5

 松島さんの顔に、(元)妻の面影が重なる。


 次の瞬間。


「……きゃっ!」


 彼女の悲鳴。俺の左腕が、強引に彼女の手を振りほどいていた。


 凍り付いた空間にさらにひびを入れるように、彼女の部屋の階に到着したことを告げる機械音声が、事務的に響く。


「……お休み」


 彼女から目を背けたまま、俺は言った。とても彼女の顔は見られなかった。


「お休みなさい」


 涙声。彼女はくるりと踵を返すと、エレベータを飛び出していった。ドアが閉まる。


「……」


 一人エレベータに残された俺は、深くため息をつく。


 やっちまった。これでもう彼女との関係は終わりだ。これほど酷いフラグの折り方もあるまい。そして、それは少なからず俺自身にもダメージを与えるのだ。


 しかし、これは自業自得だ。俺がちゃんと最初からコツコツとフラグを折っていたら、彼女だってこんな体当たりの攻撃を仕掛けて自爆することもなかっただろう。全ては俺が招いたことなのだ。


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