第37話 二回目のデート
「一君一君、こんなのとかどうかな?」
所狭しと店が立ち並ぶモール内。
通路ではそれぞれのブランド毎の売り子さん達が立って、通りゆく客に声をかけている。
「僕、洋服に関してはあんまりセンスないんで、あてにしないほうがいいですよ?」
渋谷駅を降りて徒歩五分。そんな好立地にあるこのモールは、主に女性向けのブランドが多く、男の俺にはあまり縁がない。
というか、初めて来た。
「大丈夫。一君にセンスは期待してないから。」
俺の心配を見事にぶった切る宮島さんに、最早怒りも湧かない。
さいですか、なら俺の意見なんて聞かなくてもいいんじゃないんでしょうか?って思うことすら野暮なんだよな。
「参考程度に感想教えてよ。」
俺の感想なんて、何の参考にもならないと思うんですけど………。
「……まぁ似合うんじゃないんですか?宮島さんなら。」
ゆったりとした大きめの赤色のフード付きパーカー。表には女の子受けのよさそうなかわいいキャラクターが描かれている。
小柄な宮島さんには、何と言うか、彼シャツ的な要素も相まってすごく似合う。
うん、普通に可愛いじゃん。その服を着て隣で寝てほしい。
「ふ~ん、そっかそっか……。」
っと、危ない危ない。
パーカーと宮島さんのコラボの破壊力に、吸い込まれるところだった。
「それじゃ、これなんかはどうかな?」
もう片方の手に持っていた服を見せてくる宮島さん。
有名ブランドのロゴが、表に堂々とプリントされてある長袖のシャツ。
「まぁ、似合うと思いますよ。」
恐らくそのシャツを着れば、間違いなくボディラインははっきり分かるだろう。
けど俺はそのことは敢えて伝えない。
だって俺は、おっぱいがあるのに隠そうとするのは、よくないことだと思っているから。
あるならあるって主張するべきだ。おっぱいが嫌いな男なんていないんだから。
「……一君、真面目に感想言う気ある?」
妄想にふけりそうな俺の脳内に、宮島さんがストップをかける。
いかんいかん、また妄想するところだった。
「ありますよ。ただ正直な話、宮島さんなら何着ても似合うと思いますし……。」
なんせ、見た目は完璧だからな、見た目は。見た目は、だぞ?
大事なことだから、そこ。
「へ、へぇ~……そっかそっか。」
途端に持っていた服を戻しに行ってしまう宮島さんに、自分の発言を疑う。
なになに?俺なんか不味い事言った?
でも特に機嫌が悪そうにも見えなかったし………本当女って分かんねぇ。
夏休み明けの英語のテスト以上に、分かんねぇな。
「じゃあ私、これ買ってくるね。」
そうしてレジに向かう宮島さんの手にあるのは長袖のシャツの服。その宮島さんの行動に、疑問を抱かずにはいられない。
え?戻しに行ったんじゃなかったの?買うつもりなかったんじゃなかったの?と。
というか、なんでわざわざシャツの方選んだんだ?これから寒くなるってのに。
けどそんな数々の疑問を宮島さんは聞いてくれるわけもなく、俺は疑問を閉じ込めて仕方なく通路へと出る。
流石土日の渋谷だけはあり、通路を行きかう人の量は会社なんかよりも遥かに多い。
よくみんな、こんな人多い所に来たがるよな。まぁ俺も実際にこうして来ているわけだから、あんまり人のことは言えないんだけど……。
「お待たせ。それじゃあ次は一君のコート見に行こっか。」
ショップから出てきた宮島さんの顔は笑顔で、しっかりとシャツが入った袋を持っていた。
「はぁ……分かりました。」
正直、このモール内に男物を取り扱ってる所なんてなさそうなんだけど……まぁいいか。
このモールに来る機会もそんなにないだろうし、今のうちに見ておくのも悪くないのかもしれない。
「ほら、は―や―くー。」
慣れていると言わんばかりに、先々へと歩いて行ってしまう宮島さんに感心する。
流石、俺とは違うな。自宅待機が大好きな俺とは。
そんなくだらないことを思いながら、宮島さんを見失わないよう必死に後をついて行った。
「一君には明るめの色の方が合うと思うんだよねー。雰囲気暗いから。」
そう言う宮島さんが手に持つコートは、片方は赤、もう片方は白。
派手すぎんだろ……社会人だぞ?俺は。てか最後の一言、わざわざ言う必要あったんですかね?ねぇないですよね?
