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「おはようございます!」
翌朝。ホテルのロビー。松島さんは満面の笑顔で、何事もなかったように挨拶する。
「……おはよう」
俺は寝不足のどん底のテンションで応える。
信じられん。
こいつのメンタルは鋼……いやカーボンナノチューブで出来ているのか?
それに比べてこの俺は……彼女を深く傷つけてしまったことに悩んで、昨夜はほとんど眠れなかった。
だけど、彼女だって何もダメージがなかったとは思えない。きっと元気なフリを装っているだけだ。そう考えると、俺の心は激しく痛んだ。
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しかし、松島さんのカラ元気はその後何日も続いていた。彼女は相変わらず俺に対してまっすぐ好意を向けてくる。あれだけはっきり拒絶された、というのに。他の男に走ればいいものを、とも思うのだが、周りの男たちからのアプローチは依然として回避しまくっている。
かえって俺の方が辛くなってきた。何でこんな罪悪感に苛まれなくてはならんのだ。もしかして、それも含めて彼女の戦略なのだろうか……
まあでも、彼女の教育期間もほとんど終わりだ。もうすぐ彼女に関わることもなくなる……なんだか、それはそれで、寂しいような気もするが……気のせい、だよな……
そして今日、彼女の教育期間の総仕上げとなる、応援販売が終わった。彼女ももう一人で問題客に十分対応できる。随分成長したものだ。
「神谷内さん、お腹空きましたね。ご飯食べていきましょうよ」
相変わらず、屈託のない調子で彼女が言う。
「ああ、そうだな」
俺はあっさりとうなずく。いつもなら彼女からのこの手の誘いは大抵断るのだが、最後くらいは付き合ってもいいだろう。それに、俺自身の心の中でモヤモヤしているものも、この際はっきりさせておきたかった。
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