第3話 クラス全員スケルトン、バスに乗って東京へ出発!

 翌日の午後一時ごろ。

 太一と里奈は、二年A組の掃除用具箱の中にいた。

 律子先生も教卓の下に隠れており、クラスの生徒がくるのを待っている。

 信頼できる仲間とは、すなわちクラスメイトだ。

 みんなを強制的にスケルトンにし、協力を頼む。

 クラスの仲間は、きっとそれに協力してくれる。

 ときにはケンカ、ときにはイジメ、ときには派閥同士の血で血を洗う争いなどもあった。

 しかしそれを乗り越え一致団結し、今の二年A組があるのだ。

 ゆえに協力を頼むのであれば、クラスメイトしかありえない。

 ちなみに抜き打ち補習という名目で生徒に招集をかけ、昨夜から今にいたる。


「夏休みなのに抜き打ち補習とか、超だりー」

「当日に電話くるとか、こっちの予定がくるうっつーの」


 ほどなくして二人の男子生徒が教室にやってきた。

 とはいえ、いま掃除用具箱を飛び出すわけにはいかない。

 まとめてスケルトンにするため、クラスの全員が揃うのを待つ手はずだ。

 教卓の下に隠れている律子先生も、その段取りはもちろん把握している。


「補習とかマジありえないんだけど。彼氏にドタキャン入れるはめになったしさ」

「うちなんて彼氏と旭山動物園行く予定だったんだよ? もう最悪ぅー」


 二人のリア充女子生徒が教室にやってきた。

 とつぜんの招集だけに、グチりたくなる気持ちはわからなくもない。

 しばらくすると、教室がガヤガヤとうるさくなってきた。

 太一は掃除用具箱を少し開け、教室の中をそ~っと覗き込んでみる。

 すると文句タラタラながらも、クラスの全員が集まっていた。

 それから数十秒後、黒板上に掲げられた時計の針が、一時ジャストを示す。

 集合時間のタイムアウトだ。


「みな揃ったか! なら席に着け!」


 教卓の下に隠れたままで、律子先生が大呼し口火を切った。


「おい、今の先生の声だよな?」

「教卓の下から聞こえたわよ?」

「かくれんぼでもしてるのか?」


 不自然な状況だけに、生徒たちが困惑するのも当然だ。

 その疑問を確かめようと、教卓に近づく者も何人かいた。

 しかし律子先生の統率力は伊達ではない。


「静かにしろ! 私がここにいることはどうでもいい! 早く席に着けと言っているのだ!」


 どうでもよくはないが、鬼教師の叱責だ。

 生徒たちはガタガタと着席し、身を固めてピシャリと静まり返る。

 これで準備は整った。


「よし、行くぞ! 里奈!」

「わかった!」


 全裸スケルトンの太一。

 太一のジャージを着たスケルトンの里奈。

 二人は掃除用具箱から飛び出し、両腕を広げながら教室後方より駆け抜ける。

 二手に分かれ、生徒たちの頬を両手でタッチする。

 律子先生も白衣をなびかせながら腕を広げ、黒板側から生徒たちの肌にふれていく。

 こうすることにより、二列同時にスケルトン化させる寸法だ。

 三人がかりであれば、席の間を折り返す必要もない。

 すべての生徒にふれるのに、十秒もかからなかった。

 一瞬のことなのでみな唖然としているが、このままでは大騒ぎとなるのは必至。

 そうなる前に先手を打つ。


「俺は青島太一だ! みんな落ち着いてくれ!」


 太一は教壇に立ち、教卓の上に両手をバン、と置いた。

 クラスのみんなは徐々にスケルトンと化している。


「いいか、見てのとおり俺はスケルトンだ! そしておまえらにもスケルトンになる魔法をかけた! 剣と魔法の世界なら、さして驚くキャラでもないから怖がるな!」


 太一はクラスの仲間に自制をうながした。

 すでに生徒の全員が、ツルッパゲ頭のスケルトンに変貌を遂げている。


「ど、どうなってるんだ……これ……」

「な、なにが起きたっていうの……」

「お、俺の大切な髪の毛が……」


 お互いを見て震える生徒たち。

 自身の姿に茫然とする生徒たち。

