第5話 緊張の決戦―美玖莉


球技大会は、天音ちゃんのおかげで優勝することが出来た。

私の人生で"優勝"なんて名誉なこと経験したことがなかったから、その日はさすがにお母さんに学校の話をした。


「よかったね、お友達出来て。」

「まだ友達じゃないよ…。」


お母さんはなぜか楽しそうに「ふふ、そっか」って言ったけど、まだ友達になりたいって言えていないことが私の中で引っかかっていたから、笑うなんて失礼だってムッとした。



優勝したっていう喜びだけじゃなくて、私は内心どこかで運営委員の仕事を終えたってことにホッとしていた。大きな失敗なく終われてよかったっていう余韻にひたりたいところだったけど、でも上位者闘争マスターズバトルもすぐそこに迫っていたから、ゆっくりしている場合ではなかった。



「今週だけ。」



今週だけは1時間のところを、1時間半ゲームするって決めていた。

その代わり本を読む時間は30分短くなったけど、でも大好きな本を差し置いても上位者闘争マスターズバトルで勝たなければいけない理由が私にはあった。


今日もアレックスの顔を思い浮かべつつ、どこかで会えないかなって不純な動機を抱えて、毎日訓練を一生懸命頑張った。






「ミーシャさ~ん!」

「ケン!来てくれたんだ!」



あっという間に、当日はやってきた。

前の日はまるで遠足前の子供みたいに興奮して寝られなくて、正直少し寝不足だ。でもアレックスのアドバイスを思い出して頑張って訓練したから、今回は前よりいい成績が残せるんじゃないかって自分でも期待している。


参加資格はもらえなかったみたいだけど、パーティーのメンバーが何人か応援しに来てくれていた。みんなそれぞれ頑張れって励ましてくれて、緊張はしていたけどそれだけですごく力が出てきた気がしていた。



「あれ、アレックスさんじゃないっすか?」



しばらくみんなと話をしていると、ケンがそう言った。


まだ遠くの方を歩いていたけど、間違いない。アレックスとシュウ君だ。

姿を見れたことが嬉しくて思わず大きい声で名前を呼ぶと、アレックスはいつも通りクールに片手をあげて答えてくれた。


「ミーシャ、調子はどう?」


控室に向かっているのか、アレックスとシュウ君はこちらに近づいてきてくれた。それだけでも嬉しかったのに、調子がどうかなんて聞いてくれるもんだから「うん、ばっちり!」と元気に答えた。



「アレックスのアドバイス通り特訓してたからね。」

「そっか。」



私がアドバイス通りやっていたというと、アレックスが嬉しそうに笑った。私はその笑顔が見れただけでうれしくなって、ニヤニヤとしてしまっていたかもしれない。シュウ君がどう見てもニヤニヤとしているのに気が付いて少し恥ずかしくなりながらも、そろそろ時間だったから3人で控室に向かうことにした。



控室の周りには、たくさんの参加者が集まっていた。

何となく空気がピリピリしているような気がしてすごく怖かったけど、空気だけで弱気になるわけにもいかないと思って、なんとか"ヒーローの気持ち"を作り上げようとしてみた。



アレックスもシュウ君も、私とは違ってそんな空気の中でも堂々としていた。一人だったらもしかして控室のドアを開けることも出来なかったかもしれないけど、二人はなんてことないって顔をして勢いよくドアを開けた。



控室の中は、もっともっとピリピリしていた。

せっかく気持ちを作ったはずなのに一気にそれが崩れ落ちそうになって、私は思わずグッとこぶしを握った。


「こっわ…。」


でもそこで、意外にもアレックスが小さい声でそう言った。

アレックスでも怖いって思うことあるんだ。少しうれしくなってしまった私がその言葉に小さくうなずくと、シュウ君も同じようにしていたから、感じたことはみんな一緒なんだって安心した。



