第11話 マッドサイエンティスト
俺達がゴッタニ亭の入り口をくぐると、
エイジさんがテーブルに座り、一人の男性と話をしていた。
「おっ、お帰り。」
「申し訳ない、遅れたましたか?」
「そんな事は無いよ。」
二人は立ち上がり、俺達に向き直る。
その見知らぬ男性は、ブロンドのぼさぼさ頭を無造作に束ね、
旅装束を着込んで腰には長い刀を差している。
ただ、上にはローブではなく少し薄汚れた白衣を引っ掛けていた。
「初めまして、私は運営から派遣されたアインハルトだ。」
「アインハルトって……。」
「マッドサイエンティスト…。運営側だったのか。」
そう、その名はかなりの有名人だった。
強い上に偏った変人?
付いたあだ名がマッドサイエンティスト。
「うーん、このゲームは個人的にやりこんでいたんだけどね、
まあ運営に携わっていたから、そう言われても仕方ないか。
実際こういうトラブルには、時々駆り出されちゃうからな。」
そうか、運営の人でもゲームを楽しむんだ。
「で、君が紗月君か、噂通り可愛いね。」
その大きな手で俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。
どうしてみんな俺の頭を撫でるんだろう??
しかしサリューが、俺を撫でているその手を自分の手ではじいた。
何、不機嫌そうな顔をもろに出してるんだよ。
お前、初対面の人に失礼だろ。
「そして君がサリュー君か。なるほどね。」
アインハルトさんはサリューを見て、クククと笑っていた。
「君の事は運営の方から聞いているよ。
私がログオフしている時のサポートしてくれるんだって?
まあ、お手柔らかに。」
「よろしく。」
ぶっきらぼうに、サリューが言うけど、
そのニュアンス、事務的発言だってバレバレ。
「こちらとしても紗月君は実に珍しい検体、いや失礼実験体。
じゃなくって、えー、症例、そう症例だから、
じっくり実験しようと思っている。って違うか……?」
違うでしょ!それにサリュー、アインハルトさんは
ただの言い間違えただけだと思うから、
敵意むき出しで剣をかまえるのはやめて。
「エイジ君、世話になったね。
また何か有ったらいろいろ頼むかもしれないが、その時はよろしく。」
「はい、任せてください。」
エイジさんは軽く頭を下げ、その依頼を請け負った。
「じゃ、行こうか紗月君。」
「え?何処へ?」
「何処へって、君の家へだよ。
せっかくの時間が惜しいからね、
早速データを取らせてもらいたいんだ。」
「あ、ああ。分かりました。」
そうか、アインハルトさんはここを拠点にしている訳じゃないから、
行く場所が無いんだっけ。
だから俺の家を使っていろいろやりたい訳なんだな。
で、3人そろって俺の家に向かって歩き出した。
「ん?サリュー君。
君は私がログアウトしている時の、紗月君のボディーガードみたいなものだから、それまでは自由にしていていいんだよ。」
「あなたと紗月を二人きりにさせる訳無いじゃないですか。」
「ふふっ、外さないねぇ君は。面白い。
そうだ紗月君、この件が片付くまで、この私のアバターを
君の家に置かせてもらいたいのだが、構わないだろうか。」
えーと、つまりアインハルトさんは、俺の家にお泊りするって事ですね。
仕方ないですよね。
「寝る場所は、俺のベッド以外はソファしかないんですけど、
……アインハルトさんには狭いか。」
「あぁ、その辺は君の許可さえもらえれば大丈夫だ。」
「私も紗月の家に泊まる。」
それを聞いていたサリューが口をはさむ。
「紗月君が君を必要とする時間は、私がログアウトしている時だけだ。
つまり君がログアウトしている時は、君のアバターが紗月君の近くにいる必要はない。
つまり・君は・紗月君の・家に・泊まる必要は・無い!
私がログアウトしている時以外は用無しなんだよ。」
あぁ、そんなはっきり言わなくてもいいのに。
サリューすっごいショックを受けてるよ。
「こちらもあれだけサリュー君に言われたんだ。
こんな小さな報復かわいいものだと思うがね。」
サリュー、お前運営側に何言ったんだ?
なんだかんだ話しているうちに、俺達は家に着いた。
ロックを解除し二人を中に通す。
「へ―ここが紗月の家か。で、寝室は?」
ギロッとサリューがアインハルトさんを睨む。
「もう、やりにくいんだよサリュー君。
できれば君ログアウトするか、どこかに行ってくれないかな。」
「私は何も言っていない。」
「言っているんだよ。その目と殺気がね。」
でも、そう言われてもサリューはここから動く気はないんだろ?
「仕方がない、寝室でなければいいんだろ?
少し手を貸してくれないか。」
そう言うと、アインハルトさんはサリューを使って、
俺の家の居間の模様替えを始めた。
模様替えと言っても、家具を壁際に移動し、
真ん中部分にスペースを開けただけなんだけど。
そして開けた所に、
彼のインベントリから診察台のようなベッドを1台取出して置く。
「おおー。」
それから病院で見かけた心電図のようなものや、ノートPCのような物。
それから見慣れない機器を次々と取出していく。
そして、見る間に俺の家の居間は、まるで病室のようになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます