第16話 流れ出した運命と傍観者の俺

「それじゃ、明日10時だからね。遅れたら駄目だよ?」


時刻は既に20時過ぎ。

あれから流し込んで何とか雑草を乗り越え、宮島さんを見送るために駅に来ていた。


「はい。分かりました。」


遅れるどうこう以前に、そもそも行きたくないんですけど…。


「うん!よろしい。じゃまた明日ね。」

「はい。お疲れ様でした。」

改札を超えても笑顔で手を振る宮島さん。傍から見れば、すごくうらやましい光景なんだろうけど俺は違う。


俺にはあんなの手に負える気もしないし、そもそも負いたいとも思わない。

何度も重ねて言うようだけど、俺は本当に今はそういう感情はないんだ、本当に。


「はは……全くおもしろくねぇ。」


宮島さんはなんでこんなに絡んでくるんだろうか?

俺なんか別に特別かっこいいわけでもないし、お金を持ってるわけでもない。そんな俺に、わざわざ絡んで宮島さんが得られるメリットってなんだ?


「本っ当、女ってわけわかんねぇ。」

考えようと試みるも、いかんせん雑草を食べるときに酒を利用したせいで、頭がぐるぐるする。


流石に少し飲みすぎたかもしれない。


「……っはぁ……明日のために早く帰って寝るか。」


そうして俺は自分の家に向けて足を進めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


宮島さんとの待ち合わせ場所で、今にも振り出しそうな空に自分の心を重ねる一雪。


何の因果でこんな天気の微妙な日に俺が外に。傘、持ってきた方がよかったかな?

天気予報見ておくんだった。


「あ、いたいた。一くーん。」


そんなに大きい声で俺の名前を呼ばないでほしい。宮島さんみたいな可愛い人の待ち合わせ相手とか、みんな注目するに決まってるだろ。

そこんところ理解してくれ。


「ごめんね。待った?」

ほんのり色づく頬に艶めかしい口元。一丁前に化粧してきてんじゃねぇよ。会社の時の化粧と全然違うじゃねえか。


「いえ、大丈夫です。」


たくさん待たせて頂きましたけどね。


「嘘つき。本当一君って、嘘下手だよね。」


待ってませんよ、ていう気遣いの嘘を見破って、しかもそれを指摘するのは違うんじゃないか?嘘つかせたくないなら待ち合わせの時間守ってほしいんだけど。


「はい、そーですね。」


断られてないだけありがたいと思ってほしいんですけどね、俺は。


「一君の嘘も見破ったところで、そろそろ行こっか。」

「何も聞いてないんですけど、結局今日はどこ行くんですか?」


こんな天気模様だ。あんまり外は歩きたくない。


「それはまぁ、着いてからのお楽しみってことにしとこうよ。」


いつの時代の言葉だよ。そういうのはもう古いぞ?


「はぁ、そうですか。」


「そんなことよりさ、一君の今日の服、あんまり似合ってないね。」


無理矢理連れ出されて待たされた挙句、それですか。はぁ、さいですか。なんかもう反論を考えるのもあほらしくなってきたよ。


「宮島さんは何ていうか、やっぱり服も可愛いんですね。」


白のトップスに淡いピンクのスミニスカート、そこに黒のタイツ。

至ってシンプルな服装だけど、それでも宮島さんが着れば可愛く映る。

流石と言うべきだな、そこだけは。


「それって褒めてるの?」

「褒めてますよ。結構マジで。」


この服を仮に西条さんとかリーダーが着たら、こうはならないだろう。


「ふーん……そっか。」


あれ?いつもみたいに一言二言ないんですか?もしかして喜んじゃってますか?


「な、なに?なんでそんな笑ってんの?」

「いや、なんでもないです……。」


笑いを堪えきれない。そんな反応されたら笑うに決まってるだろ。


「嘘、絶対私のことで笑ってるでしょ?」


それ以外にあり得ないだろ。


「いえ、違いますよ……。」

「やっぱり笑ってるんじゃん!」

「だって……あんな反応するなんて思ってなかったですし……。」


駄目だ、堪えられるわけがない。


「あぁ~あ、折角私とデートしてるのに、そういうことするんだ。」


…………デート?誰と誰が?


え、もしかして俺と宮島さんが!?


「え……ええ!?」

「なに?嫌なの?私とデートするの。」


嫌というか、普通デートだなんて思えるわけないだろ。俺は強引に連れてこられてるんだし。


「い、いやぁ、デートだったんですね。今気づきました。」

「えぇ?普通は気づくでしょ。」

「そうですかね……。」


誘い方も強引なら、俺の意見も全く聞こうとしなかったのに?


「一君って、なんていうか本当、馬鹿だよね。」


いや、俺は馬鹿じゃない。決して馬鹿じゃない、と思う。うん……。


「あ、見えたよ!今日のデートの場所。」

そういう宮島さんの視線の先に見えるのは映画館。


定番も定番だな、宮島さんだけが思ってるデートの。


「映画、ですか。何見るか決めてるんですか?」

ここ最近の新しい映画事情は、正直詳しくない。


あ……そういえば俺、まだあの映画見てなかったな。西条さんに勧められたあの映画を。

面倒くさいけど、見ないわけにもいかないし、今日帰ったら見るか。


「うん。私が好きだった漫画が実写化されてて。」


うわぁ……実写化という単語からは、爆弾の雰囲気しか感じないんだけど。


「実写化されてるってことは、結構有名なんですか?」

「うーん、どうなんだろ。私が漫画読んでる頃はそんなに人気なかったと思うけど……。」

尚更爆弾の雰囲気しかしないぞ、その感じだと。


脚本家が居ないのかは知らないけど、今時本当多いよな、実写化。正直成功したのなんてほとんど聞かない。


「へぇ~……まぁあんまり期待しないで見ます。」

「連れてきた人間にそういうこと言う?普通。」


あぁ、連れて来たって自覚はあるんですね。よかったです。


「ま、まぁそんなことより行きましょうよ。チケットまだ買ってないんですよね?」

「買ってないけど……。」


誤魔化す様に先導して前を歩く。宮島さんは……少しご機嫌斜めかな?


そうして俺と宮島さんはチケット売り場へと向かった。

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