第5話 個性の強いメンバー達

「それでは、絆プロジェクトの打合せを始めます。宜しくお願いします。」

「「お願いします。」」

先程喫煙所で会ったリーダーの号令と同時に打合せが始まる。


「それじゃあまずは自己紹介から、私は九重 つばき、このプロジェクトのリーダーだ。よろしく。」


ま、リーダーの事はさっき知ったんで、今更何も思わないですけどね。俺は。


「後は順番に城戸君から…。」


「はい、僕は営業一課の城戸きど 二介にすけ、サブリーダーを務めさせていただきます。よろしくお願いします。」


爽やか好青年、そんな印象がぴったりの彼。

スーツを着るための体型と言っても過言ではないほど、すらっと伸びた足。短く整えられた髪に切れ長の一重は、どこかのイケメン俳優を彷彿とさせる。


その上、笑顔も爽やかとか………俺の嫌いな人種だ。


「次は宮島さん。」


「はい、営業事務の宮島みやじま ゆうです。よろしくお願いします。」


愛らしい、その言葉が良く似合う彼女。

背は低く、それでいて顔も小さい。ほんのり明るい茶髪は、小さい顔を囲うように整えられている。

ショートボブって髪型だろうか。知らんけど。


なんにせよ、今回のプロジェクトメンバーで一番可愛らしいのは確かだ。


「次は、西条さん。」


「は、はい!け、経理事務の西条さいじょう 紫音しおんです。よろしくお願いします……。」


おろしたら肩まであるんじゃないかって、思ってしまうほどの長い黒髪をシュシュで束ねている彼女。眼鏡をかけている彼女。

その至って普通で平凡な容姿に、あの黒髪ロングは少しだけ似合わない気がする。黒髪ロングはキャラで立たせようと思ったのだろうか?


だとしたら失敗だな、元々暗く見える雰囲気が更に暗く見える。


「最後に一君。」


来た、とうとう俺の番が。


「はい、技術一課の一 一雪です。よろしくお願いします。」

物珍しそうな視線を向けて来るメンバー達。


そんな目で見たって、特徴なんか何もないぞ?


「この五人で進めていくから、改めてよろしく。」

「「はい。」」


自分だけ明らかに違う気がする。少なくとも俺の同期は一人もいないし……どうしたものか。


居心地の悪さを感じるプロジェクトの打合せは、この後二時間にも及んだ。


 


「それじゃあ今回の打合せはこれで終了します。お疲れ様でした。」

「「お疲れ様でした。」」

ようやく終わった。


二時間半ぐらいは座っていただろうか、流石に腰が痛い。


「お疲れ様、今日メンバーみんなで飲みにでも行こうかと思ってるんだけど、一君は参加できるか?」

一応は予定を聞く気はなさそうに見えるリーダーだが、多分聞いたところで聞き入れないだろう。


命令ですよね?それは命令ですもんね?リーダー。


「……はい、大丈夫です。」

「よかった。じゃあ19時にここの店集合だから、よろしくな。」

リーダーはそう言うと、同じように他のメンバーを誘いに行く。


はぁ、まじかよ……今日は家でレンタルした映画を見ようと思ってたのに………。


「なんだよ、幸って。全然幸じゃねぇよ。」

チラシに記載されてある店名に、少しだけ苛立ちを覚える。


幸せなんて一つも感じてないんだが……まぁでも行くしかない。これは命令であり、業務の一環なのだから。


会社って本当、面倒くせぇ。


そんなことを思いながら、会議室を後にした。




「改めて、今日はありがとう。つつがなく打合せが進行したことを嬉しく思う。これから長い期間プロジェクトメンバーとして皆と関わっていく上で、よりよい仕事が出来ればいいなと考えている。ので、どうかよろしく頼む。乾杯!」


「「かんぱーい。」」

社交辞令の場が始まった。と同時に心に決める。


なるべくセーブしよう。俺は今こんなことに体力を割いている余裕は無いんだ。


一人、周りに絡まれないよう存在感を消そうと努力する、がしかし、当然のことながら完全に消し去ることはできないわけで……。


「ねぇねぇ、一君って彼女いるの?」

当然のように絡まれる。お相手は宮島さんだ。

小さい体を巧みに使って、寄せて来る。


「い、いえ、いませんけど…。」

圧倒され、少し縮こまってしまう。


近い近い、距離感が近すぎる!!


