第2話

........俺はなぜ抱きしめられているのだろう。


「ん。ありがとう。」


彼女を見つめる。瞳にはもう、涙は浮かんでいなかった。なぜ俺にそのような態度をとったのか聞きたい。


「........?」


俺は必死に声を出そうとした。だが、骨しかない俺からは、骨のぶつかる音しかしない。


「わたし、ひとりだから。」


俺は一切声を発していない。だが、彼女には俺の考えが伝わっていた。不思議だ。


「これからお家いく。着いてきて。」


彼女は俺の手をぎゅっと握り、ゆっくり歩き出す。


「お家まで遠いから、我慢して。」


骨だけなのに歩けるのが不思議でならない。筋肉すらないのに、どうやって動いているのだろう。この胸にある、紅い石が関係しているのだろうか。


「紅い石はね、不思議な力で、ものとものを、くっつけて、動かしてくれるの。だから、意思があれば、紅い石が反応して、思うようにものを動かしてくれるの。」


なるほど。骨を飛ばそうと思えば飛ばせるのだろうか。彼女の話を聞いて、試したくなった。


「........!!!」


思いっきり力を入れると、意識した左の手が飛んでいった。そして、木の上に引っかかった。


「あっ。わたし、取ってくるね。」


彼女はふわふわと飛びながら、木の上へ昇る。そして、俺の手を取ると、ゆっくりと戻ってきた。


「はい。これくらいの速さなら、弱い魔物は倒せるね。」


俺が飛ばすことは分かっていたらしい。彼女は俺の思考が読めるのだろうか。この考えていても、筒抜けなのだろうか。まぁいい。


「ここから沼だから、わたし、抱っこするね。」


彼女は俺をそっと抱くと、ゆっくり浮遊しながら、沼を渡った。骨とはいえ、だいぶ重いはずだ。なのに、一切辛い顔を見せない。


「よいしょ。」

「........」


聞こえないだろうが、お礼は言っておく。さっきは驚きで、言うのを忘れてしまったが。


「どういたしまして。」


彼女はそう言うとまた俺の手を握り、歩き始めた。飛べば早く着くのではないか?とは思ったが、彼女ばかりに頼ってばかりはいられない。幼女に世話される成人男性は、どうなのだろうか。


「そんなことない。あなたが、立派になるまで、わたしがお世話するの。だから、沢山頼っていいよ。」


俺は何故かすごく安心した。大人が子どもにそう思うことが、おかしいことくらい分かっている。


「大丈夫。」


彼女はそう言うと、優しく抱きしめ、頭を撫でてくれた。普通だったら、苛立ちを覚えているかもしれない。しかし、俺は無い目から、液体ではない、涙が零れていた。


「泣かないで。お家急ご。」


俺は彼女に手を引かれ歩く。まだ彼女の家は見えない。あとどれくらい歩くのだろうか。骨には分からない。

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