部屋の中を進んでいくと、刺さるみたいな視線がたくさん飛んできた。


多分ほとんどアレックスに向けられているものだって分かってはいたけど、それでもやっぱり怖くて、私は体を縮こませながらなんとか足を前に進めた。



前を歩いているアレックスの背中をふと見てみると、それだけ視線が集まっているのに相変わらず凛とした姿勢で歩いていた。いろいろなところからアレックスの噂をする声が私にも聞こえていたから本人の耳にだって入っているはずなのに、それでも姿勢は全く崩れなかった。



ほんと、すごいな…。



アレックスを見ていたら、私が同じくくりで呼ばれていることが本当に恥ずかしくなる。でもそんな自分にサヨナラするためにも、恥ずかしくないような順位までいかなくっちゃ。


少しでもアレックスに近づくためにもまずはその姿勢をまねてみようと、私は胸を張って堂々と歩くように意識をした。



「ミーシャじゃあん。」



アレックスの背中を必死に追っていると、横から太くてガサガサした声が聞こえた。驚いてその声の方を見てみると、一度だけ一緒にクエストに行ったことがあるテンディさんがニヤニヤとこちらを見ていた。


「お久し、ぶりです…。」


彼には街で偶然出会って、声をかけられた。それからというものあまりにもしつこくクエストに誘ってくるから一回だけ一緒に言ったけど、でも下心があからさまに見えるのが本当に怖くて、みんなにももう断れと言われていた。


「元気だったぁ?

クエスト誘っても来てくれないから

寂しかったよぉ~。」

「ご、ごめんなさい。

忙しくて…。」


テンディさんは話をしながら、顔をすごく近づけてきた。

いつかこうなるんではないかって思ってはいたけど、まさかアレックスの前で会ってしまうなんて最悪だ。なんとかこの場から立ち去りたくて、「じゃあ」なんて言ってしまいたかったけど、怖くて体がこわばってしまって、会話にこたえるのでいっぱいいっぱいになっている私がいた。


するとそれをいいことに、テンディさんはもっと顔を近づけてきた。そしてとても低くて怖い声で、「忙しくても、そこのヒーローとやらとはクエストいけるんだ?」と言った。



怖い、どうしよう。



怖くて怖くてたまらなくて、私は顔を伏せる事しか出来なかった。どうにかして逃げ出したいけど逃げ出せない。ついに言葉が出なくなってただ震えていると、急に誰かに手を引かれた。


「なんだぁ?お前。」


恐る恐る顔を上げると、私の目の前にはテンディさんの顔ではなく、アレックスの背中があった。


さっきまで震え上がっていた私の心が、一気に何か暖かいもので満たされているのを感じた。アレックスは自分が盾になってうまくテンディさんの顔が見えないような位置に立っていてくれて、私の震えは知らないうちに収まっていることに気が付いた。



「僕の大切な友人が嫌がってるみたいだからさ。」



テンディさんは私の代わりにアレックスにすごく顔を近づけていたみたいだったけど、アレックスはすごくたくましい声でそう言った。

"大切な友人"なんて言ってもらったことが嬉しくて、さっきまで冷たく凍っていた私の心はそこで一気に温かく満たされた。


少し余裕が出た私は冷静にその状況を分析していたけど、テンディさんが怒りに震えているのが分かって、今度はアレックスがけがなんかさせられないかってソワソワし始めた。


するとしばらくにらみあった後、テンディさんはついに「ヒーローなんて呼ばれて

調子乗ってんだろぉ、このチビがぁ!」と大声を上げて、姿勢を低くしてアレックスの足を蹴ろうとした。



危ないっ!



私の体は反射的にアレックスを守ろうと動きかけたけど、でも私が助ける必要もなくアレックスはその攻撃を軽々と飛んで交わした。そしてジャンプしたままティンダさんの方に手を伸ばして、パチンとおでこをはじいた。



「ぐ、ぐわぁああぁぁああ!」



するとただのデコピンをされたとは思えない反応で、ティンダさんは床を転げまわった。きっと知らないうちに何か魔法をこめたんだろうけど、さりげなさ過ぎてこんなに近くで見ている私にも何の魔法か分からなかった。