 各々は叫ぶことすらも忘れ、その怪異に度肝を抜かれた様子。

 およそ四十名が瞬く間にスケルトンと化したのだ。

 そのインパクトがもたらす効果は、狂乱を抑え込むほどに絶大である。


「よし、みんなスケルトンになったみたいだな。作戦は成功だ」


 太一は教室を見渡して満足気にうなずいた。

 すると――。

 一人の女子生徒が机をバンと叩き、荒々しく席を立つ。

 窓際最後尾の位置だけに、太一にも誰であるかは察しがついた。

 幼稚園からの幼馴染みで小中高とクラスをともにしてきた腐れ縁。

 佐倉佳織である。

 髪型はショートヘア、瞳はパッチリとしており細身の体躯。

 むろん、彼女にその面影はまるで見られない。


「ちょっと太一! あんたいい加減にしなさいよね! なんであたしたちまでスケルトンにされないといけないのよ!」

「おい佳織、そう興奮するな。俺と里奈、律子先生が人間に戻るためには、こうするしかなかったんだよ。だからクラスの仲間であるおまえらに協力を頼んだんだ」

「頼まれた覚えなんてないわよ! あたしたちは無理矢理スケルトンにされたのよ!」

「なったもんはしかたねーだろ。もうあきらめて俺の言うとおりにしろ。じゃないとおまえらも人間に戻ることはできないんだぞ」

「ふざけるんじゃないわよ! こんなことが許されると思ってるの!?」


 カスタネットのごとく顎骨を鳴らして佳織は怒声を飛ばす。

 そんな彼女に同調し、クラス全体からもブーイングが湧き起こる。

 もうカスタネットどころか、荒れ狂う木琴コンサート状態だ。

 このままではクラスはバラバラとなり、目標達成は叶わない。


「最低なのはおまえらのほうだ! あそこを見ろよ!」


 太一は教室後方に向け、ビシっと指の骨を突きつけた。

 そこでは眼窩に両手をあてながら、里奈がシクシクと泣いている。

 律子先生はそんな妹の肩を抱き寄せ優しく慰めていた。

 むろん、これは演技だ。


「いいか、あそこで泣いている骸骨は、俺の妹の里奈だ。白衣を着てる気持ち悪い骸骨が、律子先生だ。そして俺たち三人になにがあったのかを、これからおまえらに説明する。だから耳の穴かっぽじって、よーく聞いてくれ」


 太一はこれまでに起きた出来事を、一から十までこと細かに口にした。

 昨今の少年少女はファンタジーに寛容があるらしく、疑う者は誰もいなかった。

 中にはループ説を考察するバカもいた。

 ともあれ、こうしてスケルトンになったことこそが、疑いようのない事実。

 ひとしきり説明を終えると、太一はクラス会議のシメに入る。


「里奈はまだ十四歳なんだぞ! それにピーちゃんに騙された里奈が一番つらいんだ! そんな里奈を泣かすおまえらのほうが最低だって言ってんだ! なにがクラスだ! なにが仲間だ! なにが友情だ! 俺たち二年A組の絆は、そんなちっぽけなものだったのかよ!」


 強い口調で言い放ち、太一は拳を教卓の上に叩きつけた。

 さらには涙をぬぐう小芝居も忘れない。

 すると――。


「太一の言うとおりだぜ!」

「俺らが協力しないでどうするよ!」

「それができるのは私たちだけよ!」


 何人かの生徒が立ち上がり、その熱い気持ちがクラス全員に広がっていく。

 これが信頼のできる仲間であり、揺るぎのない結束力である。

 むろん、その中には佳織の姿もふくまれていた。


「太一君! これはもう戦争だよ! ぼくらのスケルトン戦争だよ!」


 とある男子生徒が拳を握って席を立つ。

 その声は学級委員長だったような気もするし、そうではない気もする。

 今となっては判別のつかない骸骨だ。

 それでも太一は彼の熱い言葉に胸を打たれた。


「そのとおりだ。これから俺たちは七日間戦争を戦い抜くんだ。くだらない校則で抑圧するクソ教師。なんの役にも立たない勉強を押し付けるバカな親。そんな大人たちに反旗をひるがえし、最後はエレーナで勝利の花火をドッカーンと――って、おまえ今なんつった?」