「いないの!?でも一君ってまだ若いよね?」

驚き、疑い、損な表情の宮島さん。


いないって言ってんだろ?それに歳は関係ないだろ。


「い、いや僕はあんまり恋愛に興味がないんで……。」


それよりもさっさと離れてくれ。そんな近くに寄られたら、嫌でも意識しちまう。


「えー勿体ないなぁ、まだ若いのに。」

体格差を利用して、下から一雪の顔を覗き込むようにする宮島さんに、思わず目を逸らす。


あぁ、なんてことだ。ただでさえ可愛い存在が、更に可愛くなったじゃないか!


「い、いやぁ、そんなことないですよ。」

必死に宮島さんから目を逸らす。


絶対確信犯だな、宮島さんは。


「まぁでも私も彼氏いないから、一君のこと言えた立場じゃないけどね。」

なんでそんなことを俺に教える必要があったんですかね?宮島さん。


あれですか?ちょっと俺をその気にさせてからかってやろうとか思ってますか?

だとしたら、残念でしたね。


今の俺はそんな程度のことに、騙されませんから。


「へー、そうなんですね。」

「興味ないみたいな言い方は、ちょっと傷つくなぁ。」


いやいや、この期に及んでまだ俺をからかおうとしますか、さいですか。


「私、トイレに行ってきます。」

砕けつつあった場の雰囲気を、一気にぶち壊した西条さんは、そのままトイレの方へと歩いて行く。


「あ、僕もトイレ行ってきます。」


のるしかない、このビッグウェーブに!


「あ、ちょっ…。」


このままずっと宮島さんの相手をさせられるのは、正直荷が重い。まだ元カノの傷も癒えていないし……。


名残惜しむ宮島さんを後に、俺は逃げ込むようにトイレに向かった。




「助かりました、西条さん。」

トイレに向かうと、西条さんは表の通路で待機していた。

やっぱり西条さんも逃げた口だな。恐らく宮島さんの作る雰囲気に、嫌気でもさしたのだろう。


「いや、別にそういうわけじゃないので……。」

目を合わせず話す西条さんに、心の余裕が出来る。


宮島さんとは違って、なんていうか普通の女性だな。少なくとも、男をからかってやろうとか、そういう雰囲気は感じない。


「いえいえ、本当にありがとうございます。お陰で宮島さんから離れられたので。」

「はぁ…そうですか。」

あまり一雪と目を合わせようとはしない西条さん。


男の人が苦手とか、そんな感じなのか?

まぁだとしたら俺には好都合だ。俺も今はあんまり、な。


「あの、に、一さんは普段何してるんですか?」

この場を気不味く感じたのかは知らないが、西条さんから会話を振ってくる。


別に頑張らなくていいのに……。


「普段ですか、まぁ家で映画鑑賞とかですかね。」

「え、映画お好きなんですか!?」

食い付く西条さん。目線が合う。


すごい食いつきようだな。


「ど、どうかした?」

「あ、いえ、私も映画よく見るんで……。」

ばっちり合った目線に怖気づいたのか、西条さんはまた目線を元の位置に戻す。


逆に今の反応で映画嫌いだったら、そっちの方がびっくりだ。


「へぇー、普段どんな映画を見るんですか?」

「全部見ます!」

再度西条さんと目線が合う。


今更だけど、西条さんの顔をこんなにしっかり見たのは初めてだな。眼鏡と長い髪のせいで暗く見えるけど、ちゃんとしたらそれなりに可愛いんじゃないか?


「へ、へぇ。全部ですか。」

「はい!」


何と言うか、好きなことに関してはすごい食い付きようだな、この人。目がきらきら輝いてやがる。


「お、お勧めの映画とかって、あったりします?」

西条さんの食い付き様に、少しだけ気押されてしまいながらも、何とか会話をつづけようと努力する。


ん?何で努力してんだ?俺は。


「お勧めですか…うーん、何が好きかにもよりますけど……。」

分かりやすい考え事のポーズを取る西条さんの目は真剣で、それでいて少し怖い。


いやそこまで真剣に考えなくていいよ?社交辞令だよ?


「……あ、あの、僕そろそろ戻りますね。」

このままここにいると、不味い予感がする。映画の事をずーっと語られそうだ。生憎だけど、そんなことに付き合っている余裕はない。


「え、あ、ちょっ……。」

引きとめようとする西条さんを無視して、足早にその場から離れる。


全く、どいつもこいつも、癖強すぎんだろ。こんな感じで俺ちゃんとやっていけるのかな……。


リーダーの九重さんと城戸さんに、一抹の不安を覚えながらも、席に戻った。

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