アレックスはそのままふわっと床に足を下した。

そして転げまわっているティンダさんにグッと顔を近づけて、見たこともない怖い顔でにらんだ。



「今度ミーシャに何かしたら、

こんなことじゃすまないから。」



耳にはいった瞬間頭で処理されるはずの言葉は、全く頭で理解できないままぐるぐるとまわっていた。その言葉が理解できないのに周りからアレックスを褒める声だけは耳に入ってきて、私の意識はだんだんと正常に戻り始めた。



かっこいい、かっこよすぎるよ…。



私がまだボーっとしている間にアレックスが私の手を引いて先に進んでくれた。こんなご褒美みたいな出来事があっていいんだろうか。

好きな人が私のことを守ってくれて、こうやって手を握ってくれている。嬉しすぎる出来事がこんなに立て続けに起こっていいものなのかと心配するほどだったけど、深く考えるまでも頭がしっかりと回らなくて、私はただ手を引かれるまま歩き続けた。



何も考えないままアレックスに席に座らせてもらうと、アレックスはそのまま私の席の前にしゃがんで「大丈夫だった?」と聞いてくれた。目が合った瞬間に本当に恥ずかしくなった私は、失礼なことにそのまますぐに目をそらして、顔を伏せた。



「ミーシャ?」



そんな私の様子を見て、アレックスは心配そうに私の名前を呼んでくれた。

これ以上心配をかけるわけにはいかない。恥ずかしくてそのまま消えてしまいたいくらいだったけど、私は何とか顔を上げてアレックスを見た。


「大丈夫。」

「よかった。」


何とか声を絞り出してそういうと、アレックスは安心した様子で笑った。



こんなにかっこいい人と、一緒にいていいんだろうか。



ドキドキと高なった鼓動が聞こえてしまわないか心配したけど、アレックスは何事もなかったみたいに席に着こうとしたから、「ありがとう、本当に」と何とかお礼を言った。


「何かあったら何でも言うんだよ。

僕でもシュウでもいいからさ。」


もうこれ以上かっこいいこと言わないで…。

これから1年に1回の戦いが行われるというのに、私の頭の中はアレックスでいっぱいだった。一生懸命抑え込もうとしてみたはいいものの、どう考えてもしばらく心臓の音が鳴りやむ気がしなくて、アレックスの言葉にも「ありがとう」っていうので精いっぱいだった。



「最初、なんだろうね。」

「なんだろうな~。」



今にもパンクしてしまいそうになっている私とは打って変わって、なんともなさそうなアレックスは今日の話を始めた。


こんなに必死になっているのは私だけなのかと少し悲しくなりつつ、でも集中を取りもどすためにも私はその話に意識を集中させることにした。



「去年は華石フラワーストーン探しだったっけ。」



去年の初戦は、華石フラワーストーンを探すってお題だった。実は私は前にその石探しのクエストをしたことがあって、その時に群生地を見つけていたから簡単にクリアすることができた。


あのクリアのおかげで偶然ヒーローになれたと言っても過言ではなかったから、今年は初戦すら突破できないんじゃないかって内心不安に思っていた。


「宝さがしみたいで楽しかったけどね。」

「お前はいいよな、気楽で。」


アレックスもシュウ君も、私とは違ってすごく余裕そうだった。

シュウ君よりランキングが上のはずの私にはまったく余裕なんてなくて、それが悲しくて思わず少し笑ってしまった。



ピンポンパンポ~ン



「参加者の皆様は、闘技場にお集まりください。

繰り返します。

参加者の皆様は、闘技場へとお集まりください。」



相変わらず余裕そうに話す二人に何とか相槌を打ちながら会話を楽しんでいると、召集の放送がかかった。それを聞いてプレイヤーが一斉に立ち上がったことにびっくりして私は思わず肩を揺らしたけど、二人はそれでも堂々と座っていた。


「いこっか。」


何とかなくみんなそわそわして放送の後すぐに闘技場に向かっていたけど、どこまでも冷静なアレックスとシュウ君はしばらく人の波が去るまで座ったままだった。私もすぐに立ち上がってしまいたい気持ちをおさえて座っていたら、アレックスがそうやって合図をかけてくれたから、やっとで立ち上がって闘技場へと向かった。



闘技場は吹き抜けになっていて、それも相まってすごく広く見える。こんなところで戦うのかって去年も思ったけど、今年も同じことを思って身が引き締まった。


一歩一歩やっとの想いで前に進もうとしていると、少し進んだところでアレックスが背伸びをしながら、「何回来ても緊張するわ~」と言った。



え、緊張してるの?!



