第3話
随分と歩いた。痛みは感じないが、関節が動かしにくくなった気がする。
「そうなの?あと少しだし、抱っこしてくね。」
ひょいと俺は抱えられ、彼女は歩く。周りは植物で溢れかえっており、人工的なものはひとつも見当たらない。本当にあるのだろうか。
「わたしね、一人で暮らしてるの。だから、周りにお家はないの。」
こんなに小さい子が、一人でか。........なんか理由でもあるのだろうが、聞かないでおくか。
「ありがとう。」
彼女はそう言って、軽く微笑んだ。だが、目は笑っていなかった。
「あとちょっとだよ。ほら、あのお家。」
俺は頭を上げ、前を見た。そこには、蔦に絡まれ、木と一体化し、所々崩れた家があった。
「........?」
その中から、唸り声が聞こえる。敵か?
「違うよ。わたしの家族なの。一人と、一匹で暮らしてるの。」
一人でって言ってなかったか?........「一人」と、一匹ということか。
「よいしょ。」
彼女は家のドアの前につくと、そうっと地面の上に俺のことを下ろした。関節はもう大丈夫みたいだ。
「ちょっとまっててね。お家の中綺麗にしてくるね。」
「........」
俺は頷き、その場に座った。幼いとはいえ、女性なのだろう。
「........、........。........!........。」
やっぱり、どんだけやっても声は出ない。進化とかないのか?どんどん肉がついていって、やがて人間になるような。........無いか。
「グルルルル」
「?」
腹の音か?いや、ここには俺しかいない。そもそも俺に腹はねぇ。くそ、食われたらどうすんだよ。
「ガルルルル」
サッサッ、草をわけ、進んでくる音がする。鼓膜もないのに、よく音が聞こえるな。
「ガウッ」
俺めがけ、犬のようなしかし、可愛さは微塵もない生き物が飛びかかってきた。
「........!」
俺は必死に抵抗する。しかし、骨だけの俺に、追い払えるほどの力は無かった。俺は咥えられ、草の中へ連れていかれる。
「........!」
チクショォ。
「........!」
そういえば、手がとばせるんだったっけか。でも、飛ばしたら取りに行けなくなる。........そんなこと言ってる場合ではないか。
「........!!!」
「ギャンッ」
見事、犬擬きの鼻に命中した。奴は一旦俺を離した。
「........!」
俺はそのスキをついて、逃げようとした。
「ワォォォン!」
大きく遠吠えをした。逃げるのか?
「グルルルル」
「ガゥッガゥッ」
どこからともなく、お仲間が集まってくる。クソ、俺に出来るのはここまでだ。大人しく喰われるか。
「グルルルル」
奴らは俺の四肢を咥え、どこかへ運ぼうとする。抵抗はしなくていいか。すれば、関節が取れ、動けなくなるかもしれねぇ。
俺は彼女の家から遠ざかる。今頃探してんのか?ごめんよ。
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