4・わだかまり
田畑は店を閉め、出てきた秋月芽依の後を気づかれぬようにら歩き、駅の方へと向かっていた。
人通りは多い。明日は週末で休みになるところも多いからだろう。そのために人々は浮かれ気分だ。
田畑はそんな気分には到底なれず、只事件の真相がどこにあるのかだけを考えている。その過程でチラつくのが芦屋の存在。かつての部下だった彼は、妖怪といった類のものを扱う部署へと異動になった。妖怪など生まれてから一度もみたことのない田畑にしてみれば、よくもまあ訳の分からない部署の設立されたことに疑問を抱かざるをえない。
そんな非現実的なものに対応する部署など、現実を冷静に見極めなければならない警察にあってよいものか。
むろん、抗議したものもいた。
そんなわけのわからない部署に税金を使うなということだ。それを押し切って設立された部署は、はたから見れば雑用係。ときおり自分たちの捕まえたヤマに勝手に入ってくるときもある。上からの指示だというのだが、いったい誰が指示しているというのか。
その主任を勤めている芦屋尚孝ではない。
彼の後ろにいる上司だ。
考えるまでもない。
そんなことできるのは、そんな部署を推し進めた総監だろう。
平安時代に存在していたという陰陽師の家系の当主だかなんだか知らないが、どうも信用に欠ける部分がある。
なによりも自分が目をかけていた部下を取られたということに腹立たしくて仕方がない。
そんな部署で彼は満足しているというのか。
もし、かなうならば彼を引き戻したい。
「すみませんが……。刑事さん」
考え事をしていると、話かけられた。
振り返ると男がいた。その背後には彼に隠れるようにして秋月芽衣がいる。
「困りますよ。うちの従業員を付け回すような真似はしないでほしい」
「別につけまわしてはいない。偶然だ。偶然」
だれかはすぐに理解できる。
あの店の店長を務めている
たいそうな名前をしている。戦国武将のような名前をしながら、いたって優男という雰囲気を持っている。
その笑顔にいけ好かない部下の友人という男を思い出してしまう。一度だけあったことのある男はいつもニコニコしていた。しかし、その奥底がみえない。食えない男だった。それ以上に目の前にいる優男が食わせ物のように思う。
「たまたま?そんなはずはないですよね。昼間も店を覗いていたそうじゃないですか。やめてくれませんか? 警察がストーカーだとメンツ丸つぶれですよ」
「ケッ。そんなつもりはねえよ。なんなら、この御嬢さんは帰ってもらってかまわねえ。話をつけようじゃないか。岩城さん」
「おやおや。僕に御用ですか? 秋月さん。帰りなさい」
「はい」
芽衣は慌ててその場を走り去った。
それを見届けた後に男が振り返る。
「こんな人込みの中で話すことではないようですね」
「そうだな。人に聞かれるような話じゃねえ。こっちにきな」
「はい」
田畑は岩城を人気のない土手のほうへと連れていくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます