親友を弄んだ学校一の美少女ギャルに復讐するため、金を積んで惚れさせてから捨ててやったら大変なことになった

ゆうきみつは

第1話

 クラスで一番可愛い女の子ともてはやされているギャル、鈴村夏姫すずむらなつき

 人呼んで、生殺しモンスター。


 彼女の恐ろしいところは、決して嫌なやつではないというところだ。

 奥手な男子高校生にとって、ギャルという生物は、本来近づきにくいものとして認識されていることが多いはずだ。


 しかし、彼女の場合は違う。

 彼女は、スクールカーストの最上位に位置するグループをとりまとめているにもかかわらず、陰キャグループの話題にも率先して介入してくる陽キャのお手本みたいなやつだった。


 俺は最初から何か裏があるのではないかと信用していなかったが、ほとんどの人間が彼女の持ち前の可愛さと明るさによって籠絡ろうらくされていった。


 そんな彼女が連日のように誰かから告白を受け続ける光景を見るのは当たり前のことだった。彼女も、そのあまりにも多すぎる告白に少々うんざりしたのかもしれない。


「そんなに私とデートしたいなら、一万円を持ってきたら考えてあげる」


 と、本気で言っていたのかどうかは定かではないが、この言葉を真に受けてしまった一人の男子高校生の所為で、俺の学校ではとんでもないブームが巻き起こってしまう。


 ――それは好きな異性と仲良くなるために、お金を払ってデートをすることだった。


 端から見れば不健全極まる行為のようにも思えるが、実は理に適っていたりする。

 高校生という多感なお年頃では、男であろうと女であろうと何かと金が入り用になるものなのだ。


 誘う側としては、好きな人と恋人になれるかもしれないという夢が買え、誘われた側としては、まったく興味なかった相手だったけれども、遊んでみると意外と馬が合って、そのまま付き合っちゃうなんてカップルも多かった。


 だが一ヶ月もすると、次第に健全さは失われていき被害者が出始めた。

 本来の目的であった、好きな子と付き合えるかも知れないという人参を逆手に取り、思わせぶりな態度で相手を養分にしてやろうと企む人間が増えだしたのだ。


 遊び感覚でバイトができるのだから、味を占める人間が出てきてしまうのも無理はない。むしろ、お金を出すことでしか異性の気を引くことができない者たちにも責任はあるのかもしれない。


 でも、よく考えてみて欲しい、お金を出してでも気を引きたいと考える人間と、そういった人間を手玉にとって金を搾り取る人間。果たして、どっちがクズか。


 俺は断然後者だと思う。

 そのクズの代表格が、このブームを巻き起こす発端を担った張本人でもある鈴村夏姫だった。




 ○




 中間試験が二週間後に迫った放課後のことである。

 俺は小学校からの腐れ縁でもある坂田浩二と、一緒にファミレスにやって来ていた。何やら、どうしても俺にしか頼めないことがあるのだとか。


 やけに、神妙な顔色で話すから何事かと思いきや、話を聞いてみればなんてことはない。試験勉強に向けて、そろそろバイトのシフトを減らして、勉強をしなければならない時期だというのに、コウジは恋愛にうつつを抜かしていたのだった。


「マコトォ。頼むから金貸してくれよ~。来月バイトしたら絶対に返すからよ~。あと一回デートしたら、絶対にナツキちゃんは俺の良さに気付いてくれると思うんだ。もうバイト代も全部つぎ込んじゃって、マコトだけが頼りなんだ」


 情けない声で、俺を拝み倒すコウジ。


「いや、いい加減気付けよ。おまえ、それ絶対養分にされてるだけだから」


「ちがーう! ナツキちゃんはいつも俺とのデートの時に楽しく笑ってくれるんだ! 話も盛り上がってるし、絶対にそろそろ付き合ってくれるはずなんだ! 絶対に俺たちの相性ってバッチリのはずなんだ! この前なんて、俺が出した金でジュース奢ってくれたんだぜ! あー、ほんと好きだわー、ナツキちゃん……」


 コウジはそう言って、夏姫ちゃんからもらったであろうキーホルダーのぬいぐるみに頬ずりしていた。


 こいつは、もう駄目だ。早く何とかしないと。


「きもいからその頬ずりはやめてくれ。……仕方ない、俺が鈴村が本気かどうか直接、聞いてきてやるよ。鈴村の答え次第では金を貸してやる、それでもしも望みがなさそうならいい加減にあきらめろ。いいな?」


