第3話 歴史的邂逅

 緊張した様子は感じられたが悪意は感じられなかったので、大人しく向かい合う。

 意識を失う前、撃たれたように思ったが、麻酔銃か何かだったらしい。ケガはなかった。

 そして無駄だとは思ったが、一応訊いてみた。

「俺の服と持ち物は?」

 キョトンとして、困ったように何か言われた。

「紗希はどこだ」

 無駄でも繰り返す。

「紗希は無事だろうな」

 正確に通じなくても、察する事は可能だろう。

「紗希に会わせろ」

 いつか何となく伝わると信じたい。

「紗希は何をしている」

 彼らは何かを相談するように話し合い、中の1人がどこかに電話らしきものをかけた。見た目は腕時計だ。

 しばらくして、ドアがスライドし、紗希が連れられて来た。

「篁文!」

 病院の検査着のようなものを着ている。膝丈のワンピースのようなデザインだ。見た限りでは元気そうで異常は見当たらない。

「何もされてないか」

「大丈夫。検査かな。採血されたくらい」

 篁文も、肘の内側に小さなパッドが貼ってあった。ついでに、同じ検査着のような物を着ている。

 また、彼らが何か言う。わからないので、首を傾げる。

 中の1番上らしき人が、紗希を指して

「サキ」

と言う。

「そう。紗希」

 紗希が、自分を指さしてそう言うと、彼らは少しホッとしたように笑った。

「タカフミ」

 紗希が、篁文を指して言う。

 彼らは頷き、そして、彼は自分を指して

「マルマ」

と言った。

 皆で、笑って頷き合う。

 込み入った会話ができるまで、相当かかりそうだ。

 しばらくすると、食べ物の乗ったトレイが運ばれて来た。

「そう言えばお腹空いたわねえ」

 いい匂いだ。

「何でできているかわからないな」

「大丈夫でしょ。美味しそうな匂いだもん」

「俺達にとっての毒物が彼らの食事だという事もあり得るぞ」

 篁文がどうしたものかと思案しているそばで、紗希がパンのような物に食いついていた。

「あ……」

 止める間もない。

「ん?美味しいわよ!クロワッサンみたい」

 マルマはホッとしたように笑いながら、パン、紙コップに入ったジュースのようなもの、ミカンのようなものの乗ったトレイを勧める。

 まあ大丈夫そうだと判断し、篁文も少しずつ口に入れる。

 紗希はモグモグと嬉しそうに食べ、

「この人達、いい人ねえ」

と篁文に笑いかけた。

「……食べ物に釣られたんじゃないだろうな。紗希。飴玉をあげると言われてもついて行くなよ」

「子供じゃあるまいし。もう。

 あ。ミカン美味しい。甘いよ、篁文」

「そうか」

 嬉しそうに食べる紗希を見ていると、用心もバカらしくなってきて、篁文もパンにかぶりついた。

「事情説明を理解できるまで、食べ物が体に害のない物らしくて良かった。長くかかりそうだからな」

「うあ?あに?」

「飲み込んでから喋れ」

「うあい」

 篁文は溜め息を堪え、マルマは笑いをこらえていた。


 その後数日間、健康診断らしきものを受けながら過ごした。紗希は別の部屋にいたらしいが、篁文の所に移って来た。流石に1人だと心細いのだろうと篁文は思ったが、実にのびのびと、警戒心の欠片も見せない様子に、篁文はそれが思い違いだったと悟った。

「お前なあ。一応男と同室で寝起きって、自覚あるのか」

「篁文だもん。今更」

「一緒に風呂に入ってたのは大昔だろ。

 食べ物には釣られそうだし、俺は心からお前が心配だ」

「心配症ねえ。

 それより、これって異世界よね。もしくは宇宙人とか。これって歴史的邂逅よね。私達、凄い事に巻き込まれたのよね。教科書に載るかも」

 紗希が笑う。

「凄い事に巻き込まれたのは否定しないが、教科書に載るとすれば、無事に元に戻れるのが条件になるな。ジョン万次郎が有名になったのは、日本に帰還できたせいだ」

 篁文は溜め息をこらえながら、自分が2人分心配する必要があると、改めて肝に銘じたのだった……。







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