言ってくれた時のことを思い出した。
私は大丈夫、勝てる。シンシアのためにも勝たなくちゃいけない。
「それではいきまぁす~!
スターーーーーットッッ!!」
集中がマックスまで高まったときに、ザックが高らかにそう言った。そしてそれと同時に試合開始の合図が鳴ったのを聞いて、私はとにかく逃げるために移動をつづけた。
あの人は予想通り、毒をこちらに向かって飛ばしてきた。どこに飛んでくるのかは全く予想が出来なかったから、私は出来る限りのスピードを出して逃げ続けた。
逆にそれも予想してたって様子で、あの人は毒を余裕の様子で飛ばし続けた。アレックスはMPにも限界があるからそのうち攻撃が途切れるはずって言ったけど、本当に途切れるんだろうかって疑問を抱えつつも、逃げるしかない私は集中力を切らすことなくひたすらに瞬間移動を繰り返した。
一定の距離は保って逃げ続けてはいたけど、何度かかすってしまう事もあった。そのせいで服が少し破れたり傷が出来たりしていたけど、致命傷ではなかった。
致命傷になる攻撃を受けないためにもとにかく逃げ続けなくては。何度も集中力が途切れてしまいそうになりながらも、私は懸命にそして忠実にアレックスのアドバイスを実行した。
どのくらい時間がたったんだろう。
逃げることに必死になっている私にはそれがよくわからなくて、そんなことを考えている間に逃げなくてはと思う意識の方が大きかった。思ったよりも、あの人のMPの量は多い。
その事実に何度もひるみそうになったけど、でも次第にあの人の毒の量が減って色も変わってきているのが分かった。
もう、少し。
もう少し頑張るんだ。
私は自分で自分に必死でそう言い聞かせてなんとか逃げ続けようとしていたけど、今度は自分のMPが心配になり始めた。あの人の毒がだんだん減っているのは何となくわかったし、これ以上自分のMPを消費してしまえばかえって不利になってしまう。
そう判断した私はそこで「
私の姿が見えなくなっても、あの人は攻撃をやめようとしていなかった。でも
自分からこんなに近づくのは、初めてだった。
その間もセヴァルディは汚い攻撃を繰り返していて、こんな奴のせいでシンシアがこの世界を離れてしまったってことが、本当に許せなくなり始めた。
シンシアの、敵っ!
正直接近戦は苦手だ。
ゲームをしているってのは分かっていても、他のプレイヤーに対して殴ったりけったりは出来るだけしない様に試合をするようにしている。
でもこの人はちがう。仲間のこと、傷つけたやつだ。
私は試合ってことをいいことに思いっきり恨みの気持ちを足に込めて、私の姿を認識できていないあの人の頭を、思いっきり回し蹴りした。
その蹴りには、重力の魔法を込めてみた。
始めてやったけど、うまくいったのはあの時アレックスがやっていたのを近くで見たからだ。あの人の大きな体は私のしょぼい蹴りでも思いっきり地面にたたきつけられて、それとほぼ同時のタイミングで会場からは歓声があがった。
今まであの人はやられたふりをしたりしていたけど、今回本当にダメージを受けているってのは一緒に戦っている私が一番理解できた。
ダメージを受けたってのは本当みたいだったけど、それでも勝敗を告げるアナウンスはならなかった。
これで終わるわけないと予想はしていたものの少しがっかりしつつ、あの人が立ち上がる前にまた攻撃をしかけようとした。
…のに、あの人はもうゆっくりと体を持ち上げ始めた。
回復が早すぎる…。
私がそのことに絶望していると、セヴァルディは口から垂れた血を手でぬぐいながら、こちらをギロっとにらんだ。
「やって、くれたな。」
今まで聞いたことない低くてどすの聞いた声で、あの人は言った。ひるんではいけないってわかってながらも、私の体は自然とこわばってしまった。
やばい。逃げなきゃ。
もう一回、逃げ続けよう。
そう思った次の瞬間私の視界に入ってきたのは、青くきれいな空だった。
え、なんで…。
そして私の足があの人に引っ張られているってことを認識したころには、私は足を持ったまま地面に思いっきりたたきつけられていた。
「きゃあっ!!」
思わず、弱気な声が出た。
魔法でも何でもない攻撃をされたけど、今まで地面にたたきつけられるなんて乱暴なことされたことなくて、痛さよりも驚きで頭がいっぱいに満たされてしまった。
こわい、もう逃げたい。
弱気になってはダメだって分かってるのに、完全に私はそこで気持ちで負けていた。すぐに建て直さなきゃいけなかったんだろうけど、その時にはすでに私の上にあの人の顔があった。
「大好きなヒーローに、
見せてあげなよ。」
さっきまで怒った顔をしていたセヴァルディは、ニヤリと笑ってそう言った。そして口から透明なものを私の全身に垂らして、さげすんだ目で私を見下げた。
熱い…っ!
