第2話 ゆりかごの守護天使・中段
何度目かの襲撃を無事に撃退したミカは、任務の終了報告を、イクスを介して本部に上げると、交代の人員として訪れた青年に後を託した。
「それじゃ、お先にー」
「はい。後は任せてください、ミカさん」
挨拶を交わした後、空間の一方にポツンとある扉を潜ると、乾いた音を反響させながら通路へと入っていく。
天井部から見下ろす人工の光に照らされながら進んでいく先からは、わずかに湿った空気と独特の鉄錆のような臭いが流れ込み、通路の光源とは別の光源による光も差し込んでいる。しばらく歩くと、それは街の灯りによるものだと分かった。
そのまま出口を抜け、近くにある階段状に切られた均等な段差を使い、街へと向けて降りていく。
「ふぅ……」
ミカは最後の一段を軽快に降りると、今まで通って来た道を振り返る。見上げるほどに高い、遠く向こう側にまで張り巡らされた壁に、存在する階段を。
「私ら『天使』は、体が強化されてるから気にならないけど。本当、直通エレベーターかエスカレーターでも設置してくんないかなぁ?」
そうして彼女は、誰に向けたものでもない呟きを残し、ビル街の雑踏の中へと消えていった。
十数分後。大通りから一度離れ、商業区画の路地へと入ったミカは、その一角に存在するコンビニエンスストアへと真っ直ぐ向かっていく。
そして、自動ドアの横に設置されている休憩用ベンチに座っていた、軍服姿の少女の下へと駆け寄った。
「お待たせ、イクス。そっちも上手く抜けられた感じ?」
ミカは、待っていた少女をイクスと呼び、笑顔を向ける。
「そんなところ。事務仕事は速攻で終わらせてきたから、追加される前にね」
イクスは立ち上がると、愛用の肩提げバッグを確認するように弄った。
「こっちは肉体労働のせいか、そう言う残業はないからなぁ。ある意味新鮮な話なんだよね。あ、別に残業したいとかそう言うんじゃないけど」
彼女のミカが苦笑する。
「あら残念。良ければ具申してあげようと思ったのに」
イクスが冗談めかした言い方をして笑って見せると、ミカの苦笑はより深いものになった。
「残業は、経験しなくて良いなら可能な限り避けたいわね。そう言う感じのものよ。私達は強化されているから、疲労は軽減されているけどね」
その反応を見て、イクスもまた苦笑を浮かべた。
「なるほどねー。でもそのうち、やらされそうな予感はあるんだよねぇ。襲撃の頻度を考えると」
「そうね。こっちもそうならないように祈ってるわ。さて、そろそろ行かない? お腹空いてきたわ」
「オーケー。それじゃあ、ついて来て。この前あった、区画の再開発で道に迷いやすくなってるから」
そう言うと、ミカはイクスを伴い、再び路地の奥を目指して、雑踏に混ざるように歩き始めるのだった。
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