4・能力者たち

 一つ目小僧は朝矢に話した内容をそのまま告げた。


「おいらはそれ以上のことは知らねえぞ。ただ巻き込まれただけだい」


 最後にそういいながら、朝矢にしがみつく。


「いい加減に離れろよ。ボケ」


 朝矢はそれを無理やり引きはがすとテーブルの上に投げつけた。一つ目小僧はバランスを崩して、倒れる。


「いてえよ。暴力反対だ。お前、絶対に悪役だろう。ラスボスだろう」


「ああ?」

 

 朝矢に睨みつけられた一つ目小僧は言葉を飲み込み、仰け反る。


「あんたねえ。もう少し優しくできないの?」


「怒った顔も素敵♥️」


 あきれ返る桜花の隣に、なぜか喜ぶ愛美がいる。

  

「あっ。松澤愛桜?」


 弦音はそこでようやく最近人気上昇中の歌姫の存在に気づいた。


「だめよ。ここでは愛美よ。め・ぐ・み」


 愛美は人差し指を立てながら、ここにいるのは歌姫ではなく、“祓い屋”だと告げる。


「はあ……」


 弦音はどんな反応をするべきかわからずに困惑した。


「なあ、店長。こいつ連れてくる意味なかったじゃないのか?」


「うーん。そうだねえ。たいした情報もないみたいだね。こっちの情報はないけど、別の情報は得られるかもしれないよ」


 桃史郎は一つ目小僧に微笑む。その笑顔が一つ目小僧にとって不気味でならない。


 このメンツの中で一番食えないやつだと思った。


 こいつらはいったい何を知りたいのだろう。


 一つ目小僧は彼らの様子を凝視する。


 それぞれには霊気が宿っている。


 そのほとんどが何者から与えられた能力で、天然の霊能力者と思われるものは店長と呼ばれた男のみ。自分を捕らえて、ここに連れてきた男は、なにかによって霊気を包囲されているようで、天然なのか借り物なのかさえもつかめない。


 この中で一番若い少年に至っては、つい最近もらい受けたらしく、どうも素人くさい。


 いったい、だれが彼らに力を与えたのだろうか。


 このうさんくさい店長だろうか。


 一つ目小僧が思案している間にも彼らは話を続けている。


「でも、尚孝が捕まっているところはなんとなくわかるはずだよ」


「わかるはず?」


「ああ、ナツキがどうにかするよ」


「ナツキ? あいつを芦屋さんのところに送ったのか?……なのに芦屋さんが連れ去られたってぇのは、どういうことだよ?」


「一歩遅かったんだよね」


 桃史郎が回答する前に、ナツキの声が聞こえてきた。振り返ると、山男にまたがったナツキの姿がある。


 一つ目小僧はナツキの姿をみた瞬間に先ほどの疑問への打点を見つけた。


(こいつだな)


 まだ十歳ぐらいにしかならない少年がその張本人だと直感したのだ。


「だけど、ちゃんと行き先はつかんできたよ」


 ナツキは山男から降りる。


「もしかしたら、“MOONGROSS”っていうビルですか?」


 弦音に言われて、ナツキがほほを膨らます。


「ツンツン。僕が言おうとしたのに……。お仕置きだーい」


 そう言いながら、ナツキは弦音の頭をチョップした。


 子供の手なのに意外と痛い。


 弦音は思わず、頭を押さえて地面にふさぎ込んだ。


「ナツキ。てめえ、なにしてる?」

 

 朝矢がため息を漏らす。


「はははは。僕を出し抜こうだって無駄だよお」


 ナツキは勝ち誇ったかのように仁王立ちした。


 その姿を見ていた一つ目小僧は「ただの子どもかよ」とげんなりした顔をする。


「そういうことらしいね。ナツキも尾行ありがとう」


「へへへへ」


 ナツキは得意げに人差し指で鼻の下をこする。


(痛い。マジ痛いんですけど……)


 子供のチョッパ。さっきからジンジンしている。


 なんか金槌かなにかでたたかれたのではないかとさえも思えるほどの衝撃だった。


 押さえているところが確実に腫れてきている。


「あらら、タンコブできているではないか」


 聞きなれない老人の声に弦音ははっとする。


 頭を押さえながら、振り返ると老人。


 しかも着物をきた老人が扇子で自分の口元を隠しながら、弦音のほうを見ている。しかも正座して、なにもない空間にプカプカと浮ているではないか。


「うわっ」


 弦音はそのまま座り込んでしまった。


「おいおい。家康。てめえ、まだいたのか。さっさと冥府にいけよ」


「ほっほっほ。いいではないか。そこの陰陽師もいつまでもいていいといったのでな」


 朝矢は桃史郎の方を睨みつける。


 桃史郎はにっこりと笑うだけだ。


「それよりも、ナツキ殿。やりすぎではないか?」


「そんなにやりすぎてないよ。だいぶん手加減したもん」


 手加減?


 すげえ痛いんですけど?


 あれで手加減かよと弦音は痛む頭を押さえながら心の中で喚く。


「はいはい。いい加減に本題に戻らない?」

 

 桜花が手をパンパンと叩きながらいった。


「そうだったね。ここでのんびりしている暇はないね。早くしないと尚孝が大変なことになるねえ」


「もう十分なっているよな」

 

 朝矢がツッコむ。


「急がないと……」


 そういいながらも、なぜかこの店長はのんびりしている。危機感のかけらもないことに弦音は疑念を抱く。

 

 それに気づいたのか。朝矢は弦音を一瞥する。


「まあ。大丈夫だろう。霊力はなくても、芦屋さんならば、それなりに対処できるはずだ。そうだよな。店長」


「そういうこと。少しぐらいはもつはずだよ。でも、急いでくれるかい? 彼を失うわけにはいかないからね」


 彼らはうなずく。

 

 そこで弦音は疑問に思った。


 彼を失っていけない。

 

 友としてなのか。


 仲間としてなのか。


 それ以外になにかあるのか。


 弦音はそう勘ぐってしまう自分に首を傾げた。



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