 太一は話の途中で問い返した。

 どこか聞き間違えがあったかもしれない。


「七日間戦争じゃないよ! ぼくらのスケルトン戦争だよ!」

「なるほど、ぼくらのスケルトン戦争か。いい響きじゃねーか。そこの誰か、いいこと言ったな」


 太一がそう褒めると、学級委員長っぽい生徒は照れたように頭蓋骨をさすった。

 そんな彼の言葉をタイトルコールとし、太一はクラスの仲間に決起を呼びかける。


「みんなで力を合わせて『ぼくらのスケルトン戦争』に勝利するぞーーー!! エイエイ、オーーー!! さあ、みんなも俺のあとに続け!! エイエイ、オーーー!!」

『エイエイ、オーーー!!』


 太一のシュプレヒコールに続き、生徒のみなは大声で拳を突き上げる。

 里奈と律子先生もその輪に加わり、クラス全体が熱い意気込みを見せていた。

 こうして一致団結することはありがたい。

 しかし、太一はここで残念なお知らせをすることにした。


「男子には悪いけど、これから先、エロい展開はまったくないからな。それだけはわかってくれよな」


 クラス全員がスケルトンである以上、ラッキースケベすら望めない。

 パンチラがあったとしても、その奥にあるのはただの骨盤だ。

 それで興奮できる男がいたとしたら、そいつは真に頭がイカれてる。

 つまり、お約束とも言えるエロがまったく期待できない。

 以上が残念なお知らせであり、太一自身も落ち込むほどに悔しさを滲ませた。

 ひとまずクラスは結束したものの、まだ行動を起こすことはできない。

 スケルトンにはスケルトンなりの知識、準備が必要不可欠だ。


「おい、佳織。これを受け取ってくれ」


 太一は自身の頭蓋骨をカポっと頸椎から外し、それを佳織に目がけて放り投げた。

 窓際後方の席に向かって、放物線を描く頭蓋骨。

 それを眼窩で追うクラスメイトたち。

 佳織は驚きながらも、太一の頭蓋骨を両手でキャッチした。


「いいか、みんな。頭蓋骨が分離してもこうして話すことができる。そして胴体を操ることもできる。みんなも自分の頭蓋骨を外して、キャッチボールしてみてくれ。これもなにかのときの練習だ」