驚いてアレックスを見上げてみると、それに驚いてアレックスは私を見返した。



「どうした?」

「いや、アレックスでも緊張するんだって…。」



全く緊張していないんだと思ってた。

1年に1回の大きな大会でもアレックスはすごく堂々として見えたし、余裕があるように見えた。もしかして口に出してみただけかもしれないけど、"緊張"って言葉が出てくることにすごく驚いて、そのままの表情でアレックスを見つめた。



「そりゃ~するよ。

僕も気合めちゃくちゃ入ってるからね。」



全く緊張していなさそうな、いつも通りの顔をして言ったアレックスを見て、私は内心少しホッとしていた。




ヒーローでも、緊張するんだ。



私はこんなにがちがちになっている自分をすごく情けなく思っていたけど、アレックスも緊張するってことを知れただけで少し安心してしまった。

本当に緊張しているかは私にはわかるはずもなかったけど、少しは前向きに今の状況を分析できるようになった私は、少しでも緊張がほぐれるようにアレックスを真似して背伸びをしてみた。



それからも3人で軽く準備体操みたいなものをしながら話をしていると、だいぶ緊張がほぐれてきたように感じた。



パンッパンッ!



ちょうどその頃闘技場の上空で銃声みたいな音が突然聞こえたから、ほぐしたはずの私の体は一気にまたこわばってしまった。


「みぃ~なさん!

集まりましたねぇ~~!」

「「うぉおおお~!」」


そのまま空を見上げていると、プレートみたいなものに乗ったロボットがどこから飛んできた。その姿を見て、会場のいたるところから歓声みたいな雄たけびみたいな声が上がり始めた。

そんな騒がしい声にまた余裕をなくした私とは対照的に、ロボットはすごく陽気な様子でダンスをしていた。少しは余裕を分けてもらえたらいいのにと思った。


「今年もやってきました!

上位者闘争マスターズバトル

盛り上がってるかぁぁあ!」

「「うぉおおおぉぉおーーー!」」


いちいち驚いてなんかいられないはずなのに、さらに大きな声が上がったのに私はまた驚いた。でも今度は体を揺らすことなくその歓声をグッと自分の体に閉じ込めるようにして、ロボットの方を強い目線で見つめた。


「いいねぇいいねぇ。

盛り上がってるねぇ!

あっ、申し遅れましたぁ。

本日司会進行を務めさせていただきます、

ザックと申します!以後お見知りおきを。」

「「ザック!ザック!ザック!」」


今度は至る所からザックコールが始まった。

もうこの時間がもどかしいから早く始めてほしい。さっきまで一生始まるなとすら思っていた私は、全力で矛盾したことを考えていた。


「すみません、つい調子乗りました。

ではではさっそく、ルールを説明させていただきます!

今回も前回同様、

まずはサバイバル方式のゲームから始めまぁす!」

「うぉおおお!」

「そこで生き残った方で戦いあってつぶしあって

トップを決めていただきまぁす!」


そのサバイバル方式のゲームに、生き残れるだろうか。

去年はラッキーが起こったおかげでなんなく2回戦まで進めたけど、今年はまったくもって自信がない。そう思ってアレックスの顔をみると、すごくワクワクした表情をして立っていたから、気持ちで負けるわけにはいかないって気合を入れた。


「例年通り、最終的なランキングに応じて

ボーナスが支給されまぁす!

今年はなんとなんと、大放出!

トップの方には10億マジーと経験値10000をさしげまぁす!」


賞金も経験値も、去年の比較にならなかった。

優勝なんて私にはかなわない夢だけど、その他の順位のボーナスも相当高いみたいだったから、頑張るしかないって思った。


会場はそのボーナスにすごく盛り上がっていて、ザックとゆかいな掛け合いを楽しんでいるみたいだった。でも私は精神を集中させるためにも心の中で練習したことを復習しながら、サバイバルゲームが始まるその時を待った。


「気を取り直してぇ!

