6・ドールショップつきくさ
もうすでに太陽が傾き、あたりは薄暗くなっていた。街には仕事帰りのサラリーマンが増えていく。街灯が照らされていき、街にも新たな賑わいを見せ始めていた。
骨董店を出てから電車に乗った洋子は、家への最寄り駅をすぎて数本目の駅で降りる。
にぎわう若者の街。
普段ならば、ショッピングを楽しむところだが、そんな気分にもなれずに気づけばある店の前で立ち止まっていた。
姉のためにぬいぐるみを買った店だ。
ここでぬいぐるみを買った。
違う。
ぬいぐるみを譲ってもらった。
あのぬいぐるみはもういらない。
彼女に渡すべきだろうか。
けれど、彼女とはいつ会えるのか。
だれかはわかる。
最近売り出し中の歌手だ。
ネットを使えば、いくらでも情報が入るだろう。
洋子は店の看板を眺めていた。
『ドールショップつきくさ』
それがこの店の名前だった。こんな名前だったのかと洋子はぼんやりと思っていると、店の中から人が出てきた。
男の人だ。
そんなにたくさん来ていたわけではないが、彼には見覚えがない。年は洋子とさほど変わらないほどだから、バイトといったところかもしれない。
「どうかしましたか?」
彼が洋子を見る。
よく見ると制服だ。
みたことのある制服。
果たしてどこだろうと考えていると、先ほどあった中学時代の先輩の姿が思い浮かんだ。
山有高校の制服だ。
「えっと……あの……」
洋子は困惑した。
なんと答えればいいのかわからなかったのだ。
すると、中のほうから女性が出てきた。彼女には見覚えがある。
「どうしたの? あら。あなた……」
彼女はすぐに洋子のことがわかったらしい。
「あれ? 姉ちゃん知っているのか?」
この二人は姉弟らしい。
「この前、別のお客さんからぬいぐるみをもらっていた子よ。どうしたの?」
「えっと……」
戸惑っていると、さらに中から二人の男性が出てきた。ふたりとも背広を着ている。
サラリーマンだろうか。
「すみません。お邪魔しました」
「いいえ。なにか掴めましたか?」
どこかで見たことのある顔だ。
いったいどこだったのだろうか。
洋子が考えていると、男のほうが気づいたらしい。
「君……。香川亜衣さんの妹さん?」
姉の名前が出てどきっとした。
思いだした。
刑事さんだ。
葬式の時にも来ていた刑事さん。
たしか名前は芦屋といっていた。
どうして刑事さんがこんなところにいるのだろうか。相方にも見覚えがある。
どうみても仕事がらみにきたとしか思えない。
この店が姉の死と関係があるのだろうか。
「あの……」
「それではお騒がせしました」
芦屋刑事は店員さんのほうを見たのちに少年のほうを見る。
「君も巻き込まれるね」
「はい?」
少年は首を傾げている。
「いや、なんでもない。いくぞ。柿原」
「はい」
ふたりの刑事は、洋子に一礼すると歩き出した。
ゆえに洋子は疑問をなげかける暇はなかった。
どうしよう。追いかけるべきだったのか。
いったい捜査はどうなっているのか。姉はだれに殺されたのか。なぜ殺されなければならなかったのか。
この店と関係があるのか。
いろいろと尋ねてみたかった。でも、答えてくれないことはわかっていた。
実際に葬式のとき、母が警察に訪ねていたみたいなのだが、今は捜査中だと切られてしまったからだ。
歯痒い気持ちで刑事さんたちの背中を見ていた。
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