第6話 超ド級のシリアス展開! 人間を食う化け物、妖魔獣の出現!

 深夜の二時二十分。

 車内で寝ていた生徒たちは、激しい揺れを感じて目を覚ました。

 それは高波を受けたものとはまったくちがう。

 船体がなにかに激突したかのような、衝撃を伴う強い揺れである。


「くっそ! よりによって氷山かよ! みんな! 今すぐ船から脱出しろ! 優雅にバイオリンなんて弾いてる余裕はねーぞ!」


 太一は大慌てで避難を呼びかけた。

 もうすぐ船内に海水がどっと流れ込み、遅かれ早かれフェリーは海の底へ沈んでしまうのだ。

 そうなる前に、船上デッキから救命ボートで脱出しなければならない。

 しかし、全員が乗れるだけの数は確保されているのか。

 数が足りたとしても、スケルトンは後回しにされてしまうのではないか。

 救命ボートに乗ることができなければ、おのずと結末は見えている。

 冷たい海の上にプカプカ浮かぶ、氷漬けのスケルトンたちだ。

 最悪の展開が頭によぎり、太一の焦りの色も深くなる。


「落ち着け、青島! ほかの生徒も冷静となれ! 今は夏休みの最中だ! 日本近海に氷山などあるはずがない! まずは船内アナウンスを待ってから行動に移すぞ!」


 さすが人生経験豊富なアラフォー独身彼氏なし。

 律子先生の的確な洞察力と判断力で、車内のパニックはいくらか落ち着きを取り戻した。

 太一も平静を保つよう心がけ、ひとまず座席で待機する。

 すると――。

 里奈の様子がなんだかおかしい。

 なにかに警戒しているのか、カーテンを少しめくり車外を覗き込んでいる。


「どうした里奈、船員でもきたのか?」

「ちげーよ、兄貴。もっとやばいもんがきちまった」

「やばいもんってなんだよ?」

「妖魔獣さ。今の揺れは妖魔獣が結界を張ったときの衝撃だ。窓の外を見てみろよ」


 里奈に言われたとおり、太一は窓の外に眼窩を向けた。

 するとトラックデッキの光景が異様なものとなっている。

 視界はやや灰色を帯び、結界の中にいるようなコントラストとなっていた。

 それだけではない。

 謎の蔓(つる)がそこらに密生し、積載されたトラックにまでからみついている。

 それは一本一本が腕ほどの太さがあり、ウネウネと触手のようにうごめいていた。


「おい里奈……あのエロアニメで見るような気持ち悪い蔓はなんだよ……。てか、妖魔獣ってどういうことだよ……」

「兄貴の部屋でも話したじゃねーか。魔法少女が戦う相手、それが妖魔獣さ――」


 里奈は妖魔獣について詳しく述べた。

 漏れ出た人々の負の感情が集約し、自然発生的に生まれるのが妖魔獣だ。

 その姿は人型タイプ、獣型タイプ、植物型タイプ、と千差万別である。

 ときには車やバイクなど、なにかに生成された無機物型タイプもいる。

 だが共通して言えることは、妖魔獣は結界を張り、その中で人間を食らうということだ。

 食われた人間は存在そのものが消滅し、住民票すら痕跡が残ることはない。

 結婚式を翌日に控えたカップル、その彼女が食われると最悪だ。

 以下予想される、挙式担当者と彼氏の会話。


『明日の結婚式についてですが、本当にお一人で式を挙げるおつもりですか?』

『おかしいな……。なんで俺、彼女もいないのに結婚式やろうと思ったのかな……』

『今からキャンセルとなると、式の費用は全額お支払いということになりますが?』

『い、いくらでしたっけ……?』

『三百万円です』


 これは悲惨である。

 彼女を記憶ごと失い、結婚式の請求金額だけが残るのだ。

 話はそれだけでは終わらない。

 恋人もいないのに、一人で挙式の準備を進めていたのと同じこと。

