第2話 彼のお仕事

「隊長、お時間です。ご準備よろしいですか」


乃木の声に意識が覚醒する。ああ、そういえば作戦前だった。昔の夢を見ていた。

軍の基地で作戦前の休息をとっていたが眠ってしまったようだ。


「もちろんだ。全員準備いいか」

「さっきまで寝ていた男の言うことですかそれ」


秋葉が最低限の尊敬をこめて馬鹿にしてきた。欅坂はその様子をくすくすと笑いながら眺めている。これから、我々4人の隊は武装グループを襲撃する。

まあ、つまりいつものテロリストお掃除だ。

もはや緊張感のない我々は事務的に作戦を確認し脳内シュミレーションを行う。

そのままの流れで黒い棺桶に入る。この黒い棺桶はで我々の俗称で単純に射出機により目的地に飛ばすことで兵士を個人単位で戦場に送りだすことができる。低コストで素早く隠密に兵士の輸送が可能である。音速を超えるようなスピードで空を駆け抜け、出来るだけ勢いを殺すような角度で地面にたたきつけられるように計算されているが勿論中の人間は無事ですまない。

だが、我々なら大丈夫だ。それこそが我々が兵士として選ばれた理由でもある。

黒い棺桶は4人の兵士をそれぞれ収めた状態で射出された。

目標は何もない荒野である。都市とは比較にもならない。テロリストがこんな地でどのように暮らしているのか皆目見当がつかない。

遥か昔に行われた「全人類都市保管計画」により地球上のあらゆる資源は都市に集められマザーブレインにより管理されている。都市は地球の循環システムを模倣した機能を備えているため、理論上は地球がエントロピーの増大に耐えられなくなるまで暮らし続けることができる。しかしその代償として、都市外の地域は滅びの一途を辿っている。

我々の目的はテロリストを抹殺することではない。保護することだ。そう都市保管計画は全人類なのである。慈悲深きマザーはテロリストも導くべき対象と考えている。つまり、けいっかうはテロリストのせいで道半ばというわけだ。

また、保護という言い方もおかしくもあるが現在、都市の武力とテロリストの武力は蟻と恐竜ぐらいの差はある。我々がいつも苦心するのは相手を殺さないようにすることだ。

ではなぜいまだテロリストに手を煩わされているのかというとある一人の存在のせいである。


荒野の中にぽつんとある集落がある。ただ滅びを待つだけの悲しい場所。

その中の酒場に我々は用がある。

入る前に俺は皆に伝える。


「ここから先は敵の住処だ全員自分の命を一番に考えるように。安全第一だ」


ギシギシとなる木の扉を開き中に入る。


「いらっしゃいませー」


この集落には似合わない明るい声に迎えられる。

ここは旧時代にキャバクラと呼ばれていた場所だ。


「4人だけど空いてます?」

「ええ、こちらにどうぞ。ひさしぶりのお客さんだ」


我々4人の隣にそれぞれ一人づつ女性が座った。

それぞれお酒を頼んだ。


「皆さん、都市の兵士ですよね?」

「ええ、そうですよ」

「じゃあ、こんな僻地になんの任務で?」

「それは秘密ですよ」

「隊長、ここでいつものおもろい話をしてくれよ」


なんて振りしやがる。俺を殺す気か。


「じゃあ、ひとつお話を」

「わー」


「あるところにウサギと亀がいました。二人は大の仲良しでライバルでした。そんなある日二人は山の上まで競争することにしました。足はウサギの方が速かったのでそのうち大分先まで行ってしまいました。もう亀は見えなくなってしまいました。ウサギはこのままぶっちぎってゴールしたら亀との仲が悪くなってしまうかもしれないと思いました。そこで道端で寝たふりをすることにしました。しばらくすると亀が追い付いてきました。亀はウサギが寝ているのをみて疲れて寝てしまったと思いました。このまま、ウサギを抜いていったらウサギは自分の怠惰に悲しむと思いました。なので、亀はウサギのとなりで寝たふりしました。二人はいつまでも寝たふりを続けましたとさ」


女の子はぽけーとしている。客がくそつまらん話をしてどう拾おうか考えている。

ちくしょう、旧世界の話を今風にアレンジした力作なのに。


「わははははは」

「ぎゃははははは」


こいつらしか笑いやがらねえ。皆(女の子を除いて)狂ったように笑いころげている。教育の賜物だろう。

しゃあない、作戦を進めよう。


「まあ、お話は置いといてゲームでもしようか。ダウトって知ってる?この12までの数字それぞれに4枚づつあってそれぞれ4個のマークで区別されてる。それでダウトっていうのはそれぞれカードを裏返して手札から出していく。ここがこのゲームの肝なんだがそのカードが順番通りに出しているかほかの人が当てるんだもし嘘だと思ったらダウトと言う。その宣言があっていればカードを出した人が場にあるカードを手札に加える。手札が最初になくなった人が勝ちだ。まあ、やればわかる」


