第13話 そして  ― 本編完 ―

しかしその後が怒涛のような展開だった。

とにかく無事覚醒した事を両親に知らせた。

それを聞き、急いで駆け付けた親父とお袋。

案の定お袋には大泣きされた。


それから暫くして、病室のドアがいきなり開き、

那津が飛び込んできた。


「皐月―!」


病室に飛び込んできた那津は、ぎゅっと俺を抱きしめ、

泣きながら、しばらく離さなかった。


「俺は大丈夫だから、そんなに泣くなよ。」


俺は那津の背に腕を回し、ポンポンと宥めるように軽く叩く。

サリューに抱き着かれるのは、ゲーム内ではよくされていたけど、

とにかくここはリアルだ。

人の目も有るから離れてほしいんだけど…。

まだ色々と検査しなきゃならないんだと言い、ようやく那津を剥がした。

俺の意識がリアルに戻ったのを知り、

居ても立っても居られず、家を飛び出してきたみたいだ。

しかし、長い時間意識を失った状態だった俺の体は、

まるで固まったように動きが鈍い。

かなり筋肉痛のような痛みがする。

ずっと体を動かしていなかったせいだろうな。


那津はそのまま検査という名の実験に、俺と共に協力する事になった。


「皐月と一緒に居られるなら、何でもするよ。」


那津が意味不明の事を言っている。

俺は、親に文句を言われる事も無く、ゲーム漬けの毎日が過ごせるから、

幾らでも協力しますとも。

もしかして那津もそうなのかもしれないな。

そして、検査の終了日に、

俺達は報酬としてのバイト代をけっこう貰った。

ラッキ~。


検査の結果で分かった事。

どうやら俺の脳波は他の人に比べ、ほんの少し特殊だったようで、

このゲームの波長とやたら絡みやすかったようだ。

まあ、脳波の型なんて誰がどう違うのかなんて分からないけど、

とにかく久遠をあらゆる型に対応できる様にする事が、

今後の研究案件となったみたいだ。

とにかく前にも言ったけど、こんな状態に陥ったのは、

後にも先にも俺一人だったみたいだし、あれから俺にも同じ事は起きていない。

それでも俺には万全を期す為にと、

急遽改良され作られたゲーム装置を、俺専用だと言われて渡された。

そしてこの先も、何が起こるか分からないから時々検診するように言われた。

だけど、その装置も検診も、

俺は体のいい実験材料にされてみているような気がするんですが……。

気のせいですか?





「紗月君、今日は暇かい?」


アインハルトさんが、ニコニコしながら歩いて来る。


「えっと、この後サリューと一緒に、

常闇の神殿に行って、狩りをしようと思っていたんですけど、診察ですか?」


そう、アインハルトさんは俺の為に、ここギサの町に拠点を移してくれて、

時々ゲーム内での俺の診察をしてくれる。

もちろん、俺の家からは道具とかすべて回収して、

別の場所に住居兼研究所を作ったんだ。


「いや、今日はその件ではないんだ。

やっと暇が出来たからね、

以前約束した四次元の部屋の、設定の仕方を教えてあげようと思ったんだが。」


「え、本当ですか?

やった!ぜひお願いします。

それじゃ、サリューを呼びに行って来ますね。」


「そうか、そう言えばあいつにも渡したんだっけな…。」


そう呟く声が聞こえた。


未だにアインハルトさんとサリューは馬が合わないみたいだ。

長い付き合いになりそうなんだから、仲良くすればいいのに。

そう思いながら、俺はサリューの元に走った。



余談


「なあ、サリュー、お前大学決まったのか?」


「うん、まあね。」


俺達は今、氷結の原っぱで狩の真っ最中だ。

さすがにここは寒い。

今日の目的はアイス系の魔石を落とす奴を狩る事。


「へー、俺も!

第一志望一発合格だぜっと、すげえだろ。

すまない1匹取り逃がした。頼む。」


なんたって俺には、マッドサイエンティストという家庭教師が付いているんだ。


「任せろ。

ああ、知ってる。私も安心したよ。

そら、ゲット。」


「サンキュ。

なぜ知ってんだ?」


「ん?おばさんに聞いた。

おい、後ろにでかいやつ来てるぞ。」


「ああ、こーらせっ、ズバッと、

で、安心したって、そんなに心配かけたんだ。」


「ああ、大学は南条工科総合大学だろ。

ほら、もう一発入れとけ。」


「はいよー。ズバッと二発目!」


「そこに、私はすでに推薦で受かってるんだ。

よし、いっちょ上がり!」


「ハァ~~~~?」


「4月からは同じ大学の学生だね。」


「お前東京に出てくるの?」


「あぁ、アパート借りる予定。何なら一緒に住む?」


何馬鹿な事を言ってるんだ。

いくら友達と言え、俺たちは男と女だぞ。

世間が黙っていないだろう。


「私は世間なんて関係ない。

一番大事なのは、皐月だけだ。」


何かサリューが、また訳の分からない言葉を吐いています……。




   ※※※※※※ 了 ※※※※※※



お付き合いいただきありがとうございました。

暫くしましたら、続編開始の予定です。

よろしくお願いいたします。

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緊急事態!VRMMO【久遠の大陸】に閉じ込められた俺 はねうさぎ @hane-usagi

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