第40話 エピローグ

「どうぞ、ソリス」


「ああ」


 ミエリィの淹れてくれた紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。


 既にすっかり日常の一部となってしまったミエリィ主催のお茶会。


 メンツが変わることはなく、いつもの5人で他愛のないことを話すだけの時間。


 ミエリィと話をしているとエリスが時々突っかかってくるが、それすらも既に日常と化している。


「今日も旨いな」


「ありがとう!」


 ミエリィの日溜まりのような微笑みが眩しい。


 淹れてくれる紅茶も勿論楽しみではあるが、この笑顔を見るためにお茶会へと足を運んでいると言っても過言ではない。


「それにしても、何度聞いても信じられませんね。

 まさか本当に人族と魔族が停戦する日が来るだなんて」


 ハイトがカップを置きながら言った。


「そうですね。

 しかもその立役者がミエリィちゃんとソリス殿下だというんですから」


「ああ。

 初めて聞いたときは私も耳を疑ったな」


 エルとエリスもハイトの意見に同意する。


 あの日、魔王の停戦の申し込みを受け入れたウィリムス王は、数日後に開かれた人族連合会義にて魔族との停戦を提案。


 大国であるウィリムス王国が後ろ楯となり支援する事で、人族と魔族の合同会議が実現。


 初めは警戒していた人族側であったが、魔族側の申し入れが真実であることを確認すると、それぞれ思うところはあるようだったが、最終的に停戦することで合意した。


 拮抗状態が続き、新たな土地を手に入れることがほとんどできなかった現状、戦線の維持は人族側にとっても負担でこそあれ保つ必要性は少ない。


 魔族との停戦は一部の好戦派を除き、概ね好意的に受け入れられた。


 散っていった仲間の復讐を望む者より、今の仲間を死なせたくない者が多いらしい。


 ちなみにミエリィが魔王と繋がっているという情報は伏せられることになった。


 ミエリィの存在を明るみにしても、ウィリムス王国に旨みがないからだ。


 魔王と接触した方法については、魔王側から人族の大国の1つであるウィリムス王国に橋渡しをするよう接触してきたという筋書きになっている。


 表向きは無関係となったミエリィだが、ウィリムス王は個人的に報奨を与えた。


 本当はウィリムス王国の魔術師や貴族として囲い込みたかったのであろうが、ウィリムス王はソリスの忠告を聞き入れ、無難に金銭の授与のみ行った。


 白金貨を持ち歩いているようなミエリィに今更多少の報奨など必要ないだろうが、国としての体裁を保つために必要なことだと受け入れてもらおう。


 ソリスとミエリィの関係だが、特にこれといった変化はない。


 あの時はソリス自身酒が入っていて冷静ではなかった。


 酔いが醒めた後、自室で枕に顔を埋めて悶えたことは言うまでもない。


 翌日に学院でミエリィと顔を合わせたときは少し気まずかったが、当のミエリィは何事もなかったかのように接してきて拍子抜けしたものだ。


 ひょっとして夢を見ていたのではないかと思ってしまうくらいだ。


 向こうから押し倒してきた来たというのに、気にしているのが自分だけというのは納得いかないが、関係が悪化するよりはよほどマシだろう。


 いつかはこの思いをミエリィに伝える日が来るのだろう。


 だがそれは今でなくても良いのではないだろうか。


 こうして皆とテーブルを囲んでお茶を飲みながら雑談に花を咲かせるという行為も存外悪くないと思っている自分がいる。


 僅か数年の学院生活だ。


 学生にしかできない時間の使い方というものもあるだろう。


 それにーーー。


「そうだわ!

 みんなで魔王の城に遊びにいきましょ!

 凄く大きなお城で、みんなできっと気に入ると思うわ!」


「ちょっと、ミエリィちゃん!

 いくら停戦しているとはいっても、魔族の中にも停戦について納得していない人たちがまだいるだろうから危ないんじゃないかな。

 魔王と友達のミエリィちゃんはともかく、私たちが歓迎されるとは限らないよ」


「そうかしら?

 みんな良い人たちばかりよ。

 時々散歩していると、色々な魔法を見せてくれたり、鬼ごっこやかくれんぼをしてくれるの」


「……それ、敵だと思われて攻撃されたり、追い回されたり、怖がって隠れられているだけなのでは?」


 もっと強くならなければならない。


 ミエリィに振り回されないように。


 ミエリィを止められるように。


 ミエリィの隣に立ちたいと願うならば、ミエリィを支えられるようにならなくてはならない。


 そのためにやらなければならないことは沢山ある。


 この学院でだってまだまだ学ぶことは山積みだ。


「大丈夫よ!

 魔王城に行くといつもお菓子をくれるの。

 とっても美味しいのよ!

 そうね、今日のお茶会の続きは魔王城でやりましょう!

 魔王も誘えばきっと喜ぶわ!」


「そんな、今から魔王城に行くのか?!」


「ほらみんな、手を繋いで!

 ソリスも、はい!」


 満面の笑みを浮かべながら差し出されたミエリィの左手。


 ソリスが苦笑しながら自身の右手を重ねると、温かな手でぎゅっと包まれる。


 今は手を引かれてばかりだが、この手を引く日が来たそのときに……。




 完全無欠少女と振り回される世界~誰かこいつを止めてくれ!!~

 完


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完全無欠少女と振り回される世界~誰かこいつを止めてくれ!!~ 黒うさぎ @KuroUsagi4455

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