第12話 あっけない…かも
「さてと、次は…。」
アインハルトさんはぐるりと部屋を見渡し、ふと一か所に目を止めた。
物置の扉の横、何の変哲もない壁だ。
「ちょっとここを借りるよ。」
そう言って、インベントリから黄色くて丸いノブのようなものを取り出した。
それを壁の腰のあたりに押し付け、クイッと回す。
するとその壁に今まで無かった扉が現れた。
「な、何ですかそれ、初めて見た。」
「そりゃそうだろう。私が発明というか、考案した、まあ、しいて言うなら四次元マイルームってとこかな。」
すっごーい。
「これのいい所はね、このノブを外せば、
そこはまた元の何の変哲もない壁に戻る。
つまりこれは持ち運び自由の部屋ってわけ。」
そう言って、一度ノブを外して見せてくれた。
本当だ、ドアが消えて、いつもの壁に戻っている。
そして、アインハルトさんはもう一度ドアを出現させた。
「中を見たいかい?」
「ぜひ!」
どうぞ、と俺達を中に通してくれる。
しかしその中は部屋というより、一つの小さな家というのが正しかった。
小さな居間にはソファとテーブル。この扉の向こうは寝室で、その扉の向こうは風呂、あそこはキッチン、そしてここはクローゼットだ。
初期設定をすればオプションで水回りもちゃんと付けれるようになるんだよ。
アインハルトさんはそう教えてくれた。
いいなーほしいなー。遠出した時にこれ有るとすごっく便利だよな。
「ほしいかい?」
「ほしいです!でも……。」
「紗月には今回いろいろ付き合ってもらわなければならないから、特別にあげちゃおうかな。」
そう言ってイベントリからグリーンのノブを取り出し、俺の掌に載せてくれた。
「ほ、本当に、いただいてもいいんですか?」
「いいとも。すぐには無理だが、設定するときには手伝ってあげる。今は中は空っぽだ、だが、だからこそレイアウトは自分の好きにできるよ。考えておきなさい。まあ中の装飾や家具は自分で作業したり買ったりしなければならないから、それなりのゼラが掛かるけどね。」
ウシッ!力入れて稼ぐぞ!
「君も欲しいかい?」
アインハルトさんはサリューにも問いかける。
「…いらない。」
「まあまあ、そう意地を張らずに。素直に受け取っておきなさい。」
そうして、取り出したノブをサリューにも握らせた。
ふーん、サリューのはブルーなんだ。
「君には少しでも恩を売っておきたいからね。」
ちょっと目がうれしそうだね。サリュー。
「さて、紗月君には休憩なしで申し訳ないが、早速計測にかからせてもらえるかい。」
そう言って俺に診察台に横になるように指示した。
「まあ、データーを取っている間は、眠っているようなものだから、充分休憩になるとは思うがね。」
なんか、すっごく楽しそうですね。
アインハルトさんが何かを呟くと、俺の枕元にあった幾つかの水晶が、光を発しながら浮かび上がった。
そして、キラキラと俺の体を照らしながら回っていく。
「綺麗だ………。」
そう思ったのを最後に、俺は深い眠りに落ちていたようだ。
「皐月君!」
いきなり耳元で叫ばれた。
「え…、ここって?」
「あぁ、君、起きちゃたのかい。」
「ハァ、そうみたいです…ねぇ。
て、やったぁ!」
周りの感じ、ベッドや機材、医者のような人達。
どう見ても此処はリアルだ。
「おめでとう。一応お祝いを言っておくよ。
まあ、ぬか喜びじゃなきゃいいけどね。
また彼方に行くかも知れないし。」
なに、不吉なこと言ってるんですか。
「おい、アインハルト、今そっちで何やった。紗月君が目を覚ましちゃったぞ。」
パソコンの前でチャット用のインカムみたいなのを付けた人が、
画面に向かって話をしている。
どうやら相手はゲーム内のアインハルトさんみたいだ。
『ハァ?こっちは予定通りしっかり眠るように魔石でスリープかけただけだぞ。』
「おかしいだろ。
だって、そっちに閉じ込められている間だって、紗月君は夜は眠っていたはずだ。
それがなぜ……。」
うん、画面の中のアインハルトさんさんは、生き生きと熱弁をふるっている。
「すまないね、予定では、君のあちらで眠っている状態の脳波と、
起きている状態の脳波をまず計測するはずだったんだ。
確かにあちらで寝ているという確証が欲しくてね。
しかし予定外だったな。
君、もう一度ギアなしであちらに行くなんてことは…。」
「何、馬鹿なこと言ってるんですか。」
「そうだよな……。」
俺の症例は、ものすごく珍しものだったらしく、
本当は、もっと色々な実験をして、たくさんのデーターを取って、
とにかくあれやこれやと計画をしていたみたいだ。
それが、たった一度、
それもスリープをかけただけで俺がログアウトしてしまうなんて、
考えもしていなかったみたいだ。
俺的には、良かったじゃん、対応策がすぐ見つかってと思うけれど、
果たしてそれが正しい結果か、単なる偶然か、まぐれかの判別も付かない。
とにかくデーターが少なすぎると運営側は嘆いていた。
運営側の姿を見ていると、チョット罪悪感を覚えるけど、そんなの放っておいていいよな。
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