2・バイトの誘い
突然、クラスメートの江川樹里がおかしくなったこと。渋谷での出来事。
はっきりと覚えている一連の出来事だというのに、だれも覚えてはいなかった。
何事もなかったように時が流れていくだけ。あれはなんだったのか。
ただの夢だったのではないかと思いはじめたときに、弦音の眼に奇妙なものが飛び込んできた。
見たことのない生物。
人間のように見えて、小柄だったり、耳が尖がっていたり、一つ目だったり、三つ目だったり、
ゲゲゲの鬼太郎でみたような「一反木綿」や「塗り壁」やら、ここ数日見たモノたちは数知れず。
けれど、それらは別に弦音を襲ったりすることはない。
ただ、そこにいる。
人込みの中で異質な存在がだれにも気づかれずに存在しているのだ。
それを始めに目撃したのは自分の部屋の中だった。平安貴族ふうのちっちゃいおじさんが、弦音の大好きなラノベの感想を述べていたのだ。
呆然としていた弦音に、突然話しかけてきたのが“ナツキ”という子供だった。
ナツキはいつのまにか弦音の部屋にいて、無邪気な笑みを浮かべていた。
思わず「うわっ」と叫んでしまったために隣の部屋にいた妹の弓香が「お兄ちゃんうるさい」といって入ってきたのはいうまでもない。
けれど、弓香にはナツキが全く見えている様子はなかった。
どう言うことだろうと問いかけへ前にナツキは「ここに来てほしい」とメモ用紙を渡すと、忽然と姿を消したのだ。
そこに書かれていたのは、“四時半に山有高校の校門前”とだけ書かれていた。どういうことなのか、弦音にはさっぱりわからなかった。
そして、翌日部活を終えて帰宅しようという時間がちょうど四時半を示していた。部室をでて、校門へと向かう。
すると、確かにいた。
見覚えのある青年とあの子供。
有川さん?
弦音は慌てて、教室を飛びだすと彼らの下へとむかった。
すると、朝矢が少々面倒くさそうな顔をしながら、骨董店でバイトしないかと言ったのだ。
突然何をいうのだろうと思った。
「俺はどうでもいいんだけどさ。店長が来てほしいっていうんだよ」
「店長?」
自分は会ったことがあるのだろうか。
「とうさんだよ。僕がお願いしたの。お兄さんをバイトで雇ってって……」
「おれはそんなこと頼んでないけど……」
弦音は困惑した。
「そりゃあ、そうだろう」
朝矢がげんなりした顔をする。
「だって、僕がそう思ったんだもん。お兄さん、必要かもって……」
子供の言っていることの意味が弦音には理解できずにキョトンとしている間にも、二人の会話は続いた。
「俺は反対だけどな」
「絶対に必要だよ。もっとたくさん、必要」
「そんな必要ねえよ。つうか、ナツキ。気に入ったからって、次々と誘うなよ。ボケ」
朝矢は、ナツキと呼ばれた子供の頭をたたいた。
「いいじゃん。たくさん。たくさん。必要だよ」
「楽しんでいるんじゃねえよ」
どうやら、自分はこの子供に気に入られたようだ。
たくさん必要というのはどういうことなのかはわからない。
「とにかく、来るか来ないかはお前次第だ。もし、その気があるなか店にこい。住所はここに書いてある」
そういって、朝矢はメモを渡した。
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