 勤め先、親族、友人からは奇人変人とみなされ、人間関係のすべてが破綻する。

 もう遠くの町へ引っ越すほかはない。

 妖魔獣、恐るべし。


「そんなやばい敵が現れたってわけか……」

「兄貴、やばいなんてもんじゃねーよ。あの蔓の多さを見ると、妖魔獣の張った結界は船ごとだ。ようは、船にいる人間すべてを食い尽くすつもりらしいぜ」

「マジかよ! それってめちゃくちゃやばいだろ! 早く110番しねーと!」

「兄貴、無駄だよ。結界の中にいると外部との連絡は通じないんだ。結界の外に出ることだってできない」


 里奈は落胆したようにうつむき、その頭蓋骨を左右に振った。

 それでも万策尽きたわけではない。

 このバスの中にはピーちゃんがいる。

 魔法少女にその力を与えた謎の生命体だし、妖魔獣を倒すことができるはずだ。

 太一はそう考え、真後ろの座席、金魚鉢の前でしゃがみ込んだ。


「おい、ピーちゃん。起きてるか?」

「起きてるよ。見ればわかるだろ」


 ピーちゃんは水草を口で突っついている。

 なんとも反抗的な態度だ。


「この船に妖魔獣が現れたのは知ってるか?」

「知ってるよ」

「なら、やっつけてくれ。おまえならできるだろ」

「できるけど、やだよ」

「なんでだよ」

「めんどくさいからさ」


 そう言ってピーちゃんはプイっとそっぽを向いた。

 このクソ金魚をミキサーにかけ、ミキサーごと焼却炉で燃やしてやりたいところだ。

 だが太一はその感情を押し殺し、現状の打開策に努めることにした。


「俺じゃなくて、里奈がお願いしてもダメなのか?」

「里奈ちゃんだろうが関係ないよ。ボクはめんどうだからこそ、魔法少女に妖魔獣を倒すことをお願いしてるんだ」

「じゃあ、手を貸してはくれないってことか?」

「そうでもないよ。ボクもそろそろエナジーを補給したいと思っていたところだしね」


 エナジーと聞いて太一は思い出す。

 妖魔獣を倒すとエナジーを得ることができ、それがピーちゃんの生命エネルギーとなる。

 単純な話、そろそろ腹が減ったのだろう。


「じゃあ、どうすんだよ。どうやって妖魔獣を倒すんだよ」

「君たち全員に、魔法少女の力を与えてあげるよ。今回だけだけどね」

「俺たちに戦えってことか?」

「うん。そういうことだよ」


 その提案を受け、太一は偏差値三十以下の頭で深く熟慮した。

 自分たちが戦うということは、スケルトンの姿を乗客に見られてしまうということだ。

 妖魔獣を倒したとしても、パニックがおさまるわけではない。

 渋谷スクランブル交差点へ行くどころではない。

 つまるところ、本作戦、ぼくらのスケルトン戦争は、ここにて終結。

 かつての魔法少女たちのように、スケルトン星へ移住を余儀なくされるのだ。

 選択肢は二つ。

 大勢の人の命を救い、人間に戻ることを諦め、スケルトン星で暮らすか。

 妖魔獣が乗客を食らい終わるのを待ってから、どうにかして東京を目指すか。

 これは自分一人で決められることではない。

 ゆえに太一は妖魔獣の出現を仲間に伝え、戦うべきかどうかを問うてみた。

 すると、一人の男子生徒がすくっと立ち上がる。


「太一君、ぼくのお婆ちゃんね、去年、病気で死んだんだ。ぼくはお婆ちゃん子だったから、めちゃくちゃ泣いたよ。大声出してわんわん泣いたよ。今でもお婆ちゃんのことを思い出したら、涙が出てくるんだ。でもそれって、お婆ちゃんの記憶があるから泣けるんだよ。記憶があるからこそ、優しかったこととか、楽しかったこととか、思い出すことができるんだよ。でも妖魔獣に食われた人間は、誰からも忘れ去られて死んじゃうんだよね? そんな悲しい死に方ってないよ。それを黙って見過ごせないよ。だからぼくは妖魔獣と戦うことを選ぶ」


