2・信頼に値するもの
エレベータへと滑り込むと、下へと下がるボタンを押す。即座に稼働し、最上階から下へと降りていく機械音が響いている。
エレベーターに乗れば安全というわけではない。尚孝たちを追いかけているのは、人ではなく、一般的なは妖怪と呼ばれている存在である。
妖怪でまとめられる存在は、霊力の少ない人間には見ることも触れることもできないモノ。しかし、妖怪たちはその気になれば触れることができる。
ということは、人間に気づかれずに傷つけることさえも可能なのだ。
しかも彼らは人間の作ったものを容易にすり抜けてくれる。
霊力があり視ることのできる人間ならば回避できるのだろうが、あいにく尚孝も彼の腕を掴んで怯えている洋子もそれがない。
ただなにかが来るということだけは感じているにすぎない。
それゆえに尚孝の手には銃が握られていた。
捕まったときには持っていなかった。
月草峰子に取り上げられていたのだ。それを渡したのはユキと呼ばれた男とともにいた少女だった。
ユキが化け物カマキリと戦っている最中、少女が尚孝の傷口に触れる。
すると、背中にボアっと熱が帯びていき痛みが消えるとともに出血も止まった。
「応急処置よ。これで痛みは治まっているわ。けど、傷がふさがっているわけじゃない」
「ああ、すまない。でも、君はなぜ……」
尚孝がなにかを問いかけようと少女をみるも、視線にはいったのは一つの拳銃だった。
「取り戻してきたの。気休めだろうけど、持っていないよりましでしょ」
尚孝は少女を見る。彼女は微笑む。
いったい彼女はなにを考えているのだろうか。
尚孝には彼女の真意を読み取ることができなかった。ただわかるのは彼女が敵ではないということだ。
それでも疑念が消えない。言いたいことが山ほどあったのだ。
「いろいろ言いたいことがあると思うけど、いまはそんな暇はないわ。とにかく早く逃げて……。彼らがまるまで時間を稼ぐから」
その言葉を完全に信じているわけではない。尚孝にとっては信じるに値するような人物ではないからだ。
尚孝はユキをみる。ユキはこちらを見ずにカマキリと対峙し続けている。
ユキにも問いただしたい気持ちもある。
けれど、いま優先すべきことは、不安で震えている少女を逃がすことだ。
尚孝は拳銃を受けとると洋子の手を握り走り出した。
そして、いま現在に至る。
エレベーターの数字が小さくなっていく。
最初は95の数字だったのがすでに50まで下がっている。一階まであと半分ほど。
なにも起こらずに無事つけることを祈るしかない。
尚孝たちは数字を見ながら息を飲む。
49、48、47、46、45、44
44
44
何度もその数字が点灯し始める。
ピーン
突然エレベータの扉が開いた。
「刑事さん」
洋子が彼にしがみつく。
扉の向こう側は暗闇。
ただの闇が広がっている。
尚孝はすぐに打てるように拳銃を握り締めたまま、開閉ボタンを押した。
閉まらない。
何度押しても閉まる気配はない。
「くそっ」
尚孝は舌打ちをする。
「刑事さん」
洋子が不安な顔で尚孝をみる。
『逃がさない……。さあ、地獄へどうぞ』
どこからかアナウンスの声。
峰子の声だと気づいた瞬間、尚孝と洋子は誰かに背中を押されて、エレベーターから強引に押し出された。
振り返るとすでにエレベータの扉がしまり。下へと降りていく。
尚孝はボタンを押すがまったく反応がない。
「刑事さん?」
『ふふふ。逃がさないわ。踊りなさい。血のダンスを……』
女の声が不気味に響く。
尚孝は拳銃を構え、注意深く周囲を見回した。
そこは闇。
どこまでも闇が続いているにすぎなかった。
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