4・侵入せよ

「閉まってますよね」


「閉まっているわね」


「なーんか結界張っているよお」


「くそお。舐めた真似しやがって」


 朝矢は思わず玄関の扉を蹴りつける。しかしびくともしない。

 

 野風と山男が建物をすり抜けようとするが全く入ることもできない。


 野風と山男は普通の狼ではない。


 霊獣または神獣と呼ばれる存在だ。


 それはモノノケとも鬼とも違う。


 神に近い存在でもあった。


 元々は平安末期に生まれた双子の狼だったらしいのだが、死したのちに天照に見初められ神化したらしい。


 そんなことを話していたことを弦音は思い出す。もちろん、その話は少し前に成都から聞いた話だ。脱線しながら話されていたために、どうもピンとこない。


 平安時代末期。


 たしか、源頼朝や平清盛が活躍した時代だったはず。


 えっと1192年?


 1185年?


 どっちが鎌倉幕府ができた年だっただろう?


 そんなことを考える。


「余裕だねえ。ツンツン」


「はい?」

 


 ナツキが話しかけた。


「おいおい。この状況で余裕ぶっこくとはいい度胸しているじゃねえか」


「あの……その……」

 

 朝矢に睨まれて、弦音は委縮する。


「おいおい。トモくん。ヒビらせちゃあかんやろう。怖がっとるでえ」


「うるせえ。とにかく、強行突破する」


 朝矢は上を見る。


 霧が深い。

 

「あっ。二か所あるわね。アヤカシが分散しているわ」


 桜花は眼鏡をずらしながらいった。


「鬼じゃないのか?」


 朝矢が尋ねる。


「鬼もいるみたいね。それは最上階ね」


「アヤカシは44階か」


「どうする? 有川」


 朝矢はしばらく上を見上げたまま、黙っていた。


「決まっている。シゲ。44階頼めるか?」


「オッケーまかせときい」


「じゃぁ、私は最上階」


「あなたも44階よ」

 

 朝矢のほうへ近づこうとした愛美の後ろ襟を桜花が捕まえた。


「ええ。うそー」


 愛美はムッとしたが、抵抗はしなかった。


「それでどうやって」


 弦音が疑問を投げかける。


「決まっている直接上へいく」


「でも結界が……」


「大丈夫だ」

 

 口を開いたのは金色の狼・山男だった。


「鬼やアヤカシが出現している部分は結界が脆いようだ。我らならば突破できる」


「突破?」


 よくわからない。


「話はあとだ。さっさと乗れ」


「えっ? えっ? また乗るんですか?」


「そうやでえ」


 いつの間にか、白銀の狼・野風の上に成都たちが乗っている。


「また? またですか?」


 さっきのジェットコースターを思い出すだけで吐き気がしてくる。


「大丈夫だよーん。あんなに早くないから」


「うわうわ」


 また身体が浮かび上がり、強制的に山男の上に乗せられる。


 直後、野風が地面を思いっきり蹴って、上へと猛スピードで上昇していく。


 ジェットコースターの次は逆バンジーかよおおおお


「うわああああああ」


 弦音は悲鳴を挙げながら、心の中でツッコみを入れた。


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