 そう語ると、男子生徒は静かに座席に着いた。

 頭蓋骨に名前が書いてはあるが、ここからでは見えない。

 学級委員長のような気もするし、そうでないかもしれない。

 誰だかは知らないが、彼の熱い言葉に太一は心を打たれた。

 すると、一人の女子生徒がすっと座席を立った。


「青島君。正直なところ、渋谷スクランブル交差点までたどり着けたとしても、人間に戻れる可能性は低いと思います。だって、全世界を巻き込んでの大騒ぎになるんですから。人間に戻ることがもう無理だと判断したとき、ピーちゃんはわたしたちをスケルトン星に送ることでしょう。べつにそれは構いません。青島君に恨みもありません。だって、妹を助けるために青島君はこうせざるを得なかったんですから。わたしたちはそれに協力したまでのことです。でも、わたしは後悔したくないんです。どうしてあのとき、妖魔獣から人々を救わなかったのか。どうしてあのとき、わたしは立ち上がらなかったのか。そんな後悔、絶対にしたくない。だからここではっきりと宣言します。わたしは妖魔獣と戦う。以上です」


 ひとしきり心情を吐露したのち、女子生徒は粛然と座席に着いた。

 頭蓋骨に書かれた名前が小さくて、ここからでは読めない。

 吹奏楽部の佐々木のような気もするし、そうでないかもしれない。

 誰かは知らないが、彼女の覚悟を聞いて太一の目頭が熱くなる。


「ふん、私も同じ意見だ。教職者として見て見ぬ振りはできん」

「太一、あたしも妖魔獣と戦うわ。大勢の人を見殺しになんてできないもの」

「兄貴、あたいも戦うぜ。これでも元魔法少女だしな」


 律子先生、佳織、里奈も足並みを揃えた。

 クラスの仲間もそれに同調し、血液もないのに熱き血潮をたぎらせている。

 答えは決まった。

 太一は金魚鉢に向き直り、クラスの総意を伝えることにした。


「よし、ピーちゃん、俺たちに魔法少女の力を頼む」

「うん、わかったよ」


 するとピーちゃんは、水面をちゃぷんと飛び跳ね空中に浮遊した。

 車内を見渡せる高さにとどまり、胸ビレをパタパタと動かしている。

 水中でもないのに苦しんだ様子も見られない。


「さあ、君たち。力を合わせて妖魔獣を倒すんだ」


 ピーちゃんが口をパクパクひらくと、金魚の体がこがね色に輝きはじめた。

 それに伴い、生徒たちの体も同じような光に包まれていく。

 次の瞬間――。

 女子生徒の制服が、魔法少女のごとく派手な衣装にコスプレされた。

 ジャージ姿の里奈、白衣を着た律子先生もまた同様だ。

 男子生徒の制服は、近未来学園風のこじゃれたものに変化した。

 それだけではない。

 生徒たちは具現化された武器も持っている。

 刀身が青色に輝く両刃の剣や、矛先に赤いオーラをまとう大槍。

 金色の光に包まれた弓矢、アンティーク調に装飾された拳銃やライフル銃。

 どれもアニメやゲームに登場するような、中二好みする武器だった。


「俺の剣、光ってるぜ! なんかかっけー!」

「ぼくの槍なんて、なんでも貫けそうだよ!」

「わたしのライフル銃、すっごく太いわよ!」


 クラスのみんなは武器を手にし、子どものように胸を躍らせていた。

 それほどまでに素晴らしい、職務質問待ったなしの武器類である。

 律子先生ですら、具現化された光るバズーカーを担ぎ吠えていた。

 しかし悲しいかな、それらを装備しているのは不気味な骸骨だ。

 こんなアニメを日曜の朝に放送したら、チビッコはガチ泣きして保護者からのクレームが殺到するだろう。

 それはそれとして、太一の心はひどく冷めていた。

 なぜなら、自分の武器がフラフープだからだ。

 ピンク色をしたプラスチック製のもので、エフェクトの光すらなかった。

 むろん、太一は断固として抗議する。


「おいピーちゃん。なんで俺の武器だけフラフープなんだよ。おまえふざけてんのか」

「ふざけてないよ。ボクはランダムで武器を与えたんだから」

「俺だけドンピシャでフラフープとか、なにがランダムだよ。嘘つくんじゃねーよ。なんで俺だけこんな意地悪するんだよ。嫁入り前の大切な妹を騙してさ、俺の家で一年間ものうのうと暮らしてさ、感謝される覚えはあっても、意地悪される覚えなんてねーんだぞ」


