第5話 え……と

……眠い。

なぜか急に眠気が襲ってきた。ゲーム内で眠気って初めてだ。

もし寝て起きたら状況が変わってるかな。

そう思って俺はログアウト用のベッドに移動し、横になった。

そうだ、体調が変化をきたし、ギヤが異常を感知すれば、強制ログアウトする筈だった。

たしか24時間以上ログインしていた場合も、強制ログアウトだった筈。

なあんだ、そんなに焦る事なかったじゃん。

俺は安心し切って毛布を被り目を閉じた。




「あれ?」


ここ何処だ?

知らない白い部屋。

どういう訳か視点が定まらない。

気持ち悪い。

目を瞑り呼吸を整える。

此処って何となく、病院の病室みたいな気がする。

薬品の匂いもするし。


「先生、患者さんの脳波に変化が。」


女の人の声がした。

そうだ、もしかしたら、ログアウトしているかもしれない。

確かめなければ。

でも、幾らもう一度目を開こうとしても目が開かない。

たとえ気持ちが悪くても、この人に今の状況を聞かなくちゃ。

しかしいくら焦っても、俺の目はもう一度開くことは出来なかった。

死んだわけじゃねえよ。

多分………。



再び気が付くと、そこはギサの町の俺の家のベッドの中だった。

窓からは日が差し込み、あたりはすっかり明るくなっている。


「ファ~。よく寝たー。」


 …………。


「何だよ、ゲーム内で熟睡ってあり得ないだろう。」


しかし俺の今の気分は、爆睡して疲れも飛んで、

スッキリしてるってのがぴったりな気分なんだ。

おかげで昨夜のパニック状態からは抜け出せたような気がする。


とにかく一晩寝ても状況は変わらなかった。

あとは24時間強制ログアウトを待ってみよう。

と、言う訳で、それまでただ座って時間が経つのを待つのも退屈だから、出かける事にした。

本当は狩りにでも行って、鬱憤を晴らしたいところだけど、

何が起こるか分からない状況だから、あえて危険を冒すことは避けるべきだよな。

町を歩いて知り合いに会ったら、

今迄こんな事例が無かったか聞いてみてもいいし、

もしかしたら那津に会えるかもしれない。

今はフレンド欄のサリューは活性化していないから、きっとログインしていないんだろう。

取り合えず腹が減ったから飯でも食いに行くか。

HP補給ではなく、ただ腹が減ったって言うのも変だけど。

俺はカズラさんの勤める“ゴッタニ亭”に足を向けた。


「おはようございまーす。」


「いらっしゃいませー。」


そこにはいつも通りの顔。

店員のミーナさんと、カズラさん。

カウンターの中で腕を振るっているのは、料理人のエイジさんと親方のオレオールさん

エイジさんはアバターの人で、リアルでもコックさんなんだって。

そうだ、エイジさんに相談してみよう。

そう思い、俺はカウンターの椅子に腰かけた。


「エイジさん、手の空いた時でいいので、ちょっと時間いただけませんか?」


「お、何だ?デートの誘いか?」


親方がすかさずチャチャを入れる。


「や、止めて下さいよ親方。

そんなんじゃありませんよ。な、紗月、違うよな。」


エイジさんが顔を赤くし、必死になって親方に話をしている。

どうやらエイジさ、親方にラブっぽいんだよね。

親方は元王室の騎士をしていたらしいんだけど、怪我が元で引退をして、

趣味だった料理に没頭するあまり、店まで出したそうだ。

今は砕けた感じだけど、やはり元騎士だし、美形だし、

時々拭い切れない気品っぽいのを感じる時が有る。


「今は暇な時間帯だし、お前も紗月と一緒に朝の賄喰っちまえ。」


「あ、俺は後で親方たちと一緒に……。」


「いいって、ほら、さっさと行って来い。」


そう言われてエイジさんは、カウンターの中から追い出された。

なんか、ごめんなさい。

せっかくのエイジさんと親方の時間を邪魔しちゃった気がする。


「で、何だよ紗月、話って。」


あ、エイジさんがちょっと不機嫌?


「えっと、実はですね……。」


俺は今陥っている状況を、えいじさんに話した。


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