第42話 一雪への想い


「それで?聞きたいことってなんですか?」


店について席に座って早々、柳生は本題に入る。

元々宮島とは特に接点もないから、当然といえば当然のことだ。


「うん……その……。」


言いにくそうに口を曲げる宮島。

既に隠しようもないことだが、臆面もなく口に出せる程の勇気を、宮島は持ち合わせていない。


「はあ………、心配しなくても言いふらしたりしませんから。」


恥ずかしい、怖い、宮島がそう感じていることを柳生は分かっている。

分かっているからこそ、こうして相手を思い遣ることができる。


「それで、一雪の何が知りたいんですか?好きな女性のタイプですか?」


仕方なし、と言った感じで柳生は口を開く。


「そ、そんなんじゃない………こともない、けど……。」


あながち的外れでもないだけに、はっきりと否定できない宮島。

そしてその反応を見て、柳生は思わず笑みをこぼす。その笑みは次第に大きくなり、宮島にも気づかれるほどに声を出す。


「宮島先輩って、意外とイメージと違うんですね。もっとこう、しっかりしてる人だと思ってました。」


笑いと同時に、宮島に抱いていた認識を改める柳生。


「私、別にそんなつもりないし。普通の人間だもん。」


紛れもない事実。


宮島 優という人間は、普段の生活で特段丁寧に人と接しているわけではない。

ただ完璧な見た目で普通に接すれば、勝手に相手側がそういうイメージを抱くだけのことだ。


「……やっぱり一君のタイプって柊木さんみたいな大人しい子だったりするの?」


笑いを堪える柳生とは正反対に真面目な表情の宮島。

折角のチャンス。しかも柳生からそのワードを振ってきたのだ。

宮島としては逃すわけにはいかない。


そんな宮島の思いが伝わったのか、柳生は堪えていた笑いを消し去り、ふぅと一息つく。そのまま続けて口を開いた。


「正直、俺にも分かりません。大学からの付き合いですし、その間に柊木意外の彼女がいたなんて、聞いたこともないですし。」

「そう、なんだ……。」

「多分、アイツは遊びで女性と付き合うような性格じゃないんだと思いますよ。本当に自分が好きでかつ、相手も自分のことを好きでって人じゃないと付き合わないと思います。子供なんですよ、まだ。」


恋愛に関して言えば、柳生の推測は概ね間違っていない。


「あ、あと付け加えると、アイツ人の気持ちとか察するの出来ないですよ?だからどんなに好きアピールしても無駄ですよ?」

「やっぱりそう?」

「本当馬鹿ですからね。だからアピールするんだとしたら、もう直接好きって言うほかないですよ。」


はっきり言って一雪は、女性のアピールというものに疎い。

その原因は言わずもがな、女兄弟によるものだ。


「でもそれだともう告白だよね……。」


オレンジュースのストローを、歯で噛んで持て余す宮島。


「そうですけど、それからならアピールも通じますよ?」


グラスに残ったコーラを飲み干す柳生。空になったグラスにはたくさんの氷が残っている。


打開策、と言えるほどのものでもないが、確かに流石の一雪でも、好きと言われたら今までの行動がアピールだったと察するだろう。


「でも、私告白とかしたことないし、恥ずかしい。」


途端に赤くなる宮島の頬。

それも仕方ない。宮島からしてみれば、告白というものは昔からするものではなくされるものだからだ。


「それじゃあもう諦めるしかないですね。」


足で席上を移動して通路に立ち、ドリンクコーナーへと向かう柳生。


二人は今、ファミリーレストランに来ている。

財布を嫁に握られている柳生にとって、ただの恋愛相談に使える金は少ない。故にファミレスという選択は必然的だった。


「諦められないから、聞いてるんじゃん……。」


柳生が座っていた席にジト目を向ける宮島。


今の柳生の発言は一見冷たそうに聞こえるかもしれない。

だが一雪は本当に相手の気持ちを察することが出来ない。その上、自分の気持ちや思ってることも隠せない人間だから、仮に宮島以外の人をこれから好きになったとしたら、宮島は辛い思いをするだろう。


柳生はそれを分かっていたからこそ、一見冷たくも思える言葉を投げかけたのだ。


「キスだってしたし、デートだって言ってるのに……。」


異端ない事実を、口に出して並べる宮島。


宮島のことをビッチだと、一雪が勘違いしていなければ、宮島の想いは伝わったのかもしれない。


けど一雪の認識の違いが分かるわけもなく、結果として認識の違いや差が生まれた。



同じコーラをグラスに注いで席へと戻ってくる柳生。


「まぁ相談ならいくらでものりますから、頑張ってください。俺にはそれしか言えないです。」


一雪に自分の口から事実を告げるのは違うことを、柳生は何よりも大事だと思っている。


「うん。分かった。」


そうして二人は、すぐに帰るのもなんだか違う気がして、軽くではあるが夕飯を食べてファミレスを後にした。


因みに柳生は、家に帰ると嫁に問い詰められるのだが、この時はまだその事を知る由もなかった。

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