 太一はなんだか切ない気持ちになってきた。

 はじめて金魚をすくえた喜びは今も忘れない。

 ゆくゆくは大海原に羽ばたいてほしいという理由から、ピーちゃんという名前をつけた。

 毎日餌をやりながら、その日あった出来事を話すなど、友だちのように接してきた。

 それなのに自分の武器だけフラフープである。


「だからボクは意地悪なんてしてないよ。ただの偶然だよ」

「つーか、フラフープなんかで戦えるかよ。そもそも、これを武器にしようとする発想じたいがどうかしてるんだぞ」

「そんなことはないよ。それを回せば魔法が発動されるんだ」

「どんな魔法だよ」

「それはあとから試してみればいいさ」

「これがただのフラフープだったら、おまえを末代まで呪ってやるからな。覚えておけよ」


 太一はそう吐き捨て、とりあえずバスを降りた。

 ほかの生徒も車外に出ると、手分けをしてトラックデッキを調べることにした。

 この空間はやけに広く、大型車が百台以上積載していると思われるが、どの車両にもたくさんの蔓がまとわりついていた。

 触手のようにうごめくそれは、まるで獲物を探し回る大蛇に見えなくもない。

 だが蔓が襲ってくる気配はなかった。

 肉がないスケルトンは捕食対象外であるらしい。

 そんなとき――。


「た、助けて……くれ……」


 船員らしき作業着姿のおじさんが、壁に張りつけの状態にされていた。

 手足や胴体に蔓がからみつき動きを封じられている。

 蔓からは粘液のようなものが漏れ出ており、彼の作業着が少し溶けていた。

 溶かした肉を蔓から吸い上げ、食虫植物のごとく人を捕食すると思われる。

 するとその船員は太一を目に捉えてワナワナと震えはじめた。


「ひ、ひえ……骸骨の化け物がいる……」


 船員が恐怖するのも無理はない。

 近未来学園風の制服を着た、フラフープを手にする骸骨が現れたのだ。

 いろいろな意味で恐ろしいことだろう。

 それよりもまず、この船員の救助が急がれる。


「おっさん、心配いらないぜ! 俺は助けにきただけだ!」


 太一はフラフープを頭から通し、両腕を広げて腰をクネクネと回した。

 しかしまったく回すことができず、フラフープは床にストンと落ちる。

 考えてみれば当然だ。

 制服の下はスカスカの骨となっている。

 胴体の幅がなければ、フラフープをうまく回せるわけがない。

 それでも太一は必死になってそれに挑戦し続けた。

 もし回すことができれば、なんらかの魔法が発動されるのだ。


「もうやめてくれ! 頼むからどこかに行ってくれ!」

「ちがうんだおっさん! これは救助のためのフラフープなんだ!」


 ガチで泣きはじめ、頑なに救助を拒む船員。

 そんな彼の眼前で、フラフープに挑み続ける太一。

 ある意味これは船員との戦いでもある。

 そこへ――。


「兄貴! ここはあたいに任せておきな!」


 里奈が支援に駆けつけた。

 妹が手にする武器は紫色に輝く日本刀、それも二刀流となっている。


「妖斬乱舞! 百の太刀!」


 そんな技名を口にすると、里奈は乱れるように刀を振った。

 神速で繰り出される左右の太刀筋により、幾千もの紫光が乱れ飛ぶ。

 船員を拘束する蔓は紙一重の精度ですべて切断、その攻撃を受け、周辺の蔓がワラワラと壁の中へ引っ込んでいく。

 切り落とされた蔓に関しては、崩れる砂のようにして消え去った。

 船員は恐怖で気を失ったらしいが命に別状はないだろう。


「さ、兄貴、ほかの人を助けに行こうぜ」

「おい里奈、ちょっと待て。俺の武器と交換してくれ」


 先を急ごうとする里奈を呼び止め、太一はフラフープを突き出した。