気になる最初のサバイバルゲームの発表だぁ!

まずはこちらをご覧くださぁい!」


ザックがそう言って取り出したのは、とても大きなモニターだった。そこにはカラフルな遊具みたいなものが映し出されていて、なんだろうと私が見ているうちにザックが「ぬるぬる障害物競争~~!!」と競技名を発表していた。


「ルールはシンプル!

皆さんにはスタート地点から同時にコースをのぼってもらい、

障害物を避けながらゴールに向かってもらいます!

先にたどり着いた32名の勝利です!」



そこまではなんとなく、コースを見ただけで理解が出来た。するとシュウ君がポツリと「だろうな」とつぶやいたから、私も「うんうん」とうなずいておいた。


「でーすーが!

コースは終始ぬるぬるしています!

詳細はいいませんが、とにかくぬるぬる地獄です!

きぃもちわるいですねぇええ!」


シンプルに、いやだなって思った。

そういう色々考えなきゃいけないのってすごく苦手だ。


でもこのゲーム、空間把握を能力とする私にとってはすごく有利なゲームであるのは間違いなかった。

勝てるって過信をしてはいけないけど、でも勝てる試合なんだから頑張るって強い気持ちは持つべきだと自分に言い聞かせて、グッとこぶしを握った。


「それではさっそく、コースに移動したいと思います!」


私がごちゃごちゃと考えているうちに、ザックが私たち全員を一気にそのコースの前に移動させた。一瞬で移動をしていたことにすごくびっくりしたけど、それより目の前に突然現れたコースが、思ったよりずっと大きいことにびっくりした。


ここからはゴールがどこにあるかもわからない。先も見えないところに私はたどり着けるんだろうか。周りが殺気立った様子で今にも飛び出そうとしている空気に、私はすっかり飲まれ始めていた。



「ミーシャ。」



いっぱいになっている頭の中に、大好きな声が響いた。

声が聞こえるだけで少し私の中に余裕が戻ってきた気がしたけど、それでもまだまだ不安な気持ちのまま私はゆっくりとアレックスの方を向いた。


自分だって緊張しているって言っていたくせに、アレックスはとても落ち着いた顔をしていた。もしかしたらそれでも緊張しているのかもしれないけど、私のそれとはきっと比にならない。


やっぱり私たちの間には大きな差があることを実感して少し悲しくなったけど、優しい顔をして笑ってくれるアレックスは、くらくらして倒れそうになるくらいかっこよかった。



「頑張ろうな。」



声を聞いただけで安心したのに、アレックスは私を激励しながら肩をポンとたたいてくれた。その優しさにもともとドキドキしていた胸が思いっきり高鳴ったけど、殺気立った空気にのまれそうになった時と違って、それはとても心地いい高鳴りだった。



落ち着こう、大丈夫だ。



もう一回自分に言い聞かせて、アレックスに「頑張る」と決意を伝えた。その言葉を聞いてにっこり笑ってくれたアレックスは、すぐに気合の入った顔になって大きなコースを見上げていた。


「さぁさぁ~~!

早速始めましょうかぁ~!

みなさん、健闘を祈りまぁす!」


しばらくすると、ザックがホイッスルを取り出しながらそう言った。その声でさっきまでざわついていたプレイヤーたちは、まるで機械にボリュームをさげられたみたいに一気に静かになった。私ももっと気持ちを落ち着けるために息を「ふぅ」と吐き出して、スタートの合図が聞こえるのを待った。



大丈夫、勝てる。

だってアレックスがアドバイスしてくれたんだから。



目をつぶってさらに集中しようとすると、やっぱり自分の心臓の鼓動がうるさかった。でも気持ちはとてもいい感じに集中している感じがして、もう他のプレイヤーのことはあまり気にならなくなっていた。



そうしているうちに、また乾いた音が鳴り響いた。



それと同時にプレイヤーがコースへ向かう背中が見えて、私もそれに続こうと勢いよくスタートした。

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