第4話 久遠の大陸


「あれ?」


………?!???!!!!?!

目の前の風景は……じいちゃんちの庭じゃなかった。

そして昨日見た白昼夢、ゲームの危険地帯でもなかった。


「ギサの町??」


そう、そこには俺達が“久遠の大陸”の中で拠点としている、ギサの町の風景が広がっていた。

しばらく呆然としていたけど、ふと思い立って急いで振り返る。

しかしそこにはじいちゃんちの玄関は無かった……。


「しまった~~~~~!」


いや、じいちゃんち玄関が、某どこ〇もドアとは言わないけどさ。

やっぱり期待しちゃうだろ、戻る手段としてさ。


「何で……。」


「おーい紗月、何ボーッと突っ立ってるんだ。」


そこに現れたのは馴染みの飯屋、ゴッタニ亭の店員のカズラさん。

紗月?て事は……。

おれは自分の手を確認する。

……モフッてる。

着ている服も確認して、今現在、自分がゲーム内のアバターになっていることを認識した。

一体いつの間にログインしたんだ????!!!!


「こんな時間に何やってるんだ。

て、そう言えばしばらくはゴールデンシーズンだっけ。」


そう、ゲーム内は昼間の仕事や学校を考慮して、国ごとに違うが現実世界の夕方から夜中までをゲーム内では昼間に設定している。

つまり俺がここに飛び込んだ時間帯は、こちらでは夜中という事になるはずだ。

(昼間を中心にゲームしたい奴は、海外の大陸を拠点にして、自動翻訳設定にすればいい。)

普通は夜中に出歩くのは、許可者以外は不審者扱いだが、

申請をしておけば、夏休みや土日などはゴールデンシーズンとして、

夜中の活動も変な目で見られないんだ。

だから、店などは24時間営業が多いそうで、ご苦労様です。


「カ、カズラさん!」


見知った場所とはいえ、いきなりの状況に、

不安満載だった俺は、眼の前に現れた馴染みの人が天使のように見えた。


「お、俺どうしよう、どうしたらいい?急にこんな所に来て。」


「こんな所って、人の店の前で失礼な奴だな。

何パニクってるんだよ。落ち着けって。」


カズラさんは少し屈み、俺の両肩を軽くポンポンと叩いた。


「俺、俺、急にここに来ちゃったんだよ。」


「そうか、そうか、急に来ちゃったのか。」


カズラさんはまるで小さな子をなだめる様に話を聞いてくれる。


「俺、どうしたらいいの?

いきなりここに来て、一体どうすればいいんだろう。」


完璧にパニクッてる。


「ん?紗月はいつもここで何してたっけ?」


「え?魔物狩ったり、素材売ったり。」


「あぁ、それから?」


「カズラさんの所で飯食ったり、家で作業したり。」


そう、ギサ町を拠点にし活動していた俺は、

そう大きくはないが、居心地のいい家をここで所持していた。


「で、皐月は何を困っているんだ?」


「はて?」


「飯、食ってくか?」


「んーん、腹減って無いからいい。」


そうか、ここが“久遠の大陸”の中ならいつもと同じ事すればいいんだ。


「よし、落ち着いたようだな。いくらゴールデンシーズンとは言え、

夜中に子供があまりうろうろするなよ。早く家へ帰れよ。」


そう言ってカズラさんは俺の髪をくしゃくしゃと撫でた。

俺はそんなに子供じゃないんだけどな、

設定した時のままだから、一見して10歳ぐらいにしか見えないみたいだ。

やっぱり少しは成長させた方がいいかな。


「ありがと、カズラさん。そうする。」


とにかくゆっくり頭の中を整理するためにも、俺は自分の家に帰る事にした。



「よかったー。ちゃんと有った。」


実は本当に自分の家が有るのかちょっと心配だったんだ。

そして今、我が家の玄関の前に立ち、最終確認をしていた。


「表札よーし。」


ちゃんと斜月って彫った表札が掛かっている。

それでもまだ疑心暗鬼で、ロックを外し、そーっとドアの隙間から中を窺ってみた。


「大丈夫だ。俺んちだ。」


ようやく安心して家の中に入り、

お気に入りのソファに腰を落ち着けて一息つく。


「よし、順序立てて考えてみよう。」


1、俺は田舎のじいちゃんちに居た。

2、昨日、このゲームの危険地帯を見た気がしたが、それは幻だった。

3、今日は那津と泳ぎに行く約束をした。

4、那津の声がしたから荷物を持って玄関を出たらゲーム内に居た。

5、此処は確かにゲーム内の様だ。ギサの町だし、カズラさんもいたし、俺の家も有った。

6、?俺はいつログインしたんだ?


おかしい、ログインした記憶がないのに此処に居るとは解せぬ……。

そうだ!ログアウトすればいいじゃん。

そう思って、俺はいつも通り画面を開いてみた。


「嘘だろ…?」


開いた画面のログアウト部分が活性化してない。


「何でだ!?」


俺は活性化していないログアウト部分を何度もタッチしてみた。


「何でだよぅ。これじゃあログアウトできないじゃないか。」


泣きそうだ……。


「こんな時ってどうすればいいんだよ。

えーと、運営に連絡ってどうすれば取れるんだっけ。」


俺は焦りながらも必死に対応策を考えた。

しかし画面のほとんどの部分が活性化していない。

運営への連絡も取れなくなっている。

まともに使えそうなのは、インベントリとグループメンバー検索と、後、《ルビを入力…》幾つかなら使えそうだ。

これって正規にログインしなかった弊害か?

バグでも起こしてるのかよ。

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