 結果は聞かなくてもわかっている。

 コウジは鈴村に弄ばれているんだ。


「わかった。俺はナツキちゃんを信じてる」


「あきらめの悪いやつだな。頼むからその年で債務者になるのだけは止めてくれよ」


 自分で稼いだ金をどう使おうと自己責任だが、消費者金融に手を出しかねない現状をみると見過ごすわけにはいかなかった。


「……ないない、つーか未成年だと無理らしいし」


「調べたのかよ」


 コウジはつまらなさそうにオレンジジュースをストローで吸い上げた。


 学校では話せないことも、ここではのんびりとジュースを飲みながら話すことができる。このファミレスは学校から一番距離が遠い場所にあるということもあって、学校に通ってる人間はほとんどやってこない。


 立地条件がそこまで良くないという影響もあってか混むことも少なく、高校生二人が入り浸っていても怒られたりすることもなかった。むしろ、入り浸りすぎて、そんなに暇ならうちでバイトしないかと店長に誘われるくらいだった。


 結局、今では俺たち二人も立派な店員になってしまっているわけだが、貴重な高校生活を削って稼いだコウジのバイト代を全部鈴村にもっていかれているというのは、気分が良いものではなかった。


 シフトの時間になり、俺たちはキッチンの方へと入っていった。




 ○




 次の日の放課後、俺はコウジへ思わせぶりな態度を取り続ける鈴村夏姫に真偽を問うため、体育館裏へと呼び出していた。


「もしかして、あんたも私とデートしたいの?」


 俺は今まで鈴村の姿をこうして、しっかりと見ることはなかったが読者モデルをやってるという噂は本当なのかもしれない、芸能人やアイドルに匹敵する可愛いさだ。


 大きな瞳とウェーブのかかったクリーム色の長い茶髪、白い素肌、すらりと伸びた細い腕、くびれた腰、短くされたスカートからのぞく、艶めかしい太もも。


 その完成された造形と、制服を着崩したちょっぴりエッチな風体が男としての性欲を刺激する。


 何より胸が大きい。それもただ大きいだけというだけではなくて、なんというか制服の上からでもわかるほど魅惑的な盛り上がり方をしていて、決して下品な感じはなく、ついつい見てしまう、そんな感じの胸である。


 やばい、俺、この子のことが好きになっちゃうかもしれない。


「あのさぁ。私も暇じゃないんだから、用があるなら早く言ってくれない?」


 鈴村に怪訝な表情で言われて、俺は正気に戻る。

 くっ、確かにこいつは手強い相手だ。

 いつも冷静に物事を判断することができる俺をここまで惑わすとはな。

 俺は深呼吸してから、雑念を振り払い言った。


「単刀直入に聞きたい。鈴村、おまえは坂田のことをどう思ってるんだ?」


「そっち系の話? まぁ、一緒に遊んでると楽しい人かな」


「それは金を支払わなくても、同じ事が言えるのか?」


「はぁ? そんなわけないじゃん。なんで、好きでもない男と私みたいな美少女がタダで遊ばなきゃなんないの。……あっ、言っちゃった。まぁ、いいか、あんた私に興味なさそうだし」


 こいつ、自分になびかない男の前ではあっさりと本性をあらわしやがった。

 しかも、自分で自分のことを美少女って言いやがった。


 だいたい、コウジも考えたらわかることだろ。

 鈴村が何人ものクラスメイトから引っ切りなしにデートを申し込まれて、とっかえひっかえデートしている意味を。


 順番待ちさせられてる時点ですでに手のひらで転がされてるって気付けよ馬鹿。

 鈴村も、鈴村だ。好きでもない男に、金のために愛想を振りまきやがって。

 純情な男子高校生の心を弄ぶだなんて許せねぇよ。


 俺が鈴村を睨んでいると、


「で、言いたいことはそれだけ?」


 腕を組みながら、悪ぶれる素振りもみせずにスマートフォンを弄り出す鈴村。

 腕によって盛り上げられた胸に、思わず視線が奪われそうになるも何とか耐えた。


「坂田は、おまえがもしかすると付き合ってくれるかもしれないと思って、バイト代をつぎ込んで、俺からも金を借りようとしたんだ。その気が無いなら、さっさと諦めさせてやってくれないか」


