第2話 魔法の基礎
この島で唯一の医師のもと、今日から魔法の基礎を学ぶことになった。300年前にはもっと違った医術があったらしいがその知識はほとんど残っていない。今となっては医師と呼ばれる人は癒しの魔法が使える人という事になる。
ロークラスの中には薬屋や産婆と呼ばれる人たちがいる。この人たちは薬草の知識や出産の知識を持っているので、ロークラスでも軽い病気や出産に関しては困る事は無い。ちょっとしたケガの治療なども薬屋に頼る。骨折などでは接骨屋を頼る事もあるが、大きなケガや病気に対しては無力だ。そのためロークラスの平均寿命は他のクラスより短い。
約300年前に起こった事故により、この国の数か所で魔素が噴出するようになった。魔素の噴出地域は海岸に近い所ばかりなので、空気中は勿論のこと海水にも多くの魔素が溶け込んでしまう。この魔素が体に蓄積され過ぎると病気になる。
300年前、魔素の噴出による気候悪化が急激に世界に広がったため、この国の経済水域を示す境界線上に防護壁が作られた。この防護壁により世界の気候悪化は緩やかなものになったが、防護壁で隔てられたこの国は世界から孤立した。
防護壁が作られた当初、防護壁により上がった魔素濃度に順応できずにこの国の人口は半減した。しかし50年ほどで魔素に耐性を持ち、さらには魔素を利用した魔法を使える人たちも生まれるようになった。
それから250年が経った今では人口もかなり持ち直した。
魔法使いの誕生によりこの国を支配する権力者達のパワーバラスが少し崩れ、金や権力を持った一族よりも魔法使いを多く輩出する一族の方が力を持つようになった。これは魔法のパワーに対抗できないという事もあるが魔法を使えば魔素の濃度が下がるという社会貢献度が大きく係わったらしい。社会貢献度の低い昔の権力者一族は今ではハイクラスと呼ばれる魔法使い一族よりも下のミドルクラスに成り下がった。
魔素により変化したのは社会だけではない。魔素由来の病気が増え、昔の医術では対応できなくなった。そのため今では癒しの魔法使いが医師と呼ばれるようになった。
「というわけだ。魔素や魔法について少しは理解できたかな?一言でいえば、魔法の素となる魔素は万病の素でもあるという事だ」
60歳を超えたぐらいだろうか、白髪交じりのベッタリと固めた髪型が印象的な医師の話がやっとのことで一段落ついたようだ。医師はテーブルに置いてあったお茶をすすりながら椅子に深く腰掛けなおした。
「魔素をコントロールすれば病気も防げるという事ですか?そうであれば魔法使いならだれでも癒しの力を持っているという事でしょうか?」
「良い質問だ。癒しの魔法使いと他の魔法使いの違いはだな、他人の体内の魔素をコントロールできるかどうかだ。全ての魔法使いは自身に対する癒しを行う事は出来る。しかし他人に癒しを行う事が出来るのは私たちだけだぞ。」
他人の魔素をコントロールできるという他の魔法使いよりも秀でた力が誇らしいのか医師のドヤ顔がスゴイ。
「自身にたまった魔素や空気中の魔素を利用して魔法を使う事は簡単だが、他人の体内の魔素を使うなんて他の魔法使いには無理だからな。」
ガハハと笑う医師の声が大きすぎて耳が痛い。
「とりあえずは自身の中にある魔素をコントロールする事を学べ、それが出来たら空気中の魔素、その次は動物の中に溜まった魔素をコントロールできるようになることだ。この本を貸してやるから頑張れよ。」
医師から借りた本には魔素をコントロールして状態を把握する魔法の使い方が書かれているようだ。
半年以内に何か一つでも魔法を習得する事が出来れば引き続き食費を援助してもらえという話なので絶対に魔法を習得してみせる。
本によるとファーストステップは、左手の手首を右手で摘まんで脈拍を指先で感じることとある。これで魔素の流れを感じられるようになるらしい。慣れてくれば手首すら摘まむ必要もないそうだ。
ドクンドクンと脈打つ感覚を指先で感じながら魔素の存在を探してみるがよくわからない。この方法で魔素を感じられるかどうかは素質次第で、素質がないものはいつまでたっても魔素を感じられないし、素質があるものはすぐにでも感じる事が出来るらしい。平均的な魔法使いは修行を始めて2カ月ぐらいで感じる事が出来るようだ。
午前中は医師の仕事を見学させてもらいながら雑用をこなし、午後はひたすら脈を感じるという生活を4日続けた結果、僕はあっさりと魔素を感じられるようになった。
自分の体内に溜まった魔素を感じられるようになると、空気中の魔素や空を飛ぶ鳥の魔素も感じられるようになってきた。感じられるようになると、コントロールも難しくはなかった。
自分の中に溜まった魔素を使って健康状態を探ってみると病気の有無や蓄積された魔素の濃度、体力や筋力といったものが分かるようになった。続いて空気中に意識をむけると空気中の魔素濃度や流れも感じられるようになった。これなら動物に使ってみても大丈夫かもしれない。
前日の雨風で力尽きた小鳥が道路わきに倒れていたため、僕は小鳥に手を差し伸べた。差し伸べた手が少しだけ緑色に光った。僕は慎重に小鳥の中にある魔素をコントロールして小鳥の健康状態を調べ始めた。
羽が傷んで飛べない状態のようだがまだ生きている。これで回復魔法が使えればこの小鳥も元気に飛べるようになるのだが、僕はまだ回復魔法を習得していない。このままではこの小鳥は助からないだろう。
助けられない事に悔しさと焦りを感じた。早く回復魔法を習得しなければ。
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