第6話 突然のパワハラ

「おーそーい。西条とトイレで何話してたんだぁ?んー?」

席に戻るや否や、既に酔っぱらっている九重さんにからまれる。しかもいつの間にか俺の席の隣に移動してきている。


おいおい、あんたもかよ。勘弁してくれ本当。


「もう酔っぱらってるんですか?リーダー。」

「リーダーとか辞めろぉ、固っ苦しいだろぉ?」

席に座る一雪のシャツを引っ張り、自分に近づけるリーダー。


あぁ、駄目だこいつ。完全に酔っぱらってやがる。


「リーダー、飲みすぎですって。ちゃんと水飲んでますか?」

「水なんか飲めるかぁ。酒だ酒。」

リーダーの吐く息吐く息全てが酒臭い。


どうしたら、仕事の酒の席でここまで酔えるんだよ。


「ちょ、近いですってリーダー。」

「んん~?」

酔っぱらったリーダーは、俺の顔をすぐ目の前まで引きよせているのを気づいていない。


いや、気にしてないだけか。なんにせよ、近すぎる。


「ちょっと、リーダー!」

必死に離れさそうとするが、努力もむなしくリーダーはそのまま俺に覆いかぶさろうとしてくる。


あ、やばい………と、思ったその時、リーダーの体中から力が抜け、そのまま俺の体に寄りかかるようにしてなだれ込む。


「…ふぅ、危なかった。」


一瞬まじでキスされると思った。初っ端から飛ばしすぎだろ、リーダー。


「あ、あの城戸さん。リーダーどうすればいいですかね?」

「ん?一君が面倒みたらいいんじゃないかな?」

さらっと笑顔でかわす城戸さんが、悪魔に見える。


いや、普通そこはあなたの出番でしょうが!


「いや、僕にはちょっと……。」

「大丈夫だって。一君面倒見よさそうだし。」


そういう問題ですかね!?俺はすっごい迷惑なんですけど?


「い、いやぁ僕には少し荷が重いって言うか…。」


重いんです。俺にはこんな役目、果たせません!!


「酷いなぁ一君は。女性の事、重いなんて言っちゃいけないよ?」

「そーだぞ。女性は軽いんだから!」

城戸さんの言葉に同調して、私は軽いんだと言わんばかりの宮島さん。


俺、体重の話してませんよね?頭腐ってるんですか?


「とにかく、九重リーダーの面倒は一君が見ること、いいね?」


それは命令なんでしょうか?


「いやぁ……。」

「いいね?」

「はい…。」

圧に、城戸さんの笑顔の圧に押されて受け入れてしまう。


くそ、結局命令じゃないか。なんで俺はこうも損な立場になるんだろうか。


「いいなぁ、私も一君に面倒見てもらいたぁい。」

そんな嘆く俺なんかお構いなしに、宮島さんは俺をからかおうと突っかかって来る。


いいからお前は黙って飯でも食ってろ!


「いいね。おもしろそうだし、一君。宮島さんの面倒も見てもらえるかな?」

いやいやあんたがそんなこと言うなよ。しかもそれも命令だろ?


「…ちなみに拒否権は?」

「ん?」

その笑顔は威圧ですよね?そうですよね?城戸さん。




「……分かりました。」

「やったー!」

途端に喜ぶ宮島さんにうんざりする。


はぁ、本当なんだって俺がこんな目に…。


「どうかしたんですか?」

何をしていたのかは知らないけど、こっちは西条さんが居ない間に大変なことになってますよ。


やっぱりもう少しだけ我慢して、西条さんの話に付き合っていれば良かった。ツイてなさすぎんだろ、俺。


「ん?いや一君が、九重リーダーと宮島さんの面倒を見たいって言うからさ、お望み通りお任せしたんだよ。」

当たり前の事実のように話す城戸さんの言葉に耳を疑う。


おい、何言ってんだお前。お前が命令したんだろうが!!


「へ、へぇ。楽しそうですね、一さん。」

「は、はは、まぁ…。」

苦笑いをする西条さんの目は、完璧に軽蔑の気持ちを表現している。


まぁ、そりゃそうなるわな。俺だって軽蔑する。


先行き不安なメンバーに、自分の役回りを恨みつつ、今回の飲み会はお開きとなった。

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