「まじ? ちょーうけるんだけど。あいつ、まじで私にゾッコンじゃん。馬鹿みたい」


「おまえ、いまなんて言った……」


「だから、相手の気持ちも考えずに好きを勝手に押しつける方が悪いって言ってんのよ。少しでも夢みせてあげたんだから、逆に感謝して欲しいくらいなんだけど。まぁ、そこまでゾッコンなら、金たまったら、まだまだ吸えそうだし、今度、もっと優しくしてやろっと」


 その言葉に、俺はカチンときた。

 と、同時にこの金の亡者である鈴村にどうしてもギャフンと言わせたくなった。


 俺はしばし考える。

 どうすれば痛い目に合わせてやれるかを。


 …………。


 そして、その方法を思いつく。

 成功さえすればギャフンどころか、フンギャーと言わせられる方法を。


 それは、俺がこいつのことを完膚なきまでに惚れさせて、それから無様に捨ててやるという方法だ。目には目を歯には歯をというやつだ。


 俺は髪の毛を両手でかき上げた。


「鈴村、そんなことをする必要はないぜ。俺がもっと刺激的な世界をおまえに見せてやるよ」


「はぁ?」


「デートの予定は全てキャンセルしろ。俺がおまえのデートの権利を全て倍の金額で買ってやる。キャッシュでな」


「あんた、何言ってんの? 寝ぼけてんの? ざっと見積もっても100万くらいすんだけど、そんな金用意できんの?」


「ああ、用意してやるよ。手付け代わりに、今日はこれをやる」


 そう言って、コウジに貸すはずだった一万円を突き出す。


「ふーん。まぁ、私はぜんぜんいいんだけど、本当に持ってきたら、しばらくは彼女してあげてもいいし」


 鈴原は、ピッと俺から一万を取って、そのまま楽しそうにスキップしながら去って行った。


 …………。


「はぁーーーーーーーー!」


 鈴村が居なくなったことを確認してから、俺は等身大の風船がしぼむのではないかという勢いでため息を吐いた。


「くそ、勢いでとんでもないこと言っちまった」


 後悔先に立たず。

 激情に身を任せて言ってしまったことを、もはや撤回することはできない。

 だが、全く勝ち目のない戦いというわけでもなかった。


 できれば、あまり頼りたくない人間を頼ることになってしまうが、あそこまでコウジのことを馬鹿にされて引き下がるわけにはいかなかった。


 俺はスマートフォンをポケットから取り出して、力になってくれるであろう家族に連絡をしてみた。




 ○




 何人もの男を手玉にとってきた鈴村夏姫。

 言うならば百戦錬磨の魔性の女だ。

 このまま何の準備もせずに恋愛勝負すれば百パーセント、駆け引きで負けることになるだろう。


 それでも俺が勝算があるかもしれないと考えた理由は、両親の仕事に秘密がある。


 俺の両親は、ホストクラブを経営しているのだ。

 しかも親父が若い頃は、実力のあるホストとしてその名を轟かしていたとか。

 親父に電話で事情を相談すると、とにかく店に来いと親父の経営しているホストクラブへ呼び出された。


 これまでの人生で、何となく入ることを避けてきた親父の店に初めて入った感想は、まさに夜の大人の世界だった。


 床の通り道には赤い絨毯が敷かれていて、壁には驚くほど大きな鏡が張りつけられていた。天上にはネオンカラーが煌めくシャンデリアが吊られていて、部屋中を鮮やかに照らし出していた。