 佳織の両手に包まれる頭蓋骨の太一は、そう指示を出した。

 教壇に立つ胴体の太一は、ボールを投げる仕草を見せた。

 すると一人、また一人と、みんなは自身の頭蓋骨を放り投げていく。


「おい、俺の頭蓋骨、俺の胴体に返してくれ!」

「よし、今度はオレの頭蓋骨を投げるからな!」

「わたしの頭蓋骨はここよ! 誰か拾って!」


 しだいに枕投げ状態となり、教室にはたくさんの頭蓋骨が飛び交った。

 だがどれも似たような頭蓋骨ばかりだ。

 この頭蓋骨だれ? と判別がつかなくなり、名前を言わなければ返頭されない。

 それだけならまだいい。

 里奈のようにバラバラになってしまうともう大変。

 さらには二人以上の骨格が混ざり合うと、組み立てるのは不可能となる。

 そうなってしまったときのためにも、判別できる準備は欠かせない。 

 太一はキャッチボールを中止するよう指示を出す。

 自身の頭蓋骨も胴体に収まった。


「今からプリントを配る。それを見ながら協力して骨格に名前と番号を書いてくれ」


 律子先生が昨夜に作成してくれたプリント用紙。

 太一はそれを教卓から取り出し、最前列の生徒たちに配分していった。

 その用紙には骨格図が描かれており、頭蓋骨から順に番号が振られている。

 人間の骨の数は、およそ二百。

 それぞれに番号と名前を書いておけば、バラバラになっても組み立てはスムーズだ。

 太一も作業に協力するため、マジックを持ち佳織の元へ向かった。


「よし佳織、おまえの骨には俺が書いてやる。だから制服を全部脱げ。パンツもだぞ」

「い、いやよ! パンツまで脱げるわけがないでしょ!」


 上は白のブラウス、首元には赤のリボン。

 ベージュを基調としたチェック柄のスカート。

 その制服姿でイスに座る佳織は、スカートを押さえて脱衣を頑なに拒んだ。


「しかたねーな。じゃあ、骨盤から下は自分で書けよ。上半身だけ全部脱げ」

「ブ、ブラも?」

「あたりまえだろ。あばら骨に名前と番号書く必要あるからな」

「で、でも……さすがにブラを外すのはちょっと……」


 ブラウスの襟元をつかみ、モジモジする骸骨。

 この骸骨は、まだ自分がどういう立場に置かれているかをわかっていない。

 ゆえに太一はそれをわかりやすく諭し伝えることにした。


「おい佳織。おまえは誰がどう見たって、頭からつま先まで骸骨なんだぞ。それのどこに恥ずかしがる要素があるんだよ。もしおまえがラノベのヒロインだとするよな? すると表紙に描かれるのは、制服を着た骸骨のおまえだ。本の中身を確認しなくても、挿絵が骸骨だらけだってわかる。そんな不気味なラノベ、誰が買うかよ。それってもう小説の内容以前の問題だ。もし間違ってそんな本を買ってみろ。俺なら不幸の手紙を添えて、着払いで出版社に送り返すぜ。ようはな、今のおまえは性の対象にすらなんねーんだよ。わかったら脱げ、この骸骨女」