俺は慣れた手つきでカードを配る。みんなに配った後ゲームを始めた。

秋葉は隣の女の子が出すとダウトと言った。


「嘘じゃないよ」


それは間違っていた。秋葉は場のカードを手に入れる。

また一周。

秋葉はまた


「ダウト」

「もー、ずっと言ってくるね」


今度はあっていた。女の子は場のカードを手札に加える。

もう一周、今度は秋葉は何も言わなかった。

女の子は少し悔しそうだ。ダウトと言ってほしかったのかもしれない。

もう、そろそろかな。俺はウイスキーをちょびっと飲む。

また、もう一周。例の女の子がカードを出そうとした瞬間


「ダウト」


場は静まりかえった。女の子は


「え、まだ出してないんだけど」


頃合いかと俺は思う。俺はカードをテーブルにばらまき最後にウイスキーをまたちょびっと飲んだ。そして、宣言する。


「つまらんからもうやめよう」


乃木が隣に座っていた女性の顔面にひじを打ち込んだ。相当な威力だったようで女性の顔が隕石が落ちた様にめり込んだ。

それと同時に欅坂も隣の女性の頭をつかみテーブルに叩きつける。ぐじゃっと果実を潰した様な音がなり女性は動かなくなった。

俺と、秋葉は隣にいた女性を拘束する。それと同時に俺はカウンターの向こうに現れた武装したバーテンダーを隠してた電気銃で素早く気絶させる。

案外あっけないな。


「ちくしょう、ルナ!キイ!」

「残念だけどもう返事はできないよ」


俺はそう言いながら。カーボン製のナイフで木の柱に女性の手を刺して拘束する。

ガラスをひっかいたような悲鳴が上がる。


「さあ、もう俺達の目的は分かってるだろ。この先にあるテロリスト集団のアジトの場所はもう分かってる。聞きたいことはそこにミュータントはいるか?」


αゲノムを持っているものでマザーブレインの管理下に置かれていない者はミュータントと呼ばれていた。まるで人じゃないみたいだ。


女性は手の痛みで油汗をかき息が荒いがしっかりした声で


「言うと思うかい?」


勿論思ってない。それはさっきのプロファイリングで分かってた。彼女なら拷問の恐怖に打ち勝ってみせるだろう。

それでは続く


「ねえ、今から言うことをよく聞いてくれ。まず一つ、俺たちは拷問なんてしたくない。君が自発的に言ってくれるのが一番いいんだ。拷問なんて見てるだけでつらいし都市に帰ったら長いカウンセリングを受けなくちゃならなくなるからね。さらにもう一つ、これが重要なんだが俺たちは対ミュータント用作戦部隊だ。分かるかな?そもそも、アジトにミュータントがいなかったら勿論問題なんかないし、仮にいたとしても俺達は負けない。君が味方の情報を流そうがどうしようがこれから起こることに変化はないんだ。じゃあ、なぜこんな事を聞くか。それは仕事が楽になるからさ。なあ、君が俺達の仕事を楽にしてくれるって言うなら今すぐ君の手を手当して市民として迎え入れるよ。大丈夫、マザーブレインは人類全てを愛している。なっ、選択しなんてあってないようなもんだろ」

「くたばりやがれ」


俺はため息をつき。いやいや、カウンターのほうにまで歩き、いやいやアイスピックを取り、いやいや彼女の目に差し込んだ。


今度は獣が吠えるような悲鳴が響いた。秋葉が拘束している女性は青ざめた顔でそれを見ている。


俺はいやいやアイスピックを眼球の中で時計回りに回しながら話を続ける。


「なあ、もうやめてえだろ。いいから言ってくれよ。大丈夫都市に戻れば今の眼球よりも性能がいい義眼がもらえるよ。俺達も使ってる。な、答えてくれ」

「く、くた・・ばれええええええ」

「秋葉ああああああ」


俺は叫んだ


「こいつが組織のために死にてえとよ」


「手伝ってやれ」


目に突き刺さっていたアイスピックが眼球上部を突き抜け前頭前野に侵入する。

彼女は人間とは思えない痙攣をするだけの存在になった。


秋葉が拘束している女性に近づく

乃木はカウンターからミルクをグラスに注ぎ持ってきてくれた


「なあ。信じられないかもしれないけど俺達もこんなことはしたくなかった。ほんとだよ。じゃあなんでこんなことになったかというと君たちがそうさせたんだ。そう」


俺は彼女にやさしく語りかけた


「君たちが難しくさせているんだ」


漆月がミルクを彼女に差し上げた後俺は続ける


「なあ、もう一度聞くけど。ミュータントはいるか?」


ミルクを持つ手が震える。逡巡しているようだ。


「おい、いい加減はけよ」


机を強くたたき恫喝する。


「おい、やめろ。でも、確かにそろそろしゃべってほしいな。実はさっきの拷問だけどあれはそんなに苦しいもんじゃないんだ。もちろん、拷問の中ではってことだけど。じゃあ、もっとすごいことっていうと多分君は耐えられないだろうな。きっと」


もうすこしだ


「君には不幸でしかないけど俺達に言わせれば君がしゃべってくれるのがお互いいいことなんだよ。わかるだろ。俺達は拷問なんてしたくない、君もされたくない、君は拷問に耐えられない、もう選択肢なんてあってないようなもんだろ?」


「一人だけいる。少女だって噂、けどそれだけしか知らない。能力はわからない」


女性はポツリとつぶやき目の前のミルクをごくごく飲みほした。


俺達は満面の笑みになった。そうまるで赤ちゃんが生まれたその日みたいに。


俺は心から感謝を述べた。


「ありがとう、それで十分だよ。つらいよな仲間裏切ってるようなもんだからな。でも約束するきっと君の仲間をこれ以上犠牲にしない。彼女らには悪いことしたね。本当に。だけどしかたがないことだったんだ」


そう言って俺達は彼女を連れ敵の本陣に向かった.

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