 俺が呆気にとられて辺りを見渡していると、美形のお兄さんが近づいてきた。


「ようこそいらっしゃいました、誠様。オーナーがお待ちしておりますので、ご案内いたします」


「あ、はい」


 洗練された立ち振る舞いで手を引かれ、背中辺りにそっと手を当てられる。

 やばい、やばすぎ、なんかわからないけど、なんか惚れそう。

 おっかしいなー、俺って男にはぜんぜん興味ないはずなんだけどなあ。


 そんなことを考えていると、親父のいるオフィスに到着していた。

 親父はにやりと笑うと、おもむろに引き出しから何かを取り出した。


「誠、てめぇ絶対にその女に負けるんじゃねぇぞ、俺もそういう人間は嫌いなんだ。知識や技術はそこのみやびに教えてもらえ。ほれ、軍資金だ使え」


 と、三百万の現金を放り投げた。

 うは、まじかよ。親父、いかつすぎ。


「ありがとう、親父」


「良いってことよ。俺も仕事柄、そういう思想を持つ同業者は何人も見てきた。一見すると、俺のやってる商売と同じのようにも見えるだろう。だがな、俺はそれはいけないことだと思っている。俺たちは夢を見せているわけじゃねぇ、時間にすれば短いかもしれねぇが、本当に心の底からその相手を愛しているんだ。俺たちのような人間に時間と金を使ってまで、会いに来てくれるんだぜ? 誠心誠意、愛さなくてどうするってんだ。その相手をただの金としか見ることができない人間に、金を取る資格はねぇんだよ。ホストって仕事は、どうしても世の中から、後ろ指を指されちまう職業だ。俺の夢はその固定概念をぶっ壊すことだからな。うわっはっは」


 親父は声高らかに、笑い声を上げる。

 その姿に、雅さんも嬉しそうに微笑んでいた。


 親父、すげーよ。

 正直、親父の仕事って、なんかあんまり人に自慢できるような仕事じゃないって勝手に思っていたけれど、これからは考えを改めることにするから。


 こうして、俺はみやびさんから日々、女性と会話するための技術や、エスコートするための技術、恋愛を科学的に理解するための知識、はたまた相手の心に入り込むための心理学など、凄まじい量の知識をたたき込まれた。




 ○




 一ヶ月が経った頃である。

 俺はデートをする際に、よく待ち合わせ場所にしている公園にいた。


 しばらくすると、鈴村の姿が見えた。

 彼女が読者モデルとして出ていたという雑誌を全て買って、それから好みを分析して、慎重に慎重を重ねてプレゼントしたコーディネート。


 彼女も気に入ったのだろう、そのコーディネートに身を包んで、嬉しそうに遠くから俺に手を振りながら小走りでやって来た。


「おまたせー、わー! なんちって」


 彼女はわざとらしく転びそうになる素振りをみせて、俺の胸に抱きついてきた。

 俺は優しく彼女を受け止めて、軽く微笑んでから乱れた服装を正してやった。

 それから、まじまじと全身を見て、


「うん。すごく似合ってる。可愛い」


「えへへ。ありがとう、マコト」


「あ、そうだ。今日はデートをする前に渡さないといけないものがあるんだった」


「え? なになに?」


 一括で先払いしてた分のデートの権利が尽きていることを思い出して、俺はデートをする前に財布から札を取り出そうとする。


 すると、鈴村がそっとその手を止めたのだ。


「マコト。私、もうお金なんて要らないよ。だって、私はもうマコトの彼女なんだもん。デートをする前に彼女にお金を払うなんて変でしょ?」


 みやびさんから授かった技術と知識を駆使した俺は、とうとう鈴村夏姫すずむらなつきにこの言葉を言わせることに成功したのだ。


 ここまで長かった。

 決して、楽な道のりというわけではなかった。

 彼女に好きになってもらうため、俺は本当に必死だった。

 コウジを弄んだ彼女に罰を与えるという本来の目的を忘れそうになるほどに。


 だが、こうしてこの言葉を聞いて、俺は再び思い出した。

 思い出してしまったのであれば、実行するしかない。

 俺はこれから彼女に酷いことを言う。言わなければならない。


「ああ、金を払って彼女とデートをするなんて、確かにおかしな話だな。でも、好きでもない女と、タダでデートするのもおかしな話だと思わないか? 俺は誰かさんから、そんな風な話を聞かされたことがあるんだ。いったい誰だったっけな?」


「え……?」


 鈴村は、突然の詰問にこれまでに一度も見せたことのないような戸惑いの表情を浮かべた。


「そいつからすると好きになったやつの方が悪いらしいんだ。つまり、この場合、俺が悪いんじゃなくて、おまえが悪いんだよなあ、どうしてか教えてやろうか?」


 鈴村は、その先の言葉を聞かされてしまうという恐怖と、どんな言葉が聞かされるのか想像をしてしまったのか、目に涙を浮かべて悲しみの表情をする。


「俺はおまえのことなんて、最初から好きでもなんでもなかったんだよ。バーカ」


「なにそれ……、じゃあ、これまでのことは最初から嘘だったってこと……?」


「おまえ、頭悪いだろ? だから最初からそうだって言ってんだろ。これまで優しくしてやってたのは、全部おまえを惚れさせてから、無様に捨ててやるための演技だったんだよ。自分がどれほど、コウジに酷いことをしてきたのかわかったか?」


