8・呪いの国
“呪詛”
それは古来より伝わる禁術とされている。
なぜなら、それは人の妬みや恨みといった負の感情から生まれるものであるからだ。その負の感情は特定の相手に呪い、相手に不幸をもたらすための呪術である。
しかし、一度呪えば、必ず自らに跳ね返ってくる。
それが呪術というものであり、人を呪うことにはそれなりの対価が必要ということである。
その対価というものは最悪の場合、術者自身の命を奪うことにもなりかねない代物だった。
「跳ね返るんだ。それでも、呪うの?」
ナツキは隣にいる桃志朗に尋ねた。
「呪うときがあるのが人なんだよ。特に日本という国は昔から呪いの国とも呼ばれている。だから、あらゆるところに呪詛というものが存在しているんだよ」
「そういうものなのか?」
「鬼という存在がその証拠ともいえる。元々鬼というものは、人の恐れや憎悪といった感情によって産み出されたものだという話だからね」
「ふーん。そうなんだ」
「まあ、それが100%正しいともいえないね。正確な定義なんてにいんだよ。鬼というものは、どこか得たいの知れない存在だからね」
「だろうね。それは僕のほうがよくわかる。それよりも、とうさんも呪詛使えたりするの?」
「どうかなあ。あいにく僕は“呪い”をかけたことはないよ。でも、方法は知っている。確実に人を呪う方法をね」
「使ったことがないのに知っているの? やろうと思えばできるんだね」
「うん。できるよ。でも、しない。跳ね返ってきて不幸になるつもりはないさ。それにだれかを呪う時点で幸せから遠退いていると思うからね」
「でも知っているんでしょ。どうして?」
「もちろん知っているさ。父さんが教えたくれたからね」
そういいながら、桃志朗は遠い目をする。
「ふーん。とうさんのお父さんってどんな人だった?」
「放浪癖のある人だった」
「なーんだ。とうさんと同じじゃん。血は争えないね」
「はははは」
ナツキの一言に桃史郎は苦笑いを浮かべた。
「けど、最近は“呪う”人が多いからね。それもモノノケなんか使うから鬼が増える」
「だれかが回収しているんでしょ。とうさんと同じように……」
「僕は阻止したいだけだよ。彼らは鬼をたくさん手に入れたいらしい」
“鬼”は自然発生することが珍しい。
だからといってまったくないとも言えない。
時に生まれながらの“鬼”もいるのだが、ほとんどの“鬼”は肉体と異なる魂が入ったことで生じるモノや人の恨みによって生まれる“呪い”に利用とされた物や動物、只人が見ることができないモノノケが暴走状態になる“アヤカシ”を超えたさきに進化するモノとして“鬼”の存在になるという。アヤカシのうちはまだ戻れる。しかし、鬼となれば決して元へは戻ることができない。
鬼は鬼だ。
装うことはできるが、決して戻ることはない。
鬼は得たいの知れないもの。
だから、人々は恐怖する。その負の感情がさらなる鬼を産み出していくのだ。
桃史郎はナツキを見た。
「ナツキ……。ちょっといってくれるかなあ」
「いいよ。どっちにいけばいい?」
「わかっているだろう」
「そうだね。僕が必要なのは彼だもんね。じゃあ、行ってきまーす」
ナツキはいつになく嬉しそうな笑顔を浮かべると、桃史郎に大きく手を振ってその場を駆け出した。
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