 ぶっちゃけ、これは使い物にならない。

 回さない限り、魔法が発動されない。

 それができない以上、このフラフープはガラクタでしかないのだ。


「さ、さてと! 早く妖魔獣の本体を倒さないとな!」

「コラ! 逃げるんじゃねー! そのカッコいい日本刀を俺によこしやがれ!」


 里奈は華麗にスルーを決め込みどこかへ走り去っていく。

 太一はフラフープを振り上げて、そんな妹をがむしゃらに追いかけた。




 逃げ回る里奈を見失った太一は、上層に位置する乗客デッキにいた。

 そこは雑魚寝専用のフロアなのだが、うごめく蔓のジャングルと化している。

 その蔓に絡め取られた乗客の数、およそ三十人。

 顔だけを出したミノムシ状態となり、天井からぶら下がっていた。

 早く救助しなければならない。


「うりゃッ!」


 垂れ下がる蔓に狙いをつけ、太一はフラフープを水平に投げ放つ。

 もうこうやって使うほかはない。

 しかし、魔法の発動されないフラフープはただのフラフープ。

 何度試しても、蔓を切断することはできなかった。

 太一はしかたなくフラフープをくぐり、本来の使用方法に回帰した。

 むろん、一度も回らない。

 それどころか、捕食されかけた乗客たちは太一を見て泣き叫んでいる。

 この差し迫った状況の中で、骸骨がなぜかフラフープに挑戦しているのだ。

 その恐怖はひとしおと思われる。

 そんなとき――。


「太一! ここはあたしに任せて!」


 疾風のごとく蔓群をかいくぐり、佳織が助っ人にやってきた。

 頭蓋骨は気味の悪い漢字だらけなので間違いなく本人だ。

 そんな彼女は金色に輝く弓矢を持っていた。

 上弓と下弓が花びらで装飾された、魔法少女に相応しいものである。


「聖なる光の加護のもと、忌まわしき闇を射てつくさん! ホーリーアローサウザント!」


 佳織は半身の姿勢で立ち構え、ピン、と矢を射放った。

 そこから放たれた一本の矢は、傘がひらくようにして幾千にも分裂。

 かつ、軌道を変え、周囲の蔓を串刺しとした。

 その攻撃を受け、ミミズのようにのたうち回る蔓群。

 乗客たちの拘束もするりと解かれ、すべての蔓が壁の中へ引っ込んでいく。

 ひと言もの申したい詠唱は別にし、まさに目を見張る魔法攻撃である。

 その力を我がものとするため、太一はそっと佳織に近づいた。


「おい佳織、俺の武器と交換してくれ」


 クソも役に立たないフラフープをぐいっと差し出す。


「どうして交換しなきゃいけないの……?」

「おまえ、フラフープ好きだったろ」


 太一はよく覚えている。

 小学生のとき、佳織はフラフープにはまっていた。

 家の前や近所の公園でアホみたいに腰を回していた。

 タニシを捕りに行こうと誘っても、全然相手にしてもらえなかったのだ。

 そんな佳織には、このフラフープがお似合いというもの。


「フラフープが好きだったのは、いっときだけよ……。すぐに飽きちゃったし……。てか、あんたよくそんなこと覚えてたわね……」

「おまえがフラフープに夢中だったから、俺は里奈と二人でタニシ捕りに行ったんだぞ。それでバケツいっぱいのタニシ持って帰ったら、母ちゃんにめちゃくちゃ怒られた。だから覚えてた。とりあえず俺の武器と交換してくれ」

「え、えっと、明日は晴れるかな!? じゃ、じゃあね!」


 佳織は天気の話ではぐらかすと、弓矢を胸に抱えて逃走を開始した。

 そんな彼女に己の頭蓋骨を放り投げ、太一は罵詈雑言をぶちまけた。

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