「…………」


 彼女はその整った顔をくしゃくしゃに歪めて、それから言った。


「……私が酷いことしてきたことはわかった。今度コウジくんに謝る。これまでに受け取ったお金も返す。他のみんなにもそうする」


「で?」


 俺は高圧的な態度を緩めない。

 本当はこんなことを言いたいわけじゃないのに。


「だから、私にも謝って……」


「は? なんで俺がおまえに謝らなくちゃならないんだよ」


「私に酷いことを言ったから。彼女に酷いことを言ったら謝るのは当然でしょ」


 急に、今度は彼女が高圧的になってきた。

 まだ彼女づらしてんのかよ、何考えてんだこいつ。

 本当に頭おかしいんじゃねーのか。


「おまえ、まじで何言ってんの? 彼女じゃないってさっきから何度いったら――」


「じゃあ、なんでマコトが泣いてるのよ!」


「……は? ……あれ、……俺、なんで泣いてんの?」


 俺は頬の辺りを伝うその水滴の存在を、ナツキから指摘される。

 俺は、ここでようやく自分の思いに気が付くことになるのだ。

 どうして、そんな不可解な現象がこの身におきているのかということを。


「ふざけんなよ……。俺は……」


「ごめん。マコト。本当にごめんなさい。私、反省するから。だから本当に許して――」


 そう言って、俺はナツキに抱き寄せられる。

 俺は、ナツキのことが好きになっていたのだ。

 本当は気付いていたのかもしれない。


 ただ、コウジに対する後ろめたさと、ナツキに酷いことをしてやるんだという強い意志が、その想いに枷を嵌めていたのだ。


 だが、彼女の反省の言葉を聞いて、その枷が外れたのだ。


「ナツキ。……俺も悪かった」


「えへへ、彼女になって初めて名前を呼んでもらえたね」


「……いつもナツキって呼んでたと思うんだけど」


「ううん。初めてだよ、そう――、初めてなんだよ」


 ナツキは、そう言って嬉しそうに笑うのだった。




 ○



 後日談。

 あれから更に一ヶ月が経った。


 俺たちはファミレスで、いつものように駄弁りながら、バイトの時間になるまで勉強をしていた。


「で、結局、おまえら付き合うことになったのかよ。なんか……、いい話っぽく見えて、すごく馬鹿っぽいんだが、あと俺の存在薄すぎ問題」


「否定できねぇ……」


 コウジにそう指摘された俺はうなだれた。


「まぁ、俺としてはナツキちゃんにつぎ込んだ金を全部返してもらえたから、別にいいんだけどよ。そのおかげで、今ではマイちゃんを攻略できそうだし」


「また別の女子を追っかけ回してるのかよ……」


「いや、今度は絶対に大丈夫だって! なんてったって俺には恋愛マスターのアドバイザーが二人もついてるんだからな!」


「そうね。マイのことなら、私も力になれると思う。あの子の好みとか全部しってるもん」


「さすがナツキちゃん! 頼りになる~!」


 そう――。鈴村夏姫すずむらなつきは、今では俺の彼女である。

 あれから、彼女は改心して、巻き上げた金を全員に返すことにしたのだ。

 もちろん、すでに使ってしまったお金もあったので、現在バイトで返済中だ。


 彼女のバイト先は、俺たちが働いているファミレス、つまりここだった。

 店長に可愛いウェイトレスになってくれそうな子はいかがですかと聞いたら、写真を見せて二秒で即採用されてしまった。


 今では、彼女も立派なバイト仲間でもある。


「ねぇ、マコト。バイト終わったらデートしようよ。ねぇ、いくら払えば良い?」


「その犯罪臭漂う、おっさんみたいな誘い方はいい加減にやめろって。そもそも、金持ってないだろ」


「にしし、そうだったのでした」


 ファミレスの制服であるエプロンスカートに身を包んだナツキは、後ろに手を回しながら笑顔で言う。


 ナツキは俺をデートに誘うときに、必ずこの冗談を言うのだった。

 もしかすると彼女なりの照れ隠しなのかもしれない。

 今では、そんな彼女の一つ一つの行動が何もかもキラキラと輝いて見える。


 親友を弄んだ学校一の美少女ギャルに復讐するため、金を積んで惚れさせてから捨ててやったら、まさかこんなにも彼女のことが好きになるとは思いもしなかった。




 ―ハッピーエンド―

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