 太一はマジックで佳織の頭蓋骨をコンコンと小突いた。

 脳ミソがないから軽やかな音が鳴る。


「わ、わかったわよ……。脱げばいいんでしょ、脱げば……」


 改めて自分の立場を認識した佳織は、ブラウスを脱いでブラジャーも外した。

 骸骨がブラジャーなど百年早いどころか必要性そのものがない。

 ひとまず太一はマジックのキャップを外し、佳織の頭蓋骨に名前を書くことにした。

 すると――。


「ちょっと待って太一!」


 佳織にそれを止められる。


「なんだよ?」

「それ油性ペンじゃないの!」

「だからなんだよ?」

「それで書いたら消えなくなっちゃうでしょ!」

「逆に消えたら困るだろ。なんのために名前を書くと思ってんだよ。それに人間に戻ったときには骨は見えないし、気にすることはないって」

「で、でも……人体に影響とか……」

「チンタラしてる時間はねーんだよ。ほら書くぞ」


 心配する佳織をよそに、太一はキュ、キュ、とおでこに名前を書いていく。

 そして、『佐倉』と名字を書いたところで――。

 その手が止まった。


「あれ? 佳織の『か』ってこうでいいんだっけ?」


 試しに書いてみるが、ふだん使わない漢字。

 それだけに、太一には確信が持てなかった。


「いや、ちがうか。やっぱこうだったか?」


 太一は書いた文字に、キュ、キュ、とバッテン印を入れた。

 その隣にまた漢字を書き直す。


「う~ん、やっぱこれもちがう気がするな」


 その自ら考案した漢字にもバッテン印。

 そんなことを繰り返しているうちに、頭部にはもう書くスペースがなくなった。

 オデコから後頭部にいたるまで創作漢字でいっぱいだ。

 これはいけない。

 正しい漢字を書くためにも、新天地を求める必要がある。

 太一はそう考え、佳織の前歯に筆を伸ばそうとしたところ――。


「た、た、た、太一ぃぃぃ……」


 佳織は雑巾を絞るような声を出し、全身の骨をカタカタと震わせた。


「ん? どうした? 骸骨のくせにおしっこでもしたくなったのか?」

「うっさいわッ! このボケッ! 百万回死ねッ!」

「ふごッ!」


 佳織は容赦のないパンチで太一の横っ面を打ち抜いた。

 その衝撃で太一の頭蓋骨が吹っ飛び、黒板、床、天井とバウンドを経て、最後は教室隅のゴミ箱の中へスポっと収まった。




 みんなの骨格に名前と番号を書いたので、これより渋谷を目指すことになる。

 だが渋谷までは、スケルトンであることを隠して移動しなくてはならない。

 途中で正体が発覚してしまうと、その場所で政府に完全包囲されてしまうからだ。

 事実を大衆の面前にさらけ出すのは、渋谷スクランブル交差点に着いてからである。

 移動方法としては大型バスを使用する。

 北海道から本州にフェリーで渡り、高速道路を走って渋谷を目指すのだ。

 飛行機に乗ることはできないので、選択肢はこのひとつに限られる。

 移動の要であるバスに関してだが、学校が所有しているので問題はない。

 部活動の対外試合、各種イベントのために、一台だけ大型バスがある。

 ゆえに数人の教師が大型免許を取得しているのだが、そこには律子先生もふくまれていた。

 よって必然的に、ハンドルを握るのは彼女ということになる。

 スケルトンなので免許証どうこう以前の問題だが、運転技術がないとはじまらない。

 これら作戦遂行にあたり、ほかの教師が弊害とならないのには理由があった。

 夏休みでも教師は勤務扱いとなるのだが、日中は外部研修に出かける者がほとんどだ。

 市内最弱を誇る部活動の面々も、夏休みに学校へ姿を見せることはない。

 そういった事情から、律子先生はとどこおりなく準備を進めることができたのだ。

 それでも大きな懸念が残ることは否めない。

 許可なく二年A組の生徒をバスで引率、しかも東京を目指すともなれば当然である。

 それでも太一は律子先生を信じていた。

 彼女なら必ずや東京まで導いてくれると。

 怒るとゴリラのように怖いが、生徒思いにかけては学校随一の定評がある。


「よし、出発、進行ぉーーーーッ!」


 昇降口玄関の前。

 生徒の全員が乗車したのち、律子先生は威勢のよい声でバスを走らせた。

 そんな彼女だが、変装で顔を隠している。

 変装道具一式としてはこうだ。

 頭には野球部の帽子。

 眼窩を隠しているのは、トンボに見える大きなサングラス。

 目元あたりまで覆った、テロリストのようなバンダナ。

 左右の手にはめられた軍手。

 ぶっちゃけ不審者そのものだが、スケルトンに見えることはないだろう。

 フロント以外の窓ガラス、そこもカーテンでしっかりと閉じられている。

 ゆえにバスの中を覗かれることはない。


「先生、ちょっと俺の家に寄ってくれないか」


 運転席と反対側、前から二番目の座席位置。

 そこをポジションとする太一は願いを申し出た。

 ちなみに隣の窓際には里奈が座り、最前列は念のため空席となっている。


「どうした青島。なにか家に用でもあるのか?」

「ああ、大事な用があるんだよ」

「なら早くしろ」


 律子先生は進路を変更し、二階建ての家屋、青島家の前で停車した。

 全裸スケルトンの太一はバスを降り、そそくさと玄関から家の中へ。

 自室で夏の制服 (シャツにネクタイ)に着替えも済ませておく。

 それらの準備が整うと、太一はリビングにいるピーちゃんの元へ向かった。


「おい、ピーちゃん。俺はこれから渋谷スクランブル交差点を目指す。四十人のスケルトンの仲間と一緒にな」

「君はバカなのかい? そんなことをすれば大騒ぎになるんだよ?」


 冷ややかな魚の目を向けながら、ピーちゃんは水面から口を出す。


「バカも承知、大騒ぎも承知のうえだ。それもこれも全部おまえのせいじゃねーか。でもな、俺たちはやり遂げるぜ。必ず人間に戻ってみせる。だからピーちゃん、おまえも最後まで見届けろよな」


 太一は金魚鉢を持ち、急いでバスへと舞い戻る。

 そしてクラスのみなに向け、それを両手で高く持ち上げた。


「これがすべての元凶、スケルトン星からやってきたクソ金魚のピーちゃんだ! こいつも東京まで連れていく! そして俺たちが人間になったところを見せつけてやるんだ! よしみんな、俺のあとに続け! ぼくらのスケルトン戦争に勝利するぞー!!」

『ぼくらのスケルトン戦争に勝利するぞー!!』


 太一のかけ声に続き、車内の士気はよりいっそう高まっていく。


「ピーちゃんなんかに負けるなー!!」

『ピーちゃんなんかに負けるなー!!』

「渋谷スクランブル交差点をジャックするぞー!!」

『渋谷スクランブル交差点をジャックするぞー!!』

「俺たちはレジスタンスだー!!」

『俺たちはレジスタンスだー!!』


 それはまるで革命軍のごとき勢いだった。

 誰もが拳を突き上げ、車内は大音量に包まれる。

 運転席真後ろにいる、耳なし芳一状態の頭蓋骨となった佳織。

 そんな骸骨の彼女でさえ、血沸き肉躍る様相を呈していた。

 ある意味この作戦は、人類に反旗をひるがえすレジスタンス。

 スケルトンの集団が、その使命の元に人類と戦い、必ずや目標を成し遂げるのだ。

 バスは一路、東京を目指す。

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