第7話 小さいながらも歯車は動き出す
「ほら二人とも着きましたよ。」
城戸さんと西条さんと別れてから、タクシーに乗ること20分。
俺の家に到着した。
宮島さんは寝たふりをして自分の家の住所を言わないし、九重リーダーは寝ていて起きないし……。
城戸さんから命令された以上、無下にするわけにもいかないので俺の家に連れて来たってわけだ。
「ん~…。」
嘘つき居眠り姫の宮島さんが目を覚ます。
全く、本当に困ったもんだ。
「リーダー、起きてますか?」
「……。」
一応確認するが、やっぱり反応は無い。気持ち良さそうに寝息を立てている。
「仕方ない、な。」
リーダーの体を優しく抱き上げる。
起きない以上は仕方ない。
とそこで持ち上げて気づく。
思いのほか、軽い。これだけ長身なのに、どうしたらこんなに軽くなれるんだ?
「いいなぁ、私も抱っこしてぇ~。」
宮島さんは、俺をからかう事が出来るなら、タクシーの運転手の目なんて気にならないとでも言うのだろうか?
俺だったら恥ずかしくてできないぞ、そんな真似。
「手ふさがってるから、無理です。ちゃんと自分の足で歩いて下さい。」
「けち~。」
ケチだと!?ここまで面倒を見ている俺がケチだと!?
「部屋に入ったらアイス上げますから、お願いします。」
「それは、私だけ?」
「宮島さんだけにです。」
「仕方ないなぁ、歩いてあげる。」
にっこり笑ってようやく立ち上がる宮島さん。見た目だけは可愛いので、思わず騙されそうになってしまう。
駄目だ駄目だ、こいつは男をからかって遊ぶ悪女なんだから。
「ていうか、意外といいところ住んでるんだねぇ、一君って。」
タクシーを降りた先の目の前にあるマンション、もとい一雪の住むマンションを見上げる宮島さん。彼女がそう感じるのも無理は無い。
なんせ俺が住んでいる家は、元カノとの結婚を前提に購入したマンションだからな。
「まぁ、いろいろとありまして…。」
頼むからそれ以上はつっこんでくれるなよ?その先は、爆弾だぞ?
「もしかしてお坊ちゃん?」
やっぱり聞いてくるか、そうですよね。聞いてこないわけがなかった。
「いや、そんなことはないです。普通にローン組んで買ってますし。」
「ふーん……。」
おっと珍しい、今ので納得したのか。
なんか、意外だな。もっと突っ込んでくるもんかと思ったけど……いや、突っ込んでほしかったわけではなくて、何というか………まぁいいか。
「まぁ、とりあえず入りましょうか。」
リーダーをこのまま抱きかかえておくのも、そろそろ限界だ。
「えー、一君のエッチ。女の子二人連れこんで何する気ぃ?」
甲高い声でわざとらしい反応をする宮島さんに、抑えていた気持ちがふつふつと燃え上がってくる。
あぁ、宮島さんは人を怒らせる天才だな。その口をひっぱたいてやりたい。
「何もしませんよ。それにそういうの、今は興味ないんで…。」
「えぇ~、そんなこと言って実は…とかでしょぉ?」
「本当に興味ないんで…。」
何回も言わせないでくれ。興味ないって言ったら興味ないんだ!
「うっそだぁ。一君てまだまだ……。」
「なんもしませんって言ってるじゃないですか!!」
あまりのしつこさに、思わず声を張り上げてしまう。
―――――――……あ、すみません。決して怒ってるわけじゃなくて………。」
「………ごめんね、なんか。」
空気が固まっていくのがひしひしと分かる。
やっちまった……。
「き、今日は帰るね。」
一雪の家を目の前にして、どこか違う場所へと小走りで去っていく宮島さん。それを俺は見送るだけ。
「……まぁいいか。別にどう思われてもいいし。」
帰るのなら、別に引きとめたりはしない。
元々面倒なんて見たくなかったし。
「っぇくし。」
酒に酔って寝ていても、寒さは感じるらしいのか、可愛いくしゃみをして見せるリーダーが少しだけ、本当に少しだけ可愛く見えた。
これはきっとあれだな、リーダーの今の感じが子どもみたいだからだな。
自分の気持ちに納得をつけて、リーダーを抱きかかえたまま自宅へ向かった。
「そっか、そういえばそうだったな……。」
家に帰り、部屋の明りをつけて思い出す。元カノの荷物がまだ残っていることに。
「さてと、とりあえずリーダーは俺のベッドで寝かせるとして…。」
俺はどこに寝ようか。
ソファの上?いやそれはダメだ。だってこのソファ元カノのもので、勝手に触っていいわけじゃないからだ。勝手に触ろうもんなら、何を言われるか分かったもんじゃない。
「……まぁ床にでも寝ればいいか、とりあえずリーダーを……。」
腕が限界だ。いくら軽いと言っても、いつまでもは無理だ。
寝室に向かう。もちろんそこには、誰もいない。
「よいしょ、っと…ふぅ。」
寝顔だけを見れば、リーダーもなかなかにして可愛い。まぁもともとイケメンの男と見間違えるくらい綺麗な顔立ちをしていたし、今更か。
「んん、離しちゃダメ。」
「え、ちょっ、ええ……。」
服の裾をリーダーに引っ張られ、油断していた一雪はリーダーに抱きかかえられるようにして、ベッドに倒れ込む。
「はーなーさーなーいー。」
「ちょっ、これは流石にまずいって。」
寝ぼけたリーダーと違って、こっちは正気なんだ。こんなに密着するのは、流石にちょっと…。
「お、女のくせに力強すぎんだろ……。」
離れようと試みるが、リーダーはそれを許してはくれない。
「んー…だ~めっ。」
完全にリーダーの顔は綻んでいるのに、それでも俺を抱きしめる力は弱まらない。
どっからこんな力が出てんだよ、本当に女か?
「僕は子どもじゃないですって。い、いかげん、離れてください!」
必死に抵抗するが、それでも尚、リーダーは一雪を離そうとはしない。
―――――――いいから、私に任せろ。」
突然、今までの酔っぱらい言葉とは違い、はっきりと喋り出すリーダー。その口ぶりに思わず思考がショートする。
「え……。」
「な?分かったら私に任せろ。」
頭を優しく撫でてくるリーダーの顔が見れない。いや、見れないんじゃなくて見ようなんてできない。
だってあんなに………。
「あ、あの…。」
何が何だか訳が分からない。一体どこから正気なんだ?
「ん?どうかしたか?」
「……リーダーはどういう考えでこんなことを?」
「いろいろ私にも思うことはあるんだよ……。」
それ以上をリーダーは話そうとせず、流れるままに頭を撫で続ける。
というか、もし酔ってなかったんだとしら……だめだ!思い出すのはやめよう。
精神衛生上、良くない気がする。
「とにかく、今は寝ろ。いいな?」
「……それは、命令ですか?」
「あぁ、命令だ。」
「分かりました……。」
寝ろと命令されるも不思議なことに嫌気は無く、自然と受け入れるように眼を閉じる。自分でも驚くぐらい自然に。
「本当、いい子だな一君は…。」
すんなり眠りについた一雪を見て、微笑むリーダー。そのリーダーの言葉を最後に意識が遠のいていいく。
元カノと別れてからは、毎日のように眠ることが苦痛だった。
けどこの日は久しぶりに、本当に久しぶりに、気持ちよく眠ることが出来た。
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