第2話 ものすごい偶然


「お…、うっす。那津、久しぶり?」


「皐月、そんな所にしゃがみ込んで何してるの?」


垣根の外から那津が胡散臭そうな顔をして俺に言う。


「い、いや、別に。」


俺は偶然目の前にあった雑草を、引っこ抜いてから立ち上がった。

いかにも気になった草を抜いてましたーて感じで、

でも騙されてくれないだろうなぁ。


「で、何やってるのって聞いてるんだけど、

その頭を抱えたポーズって皐月がピンチに陥った時の癖だよね?」


「いや、別に何でも無いけど…。」


「嘘を付かなくていいよ。

私が騙されると思う?」


那津の事だから俺の今起きた事を聞いたら絶対心配するだろ?

いや、非現実的だと言って大笑いするかも……。

とにかく、ここはしらを切った方が得策だと思う。


「何でも無いってば。

ところで、俺は今から買い物に行かなきゃならないんだ。

用が有るなら出直してくれないか。」


「…暇だから付き合う。」


そして俺達二人はスーパーに向かって自転車を走らせた。




そして俺達は今、

母さんに頼まれたスイカやら、サラダオイルなどの買い物を済ませ、

スーパーの前のベンチで一休みしていた。

さすがお盆だけの事はある。

店内はやたらと混んでたんだよ。


「実際会うのって、2年ぶりなんだぁ。」


「うん。」


そうか、2年も会ってなかったんだ。


ほぼ毎日のようにゲームにログインして、いつも一緒に行動しているから、

リアルでは、そんなに会っていなかったなんて思っていなかった。

確かにゲーム内のアバターは、全然違う容姿をしているから、

実際2年ぶりに会うと、その時間の経過を思い知らされた。

記憶の中の那津は、俺より背が小さくて、

クリッとした目が印象的な可愛い女の子だったけど、

久しぶりに会った那津は、背の高いスレンダーな美女風に変身していた。


「お前、ずいぶん背が伸びたよな。」


「言うなよ、気にしてるんだから……。」


気にしているの?

そう言えば、那津は少し猫背になっている。

もったいない、もっと背をしゃんと伸ばせよ。

でも、ざっと見積もっても、那津の伸長は170㎝近いんじゃないかな。

何故分かるかだって?

だって、俺の伸長が163㎝だからさ。

悔しい事に、目線が俺よりちょっと少し上に感じるんだ。

容姿にしたって、大分変った。

大きな目は相変わらず可愛いけど、全体的に大人びていて、

やっぱり2年のブランクは大きいなと思ってしまう。

そんな事を思いながら、まじまじと那津を見ていると、

俺の視線に気づいたのか、那津は顔を赤くし俯いてしまった。


「そんなにじろじろ見るなよ。ハズイじゃん。」


「そうか~?

毎晩のように会ってるのに、何を今更言うか。」


「だって……リアルの私、ずいぶん変わったでしょ?」


「うん、変わった。

前はガキにしか見えなかったけど、

今は何て言うか……、少し大人っぽくなったと言うか、

やっぱり成長してるんだなって思うよ。

背だって伸びて、まんまモデル体型だよな。

さすが16歳にもなると違うんだな。」


「…17歳だよ。3日前が誕生日だったから。」


そっか、誕生日だったっけ。

那津の方が俺より二月ほど早いから、一足先に17歳になっちゃったんだ。

ちょっと悔しいけど、こればかりは仕方がない。


「ちょっと待ってろ。」


俺はそう言って、スーパーマーケットの中に戻った。



「ほい、バースデープレゼント。」


そう言って、俺は那津にアイスを1本差し出した。


「ふっ、サンキュ。」


ニッコリと笑って、那津はアイスを受け取る。


「良く味わって食えよ。

めったに買えないプレミアムアイスバーなんだから。」


「分ってるよ。奮発してくれたんでしょ。ありがとう。」


分かれば宜しい。

無言で二人でアイスを食べていると、

いきなり那津が噴き出した。


「な!なんだ、どうした!」


「いや、何て言うか、皐月って少しも変わらないなぁって思って。」


「悪かったな。

そりゃぁ、俺の伸長は全然伸びてないけど。

それでも1㎝ぐらいはでかくなったんだぞ。」


「身長の事じゃなくて、いや、それも含めてだけど。

前と同じように私と接してくれるし、嬉しいなって思って。

でも、前から思っていたけど、あのアバターって皐月にぴったりだよね。」


「そんな訳無いだろ!

俺のアバター、思いっ切り現実のイメージと変えたつもりだぞ。

お前だって結構長い間、俺に気が付かなかったじゃないか。」


「そりゃぁ、そんな身近に知り合いがいるなんて思わないよ。

私達が合えたのだって、物凄い偶然なんだよ。」


まあ、そうなんだけど。

だって、俺たちが遊んでいるVRMMORPG

(バーチャルリアリティー大規模多人数同時参加型オンラインRPG)

そのゲームの中でも、世界的規模でトップクラスに君臨している“久遠の大陸”。

何と言っても、世界規模のゲームだ。

プレイヤーは星の数ほどいる筈だよ。

それを那津はここ神辺で14歳の時に、サリューという名のアバターで始め、

俺は東京で同じく14歳の頃から紗月として始めた。

俺が始めてから半年ほどして、偶然にゲーム内で知り会い,

馬が合ってフレンド登録し、

時々一緒に行動したり、共闘したりして遊んでいたんだ。

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