第14話 見当違いの間違い

「さてと、仕事しますか。また後でね一君。」

「はい。」


ふぅぅぅぅ……緊張した。俺、変なことしてないよな?


「やっぱり、顔だけ見れば圧倒的に断トツで可愛いんだよなぁ~……。」

宮島さんが席に戻っていくの確認して、改めて可愛さを再確認する。


いやまぁ?宮島さんとの未来なんてあり得るわけがないし、絶対にないってことは分かってるんだけどね。

それでもなんかやっぱり、改めて宮島さんは可愛いんだと理解してしまう。恋愛する気もないし、したいとも思ってないんだけどね。


でもそれでも、出会い方が違えば、もう少し早く出会っていれば、多分俺は間違いなく宮島さんの事を好きになっていたと思う。

そう思えるぐらいに、宮島さんは可愛い。なんでこんな会社にいるのか不思議なくらいだ。そこいらの女優なんかよりはるかに可愛いぞ?


「本当、あの性格知ったら、みんなびっくりするだろうな。」


唯一の欠点?欠点と言っていいのか分からないけど、あるとすれば間違いなくあの性格だろう。

まぁ今俺に恋愛する気がないからそう思えるだけで、実際は欠点なんかじゃないのかもしれないけど。ていうか多分そうだろうな。宮島さんの本質はただのかまってちゃんだろうから。


「ま、俺には関係ないことだな。」


仮に俺が恋愛する気になっても、宮島さんとそうなりたいとは思わないだろう。

ああいう性格の子は多分だけど、自分の思い通りにならない男に構ってほしいだけだろうから。


「さてと、仕事しますかぁ~。」

椅子に重たい腰を下ろす。


仕事はまだまだある。今日はもう定時まで仕事しなきゃいけないのは確定だろうな。


そうして俺はまた改めて、自分の溜まっている仕事に目を向けた。




「おっつかれぇい!どう?終わった?」

元気な様相で肩を叩いてくる宮島さんに、俺はいつも通り嫌悪感を覚える。


「あとちょっと残ってますけど、まぁこれぐらいなら来週にでも終わりそうですね。」


結局時間内に完全に片付けきることは出来なかった。けど、大分終わった。

残っている仕事は、あと一時間程度で終わりそうだ。


「じゃあもう終わらせてご飯でも行かない?」


え、なんで?

宮島さんとご飯に行く意味も理由も分からないんだが。


「折角の土曜日なのに家でゆっくりしなくていいんですか?」


俺はしたい!おもしろくもないテレビを見てのんびりごろごろしたい。


「う~ん、家帰っても一人だし、だったらね。折角だし。」


いやぁ、俺は宮島さんのおもちゃでもなければ執事でもないんだけどなぁ……ただの先輩後輩ってだけで、そこまで相手するもんなのかなぁ。


「はぁ……まぁいいですけど。」

結局俺は断りきれない。まぁもう、今更か。


「本当!?じゃあさじゃあさ、気になってたお店行ってもいい?」


別にもう、何でも構わない。俺は意識を沈めて気持ちを押し殺して付き合うだけだから。


「いいですよ。僕、そんなに好き嫌いないですし。」


そんなにだぞ?嫌いなものがないってわけじゃない。俺だって人間なんだから嫌いなものの一つ二つはある。

どこの国の料理かは知らないが、あのパクチーって料理だけは何があっても好きになれない。


「OK!今更拒否権ないからね!」

拒否権って。


宮島さん、あんた俺をどこに連れて行こうとしてんだよ、場所を言ったら拒否するようなとこにでも連れて行く気なのかよ。


「よかったー、一緒に行ってくれる人居て。多いんだよね、パクチー嫌いって人。」

――――――!!!!!


ちょっと待ってくれ。いくらなんでも綺麗にフラグ回収しすぎだろ。どうしたらこんなに見事に、ピンポイントで俺の嫌いな食べ物をチョイスできるんだよ。


もしかしてあれか?知っててやってんのか?そうなのか?なぁ、そうなんじゃないのか?


「パクチーはちょっと僕も………。」

「なに?」

城戸さんと似たような、威圧の笑顔の宮島さんにその先の言葉を失う。


はい、そうですよね。今更拒否権ないって言ってましたもんね。

せめて何を食べに行くのかだけでも聞いてから、返事すればよかった。本当俺は、つくづく運がない。間違いだらけだ。


「いえ、なんでもないです。」


覚悟を決めるしかない。あの雑草を食べる覚悟を。


「うん。それじゃあ行こっか。」

「はい。」


こうして一雪は、宮島さんと二人きりでディナーとなったわけだが、当の一雪はパクチーを食べないとないいけないことに頭を悩まし、それ以外のことなんて何も考えていなかった。

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