何かの毒をたらされて、私の体は一気に熱くなった。
このまま溶けてなくなってしまうんだろうか。その恐怖で心が満たされそうになっていると、服だけが溶けていくのが分かった。
いやだ…っ
私はそこで咄嗟に、服を着替える魔法を使おうとした。するとまたあの人はグッと私と距離を詰めてきて、「させないよ」と笑った。
「ぐっっ。」
そのまま、あの人は私のお腹を思いっきり蹴り上げた。なんとか服を着る魔法だけは使えていたいたみたいで裸にはなっていなかったけど、痛みとか恥ずかしさとか怖さでもう私は動けなかった。
「降参、します。」
まだHPがなくなったわけではなかったけど、戦う気力が完全になくなってしまった私は、すぐにそこで降参という選択肢を選んだ。
アレックスなら、こんな状況でも心を強く持って戦えるんだろうか。
もう色々な感情でいっぱいになって、歓声もブーイングもザックの声も、何も耳に入らなくなった。このままけられたりしてゲームオーバーにでもなって、いっそのこと消えてしまえばよかった。
涙と震えが止まらなくて、私はその場でうずくまるしか出来なくなった。
もう、アレックスと会えない。
こんな情けない女、あの人になんか釣り合わない。
色々な絶望に駆られていた次の瞬間、大げさにザックが「おおっっとぉおお!」と叫ぶ声が聞こえてきた。
頼むから私のこと、消してよ…。
何も悪くないザックに八つ当たりしながら心の中でそう思うと、次に私の耳に入ってきたのは、信じられない言葉だった。
「ここでヒーロー・アレックスが乱入だぁああ!」
「え…っ?」
その言葉でようやく我に返って振り返ってみると、アレックスの背中が見えた。
どうして…。
私が混乱している間にアレックスは横にいたアマンダに「これ」と言って、自分のローブを渡した。
「大丈夫?」
アマンダはそう言って、ほぼ下着みたいな姿をしてる私にアレックスのローブをかけてくれた。自分が情けなくて怖くて悲しくて一人で不安になっている私は、ようやくそこで泣くことが出来てアマンダにしがみついた。
その姿は余計情けなく見えたかもしれない。
私はこんな自分なんて見てほしくなくて、アレックスの顔は一切見れなかった。
「情けないな、お前。」
そんな時、アレックスは聞いたこともない低い声で言った。
情けないのは私なはずなのにアレックスがそう言ったことにも驚いて、私はそこでようやく顔を上げた。
すると目の前には、たくましいアレックスの背中があった。
彼は多分私にあの人の姿が見えない様に、私たちの間に立っていた。
まぶしい、かっこいい、たくましい。
私とは真逆の彼の背中が、私の目に痛いほど刺さった。
どうしてこんなにかっこいいんだろう。そしてどうして私はこんなに、ダメなんだろう。
気が付けば目からはもう涙が止まらなくなっていて、崩れそうになる私の肩をアマンダがしっかりと支えてくれていた。
「お~お~相変わらず優しいねぇ、
ヒーローは。」
そんなアレックスに、やっぱり余裕の様子でセヴァルディが言った。アレックスの背中はやっぱり怒っていたから何をしだすか分からないって思ったけど、でもそんな様子を見てアレックスは「はぁ」とため息をついた。
「もういいよお前。話す価値もないし。」
呆れているようなことを言ったけど、声はちゃんと怒っていた。
そしてそのまま振り返ったアレックスは、アマンダに「いくよ」と言って私たちを先に出口へと誘導した。
「またな、ヒーロー。」
セヴァルディの声に思わず反応して、私は恐る恐る後ろを振り返った。
すると私の目にはいつも通りニヤニヤと笑うセヴァルディと、見たこともないくらい怖い顔をしているアレックスが同時に映った。
これから何が起こってしまうんだろう。
私は自分が何をされたのかもわすれて、ここから起こる出来事にただただ震えるしか出来なかった。
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