7・恐怖
洋子は寝付けなかった。
帰ってすぐに風呂と食事わ済ませた洋子は、何となく疲れていたのですぐに布団に入ったというのに、どうも誰かに見られているような気がして寝付けない。こんなこといままであったのだろうかと振り返ってみたが、感じたことがない。ただ唯一、姉の葬式の時にだれかに見られているような感覚に襲われたぐらいで、それ以降にそんな気持ちになったことはない。それなのにいまはどうだろう。
だれかがじっと観察しているようでならない。
誰?
彼女は布団から起き上がって周囲を見回した。
特に変化はない。
いつもの自分の部屋だ。
なにかが起こる気配などどこにもなかった。
けど、どうしてなのか違和感があった。
見慣れた自分の部屋。
その中になにか異質が紛れ込んでいるような違和感。
なんだろうか。
洋子はその正体わ探るべくしてベッドから降りると、部屋中を見回した。そしてふいに箪笥の上を見る。そこにはラッピングされたままのくまのぬいぐるみが置かれていた。あれもずっと置きっぱなしだ。姉が死んだ日からずっと置かれているから埃かぶっている。
彼女はどうもそこから目が離せなかった。
視線がする。
もしかしてみているのだろうか。
その中のぬいぐるみが出してくれといっているような気がした。
洋子はそっとぬいぐるみの入った袋を手にとるとラッピングをほどいていく。
ようやく熊の後頭部が目に入ったとき、彼女の手が止まった。
だめだ
出してはダメだ
どうしてそう思うのかはわからない。
でも、ここからだしてはいけないような気がしてならない。それなのに、出せ出せとなにかが言っているように思えてならない。
出していけない
出さなければならない
そんな想いが交差していく。
心臓がバクバクする。
戸惑っていると一瞬熊の耳が動いたような気がして、思わず袋ごと放り投げてしまった。
袋から熊の顔が現れた。
彼女が熊のほうへと近づこうとした瞬間、熊のぬいぐるみが勝手に袋から這いつくばるようにして飛び出したのだ。
え?
出てきたかと思うとムクッと立ち上がったのだ。
なにが起こったのかはわからなかった。
洋子は呆然とそれをみていると、熊のぬいぐるみがまるで準備運動でもするように腕を回す。そして、顔を洋子のほうへと向けた。
くまのぬいぐるみのつぶらなボタンの瞳がニヤリと不気味な笑みを浮かべたかと思うと、洋子のほうへと歩きだした。
「なに? なんなのよ」
洋子の声が震える。
「くれ……」
ぬいぐるから声が漏れる。
女性の声だ。
どこか狂喜に満ち溢れたような声が洋子の脳に直接響き渡り、体を凍らせていく。
「くれ……ほしい……その瞳……」
ぬいぐるみが近づいてくる。その両手がこちらへと向けられる。
「きぁあああああ」
洋子は思わず悲鳴を上げた。
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