「そうですか。僕的には黒とかグレーとか、地味な色がいいんですけどね。」
「えー、もっと雰囲気暗くなるじゃん。」
……特に宮島さんに悪気はないんだろうけど、もう俺には嫌味にしか聞こえない。
何?俺に何か恨みでもあんの?
「うーん……せめてこの明るめのグレーかなぁ。」
宮島さんが取り出したそのコートは、どちらかというとねずみ色っぽいグレーで、なんかおっさんくさい……。
それはないだろ、それは。
「ちょっとそれは……ないですね。」
ちょっとどころか、えっとない。
おっと、つい田舎言葉が出てしまった。
「あんまり暗すぎると、陰湿に見えるよー?ただでさえ一君って陰湿そうだし。」
絶対に俺には選ばせないと言う強い意志を、宮島さんの言葉の端から感じる。
だ・か・ら、事あるごとに俺のことディスるのやめてくれませんか?流石の俺でも傷つきますよ?
「とにかく、それはなしです。絶対なしです。」
「じゃあなんだったらいいの?一君は。」
呆れた顔で宮島さんはコートを棚へと戻す。
最初から言ってるじゃないですか、暗めの色って。
俺の話聞いてる?
「まぁ、今日特にこれっていうのもないんで、今度自分で買いに行きますからいいですよ。無理に買うのも違いますし。」
無理して選んで買ったとしても、結局使わなかったらただの無駄金だし、そこまで俺の懐に余裕があるわけでもない。
結論、今日は買うべきではない。
「えー、つまんな。」
なになに、今ちょっと本音が漏れたよ?宮島さん。
最近俺に対しての猫かぶり、雑になってきてない?
「はは……。」
思わず苦笑いしちまったじゃねーか。
「……次、どーする?」
会話も切れ切れに、話題を探そうとしていた矢先に宮島さんが口を開く。
次?次って……次?
普通に帰ればいいんじゃないの?
「……まだどっか行くんですか?」
俺としては、もうお出かけ気分も充分味わったから、家帰ってのんびりしたいんだけど……。
「当たり前じゃん。まだお昼なんだし帰るわけないじゃん。」
宮島さんの当然と言った顔に、失念していたことを思い出す。
そうですか、そうでしたか、そうでしたよね。宮島さんが俺の望み通りにしてくれるわけなんて、なかったですよね。
「……どこか行きたいところありますか?」
もう全てを宮島さんに任せよう。俺はイエスマンとして、ただただそばをついて歩くだけ。
うん、それがいい。
「う~ん……映画とかは?」
「却下です。」
前言撤回。
どうせまた、くだらなない映画を見るつもりなんだろ?
あんな無駄金、俺はもう二度と払いたくない。
「それじゃあ………。」
行き先を考えている途中に、お腹の音が綺麗に聞こえる。宮島さんの、お腹の音が。
その光景に内心少し笑ってしまう。
間抜けというかなんというか、お腹の音まで可愛く聞こえるもんなんだな、宮島さんの場合だと。
「……ご飯、食べに行きましょうか。ちょうどいい時間ですし。」
「う、うん。そうだね……。」
流石の宮島さんも少し恥ずかしかったのが、態度から伺える。
顔、赤いですよ?気づいてますか?
「それじゃ、行きましょうか。」
すかさず一雪の手を握る宮島さん。でも顔は下を向いていて、まだ少し赤い顔を隠している。
なんだなんだ、自然体の性格でも可愛い所あるじゃないか、見直したぞ。そういうところ、もっと見せてくれた方が俺的には好みだぞ。
と内心でアドバイスをしながら、握られた手を特に離すこともなく、俺は宮島さんを連れて渋谷でも有名なハンバーガーショップへと向かった。
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